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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座42デジタルトランスフォーメーションの実践-目前に迫る「2025年の崖」-

 2018年に経済産業省が『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を発表しました。そして今、まさにその「2025年の崖」まで1年を切っています。「2025年の崖」とは、日本がこのままDXを推進できずにいると国際競争力を失ってしまい、大きな経済損失が発生するというものです。
 
上記DXレポートによると、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了といったリスクが高まり、2025 年以降、最大12兆円/年にのぼる経済損失の可能性があるとされています。
 
「2025年の崖」という言い方からもわかるように、そこには相当の危険が存在し、このままDXに取り組まずに老朽化・複雑化した古いシステムを使い続けていると、システムが動かなくなる、保守してもらえないといった大問題が起きて、とんでもない損失が出るということが警告されていたのです。
 
 しかし、2025年まで1年を切った今、「2025年の崖」問題が解決したような状況になっているとはとても思えません。確かに次々と新たなクラウドパッケージが登場し、アジャイル開発やローコードツールを導入する企業も増えています。その一方、いまだに昔ながらの人手中心の開発方法で巨大で複雑な情報システムが開発され続けています。その様子は2018年の経済産業省がDXレポートに警告を鳴らし続けていた最悪のシナリオどおりなのです。
 
 あらためて、DXレポートが警告を鳴らしていた「2025年の崖」という最悪のシナリオについて見ていくことにしましょう。
 
 一つ目は「DXを推進できずデジタル競争敗者になる」です。複雑・老朽化、ブラックボックス化した古い情報システムを使い続けることによって、業務の作業効率を下げ、デジタル化やデータ活用を進めることが困難となってしまいます。その結果、デジタル競争の敗者になってしまうだけでなく、古い情報システム(レガシーシステム)を維持するコストが高くつき、事業不能リスクも高まるのです。(まさにこうしたシナリオが見え隠れしている企業がまわりにないでしょうか?)
 
 二つ目は「IT人材不足が約43万人まで拡大してしまう」です。多くの企業ではいまだにCOBOL言語やRPGなどの古いプログラミング言語で動くシステムが残っています。比較的新しいと思われるAccessやNotes、javaといったITツールですら、それを扱えるエンジニアは減るばかりです。その一方で、もっと古いオフコンやメインフレームですらいまだに現役です。当然のことながら、古い情報技術を扱えるエンジニアは高齢化し退職していく中で、ITベンダーにもユーザ企業の情報システム部門にも古いシステムがわかるIT人材が減っていくのは自明の理なのです。
 
 そもそもIT人材そのものが不足しているのにもかかわらず、古いシステムの保守運用に貴重な人材が割り当てられてしまうのでは、貴重なIT人材資源を浪費していると言わざるを得ません。IT人材不足がこのまま続いていけば、優秀なIT人材を企業間で取り合うことになっていくことでしょう。(自社の貴重なIT人材が将来明るいITベンダーに転職していくという事態が既に起きていないでしょうか?)
 
 三つ目は「主要なシステムのサポートが次々と終了してしまう」です。「2025年の崖」を深刻化させている大きな原因に、長い期間利用されていた基幹システムなどのサポートが2025年に向かって次々に終了することが挙げられます。ITベンダーのサポートが終了すると、法律などビジネス環境の変化に対応できないだけでなく、システム脆弱性に対するアップデートができないなど情報セキュリティリスクも増大することになります。
 
 さて、2018年に警笛が鳴らされた上記のような「2025年の崖」の最悪のシナリオは、はたして回避されたのでしょうか。私のまわりには担当者自身がうまくいくとは思えないと嘆いているシステム開発プロジェクトの話しがいくつも聞こえてきています。
 
DX(デジタルトランスフォーメーション)についても、単なるデジタルシフトのことと勘違いしている企業が多く、将来の保守が懸念される負のIT資産を積み上げてしまっているところすら見かけます。
 
今ある事業や業務をそのままシステム化するのではなく、余計な機能を捨て去って、スリムなビジネスモデルにしてからデジタル化しなければ、それは「DX推進」ではなく「DXの壁推進」になってしまいます。
 
 今一度、DXとは何か、今までのIT化の何が問題なのかについて、2018年の経済産業省レポートを読み返すところから初めてみませんか。
 
DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html


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