技術士(経営工学・情報工学)が教えるDX(デジタルトランスフォーメーション)講座15 デジタイゼーション(デジタル化)の実践-書きすぎ書かなさすぎの既存帳票を見直そう-
さて、今回からはDXデジタルトランスフォーメーションの実践編に入っていきます。その最初はデジタイゼーション(デジタル化)の実践についてです。デジタイゼーション(デジタル化)は手書きしかできなかった昔と違って、電子メールやWebサイト、会計データ、会議資料など多くの情報が既にデジタル化されています。
脱ハンコまで叫ばれる今日においては、デジタイゼーションの重要性をDXとして強調する必要はないようにも思えます。しかし、デジタイゼーションは簡単にできてしまうがゆえの危険性があります。デジタルにはアナログ(手書き)ほどの自由さがないため、様々な不都合が起きてしまうのです。さらにやっかいなことに、昔ながらの手書き時代を知る人が少なくなっていく中で、その不都合に気づきもしない人が増えています。
よく見かけるデジタイゼーションの不都合は、情報の欠落と変質です。選択したいコードや候補がないため、入力しない、違うものを選んでしまうというものです。アンケートに回答した経験のある人ならば思い当たることがあるのではないでしょうか。デジタルデータは分類や集計、検索といった情報処理に適するため、間違ったデータ入力はその後の大きな業務ミスへと結びついてしまいます。これは私が経験した実例ですが、必要なコードがないために、普段使っていないコードを読み替えて入力していたというケースがありました。当然、その現場だけでは意味がわかるだけで、全社集計していた本社部門が気づけるはずもありませんでした。
次によくあるデジタイゼーションの不都合は、過剰な入力負担です。これもアンケートでもよく見かけますが、データ入力者へ作業負荷を考慮せず、とにかく欲しいと思うことは何でも入力させようとするものです。利用目的もなく、とりあえずデータを取っておこうという短絡的な考えのために、私達は何度も何度もデータ入力を強いられているのです。そのような無理強いしたデータに品質を期待することはできません。必要なデータであっても、IoT機器やスマホなどセンサーからデータを自動収集することによって、過剰な入力負担がないようにするべきことは当然のことでしょう。
Kintoneなど紙の帳票をデジタル化して、タブレットなどからクラウド上のデータ登録できる便利なツールも次々と登場しています。しかし、デジタイゼーションの仕事をITに強いからといって、若い社員に任せるのは間違いです。むしろ、紙の帳票の意味をよく知る業務のわかる人をアサインすべきです。紙資料のデジタル化がDXとしてのデジタイゼーションと呼べるのは、業務革新につながるからです。ただ単にうちもKintoneを使ってますというのではデジタイゼーションではありませんし、むしろ、情報の欠落と変質、過剰な入力負担といった業務の劣化を引き起こしてしまう可能性すらあるのです。
Excel資料では作り込みすぎて作成者しか使いこないということが、あちらこちらで起きています。その作成者が移動したり退職すると、仕事を引き継いだ人がExcel資料の意味がわからず、また一から作り出してしまうのです。Excelを使ったデジタル化は、誰にも相談ぜす(関連部署や上司、部下に対してさえも!)、自分一人でできてしまいます。DXの本質は全体最適、顧客視点による経営や業務のイノベーションだったことを思い出していただければ、いかに属人的なExcel利用が危険であるかについておわかりただけるでしょう。
Kintoneなどローコード/ノーコードツールも同じです。ITに強い社員に任せっぱなしにするのは、DXの反対を進むだけです。むしろ、紙の帳票やExcel資料のタイトルや項目名の意義を一つ一つ確認しながら、業務上の価値、特に顧客価値を生み出しているのかについて議論することが大切です。ベテラン社員であっても、社内業務の全てについて理解できているとは限りません。長年見直されてこなかった当たり前の帳票こそ改善の余地があるかもしれません、本当に意味のあるデジタル化を時間がかかってでも地道に進めていくことが、結局、DXの取り組みにおいて一番大切なことである―改革できるDX人材―の育成に結びつくのです。
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