【ネタバレあり】Geminism〜げみにずむ〜 感想
幸せとは何か。
生や死と同じくらい永遠のテーマだと私は思います。
隙あらば自分語りで恐縮ですが、私は毎日食べるものや着るものにそれほど困ることもなく、寒さや暑さ、雨風をしのげる家に住んでいます。現代日本ではごく普通かもしれません。
普通とは何でしょうか。普通であることと幸せであることは必ずしもイコールではありませんが、今の私は客観的に見て「普通に」幸せとも言えるはずです。
普通とは。幸せとは。そして「普通の幸せ」とは。『げみにずむ』をプレイしながら、そしてプレイし終わったいまも、そのようなことばかり考えています。
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成人向けADV『Geminism~げみにずむ~』の舞台は東京。廣杣桔梗と廣杣深紅、双子の姉妹はひょんなことから、山家淡墨・月城月白というふたりの男たちが見守る(?)中、新月の夜に毎月「仕合わせ」という物理バトルをすることになります。
目的は互いの体の奪い合い。勝ったほうは相手の体の一部を自分の体にすることができます。彼女たちは体のパーツを全て揃え、見事「五体満足」になるまで、えげつなく血みどろのバトルを繰り広げることとなります。
※以下ネタバレに配慮していません! 公式資料集の情報も入ってます! 未プレイの方はお気を付けください。
廣杣桔梗という「少女」
ルート分岐がなく、桔梗シナリオ→深紅シナリオ→淡墨と月白シナリオと進んでいく本作。このシナリオバランスが本当に絶妙でした!
まずは怪しい包帯男・淡墨さんと清貧極まれりな生活をしている桔梗ちゃん目線で進む彼女のシナリオ。読み進める中で、「深紅はずるい」という感情にどうしたって共感します。
戦わなくてはいけないのにお金がない。武器も満足に揃えられない。深紅は月白さんに何でも買ってもらえている。デートまでしている。ずるい。桔梗ちゃんが見る深紅・月白の暮らしは、それはそれは優雅で、贅沢で……
桔梗ちゃんを思う上で私が語りたいのは「仕事」についてです。
淡墨さんはその風体ゆえ、外に仕事をしに行くことも難しく内職で生計を立てています。桔梗ちゃんはそんな淡墨さんの内職仕事を手伝い、彼から少しばかりではあるもののお給料をもらっています。
桔梗ちゃんの憧れは、いつだって優しくて綺麗なお母さん。毎日ご飯を持ってきてくれる大好きなお母さん。お母さんみたいに、自分も「仕事」をしている。そのことに心から喜ぶ桔梗ちゃん。
これまた隙あらば自分語りですが、今現在鬱で休職している自分にとって、彼女の姿勢はあまりにも眩しく尊いものに見えました。
淡墨さんとの生活の中で思い描くようになった「好きな人と結婚する」という、ひとつの幸せの形。その願いこそ叶いませんでしたが、狭い世界で生を終えるはずだった「少女」が夢見た甘くてしあわせな未来を、私は思い描かずにはいられません。桔梗ちゃん、恋する乙女可愛いよ……
廣杣深紅という「少女」
二周目、深紅ちゃんシナリオを読み進めることで桔梗ちゃん目線では見えなかった双子の過去、真実をプレイヤーは追体験します。一周目では突拍子もないもののように見えた無理心中も、深紅ちゃんの心境や桔梗ちゃんへの想いを鑑みれば切ないものです。
前述の通り、内職で何とか暮らしている桔梗・淡墨コンビに比べると、格段に裕福で何不自由ない生活を送っている深紅ちゃん。彼女と生活を共にする月白さんもその美貌と人懐っこい性格で、人気メンズコンカフェ店員としてバリバリ稼いでいるようです。
食事は基本レンジで温めるだけのやつ(noshみたいな?)、もしくはウーバー、それかコンビニで買ったもの。洗濯機は乾燥までぜんぶ済ませてくれるドラム式。部屋は広々、大きな窓からは街が見下ろせ、深紅ちゃんは王子様みたいな月白さんにかわいい子猫を贈られ、素敵なワンピースを買ってもらって……
