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技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座44デジタルトランスフォーメーションの実践-現状問題に対するIT化と未来課題に対するDX-

 DX-デジタルトランスフォーメーション-は、単なるIT化ではなく製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するものだということはもはや説明不要かと思うのですが、どうやらそうでもないようです。DX事例として多く紹介される「業務の効率化」がDXではないとまでは言わないまでも、もしかするとそれは単なるIT化のことではないかとかんぐってしまいます。

 別にIoTやAIのような最先端のデジタル技術を使わなくても、全社的な組織文化や価値観を変革するような取り組みであれば、堂々とDXであると声高に叫んでもよいと思いますが、既存部署の現行業務に対してどれほどの最新技術を使おうとも、それは単なるIT化にすぎません。

 次回から本連載の最終内容として、国が推進しているDX認定制度について取り上げる予定です。DX認定制度とは「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業を国が認定する制度であり、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が認定審査を行っています。

 DX認定を受けようとする企業は、まず「DX推進指標自己診断フォーマット」による自己診断を行うことになります、これを受けると診断結果と全体データとの比較が得られるだけで、特にDX認定において不利な取り扱いを受けるわけではなく、全体データとの比較においても自己判定が甘い企業が多いため、あまり判定結果を気にする必要はないでしょう。

 自己診断フォーマットの内容を見てみるとわかるのですが、ていねいに答えていこうすると時間がかかり、その個々の質問事項もしっかり答えようとすると相当に準備が必要になるものばかりです。

 私がDX推進しようとする企業に対していつもお勧めしているのが、この自己診断フォーマットの内容について深く理解した上で、本音ベースで自己評価してみることです。自己診断フォーマットの内容について詳しく紹介するのは次回以降にするとして、今回、お話ししたいのが、この自己診断フォーマットをしっかり読めばDXは決して単なるIT化を求めているのでないということがすぐにわかるはずだということなのです。

自己診断フォーマットの最初に、「データとデジタル技術を使って、変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか、社内外でビジョンを共有できているか。」という質問が出てきます。そして二つ目に、「ビジョンの実現に向けて、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するために、組織整備、人材・予算の配分、プロジェクト管理や人事評価の見直し等の仕組みが、経営のリーダーシップの下、明確化され、実践されているか。」という質問が出てきます。

 要するに、DXで求められているのは現状改善のためのIT化ではなく、未来に向けたビジョンを実現するためにデータとデジタル技術を使えと言っているのです。そして、自己診断フォーマットは出だしからとんでもなく大変なことを要求しているということを気づいていない人が不思議と多いのです。

 現行業務の改善のためにIT活用するのは、決してDXではありません。現状にとらわれず、未来のあるべき姿を実現するためにデータとデジタル技術を使うのがDXです。言い換えれば「今ある問題の解決」のためではなく、「未来に向けた課題の解決」のための活動だからこそ「トランスフォーメーション」と呼べるのです。

 DXだからといって必ずしも高度なIT化を求められているわけではありません。単なる事務の効率化にすぎないことでもかまわないのです。ただ、それが何のために行うのかが問題であり、現状問題の改善ではなく、新たな顧客価値を生み出したり、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するものであるかどうかが重要なのです。

 現行業務の改善のためのIT化を進めること、あるいは助言、支援することはDXではありません。それは日本の企業のデジタル化を遅らせ、古いビジネスモデルやシステムに束縛させてしまう負の活動です。DX推進に関わる方は決して間違わないようにしてください。

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