端から見ると深紅ちゃんの暮らしは、分かりやすく幸せの形をしているのかもしれません。物質的に満ち足りていて、生活必需品も仕合わせの武器も潤沢。スタンガンに拍車付きの靴、果てにはトカレフまで出てきちゃったり。
それでも深紅ちゃんは、広いお風呂が苦手なんです。広くて居心地が悪くなるのです。もしかすると、姉妹ふたりきりで過ごしていたあの狭く閉じた部屋のほうが、彼女はより幸せを感じていたのかもしれない。酷いことをする大人もいますが。
それでも、彼女の視界は広がっていきます。初めて図書館に出かけて、この場所は好きだと思った桔梗ちゃん。司書さんにかけられた言葉。ちなみに私がげみにずむで一番好きなシーンは、この深紅ちゃんが図書館に本を読みに行くシーンです。
月白さんとの間に芽ばえる、ちょっと不思議な信頼関係。どこかいつも諦めていた深紅ちゃんが「月白のために戦うのもいいかな」と思ったとき、彼女の世界はたしかに成長しました。
私、不完全なシンメトリー
彼女たちは元は、頭がふたつ、体がひとつの結合双生児です。座敷牢のような小さな部屋に閉じ込められ、育てられた「忌み子」。
淡墨と月白に「分けられた」ことを「普通になれた」「ふたりになれた」と言う桔梗ちゃんの言葉を、深紅ちゃんはすんなり受け入れることができません。私たちはひとりだったはずなのに、という深紅ちゃんの心がシナリオのあちらこちらからバシバシ感じてビックリするくらい刺さりました。
仕合わせは最後は、桔梗ちゃんの勝利で幕を閉じます。しかしながら五体満足揃ったあとに残されたのは「桔梗」でも「深紅」でもない女。資料集によると「彼女たちの母親に似ている女」とのことなので、本当に全くの別物のような女性なのでしょう。
ああ、彼女たちは互いに切っても切れない存在だったんだなと思いました。切り離された時点で桔梗ちゃんと深紅ちゃんはもう真の意味では元には戻れず、遅かれ早かれ消えてしまう運命だったのかもしれません。
ひとつの存在になるその瞬間、ふたりは最後の会話をします。意識が溶け合い、記憶も溶け合い、桔梗ちゃんは「ごめんね」を言い、深紅ちゃんは「大好きだよ」を言います。膝を抱えて目を閉じたふたりのシンメトリーは絵画のように美しいものでした。
彼らも不完全なシンメトリー
結局淡墨と月白って何だったの? 彼女たちを戦わせていたのは何が目的なの!? が解き明かされるのが、桔梗・深紅シナリオをクリア後に現れる淡墨・月白シナリオです。
双子姉妹の仕合わせが終わったあとの後日談でもあり、ふたりの男の種明かしでもあるこのシナリオ。短編ながら満足感はすごかったです。多分こういうことなんだろうな……でも明言はされてないしな……をしっかり明言してくれたのも嬉しいポイントでした。
結論から言えば、彼らも元は結合双生児。それもおそらく平安時代あたりから生き続けている不老不死のような存在で、今回の廣杣姉妹のように互いの体を奪い合う仕合わせを続けていました。淡墨いわく「不死合わせ」らしいですが、この言い回しもダブルミーニングでかなり好きです。
彼らの仕合わせはまだまだ続くよ! という所でシガーキススチルがドンと出現、クレジットが流れます。すごいなと思いました。これが令和の美少女ゲームなんだ!!
しあわせに、なりたい
桔梗ちゃんは幸せになりたいとずっと思いながらも、ふたりでいるだけで幸せだったのかもしれないと思い返します。
深紅ちゃんはふたりがひとつであることが正しいと思っていて、分かたれてまで手に入れる幸せとは? と懐疑的でした。
「幸せは人の数だけある」とはよく言ったものです。淡墨さんは本気で桔梗ちゃんと結婚しようと思っていたし、月白さんも深紅ちゃんとお揃いのエプロンを買いました。それもひとつひとつ、幸せの形をしているように私には思えます。
ところでこのゲーム、最高なことにフルボイス。普段は長台詞などを飛ばしがちな私ですが、ことげみにずむにおいてはぜんぶしっかりと拝聴しました。それくらい彼女ら彼らの感情の入りっぷりが素晴らしい!! もしまだプレイされていない方はぜひとも耳から目から『げみにずむ』を味わって欲しいと切に願います。