北陸を応援するはずが…支援割が引き起こした混乱と失望
能登半島地震の復興を目指して始まった「北陸応援割」は、一見すれば地域経済への強力な後押しと映る。だが、実際には、この支援策が持つ予期せぬ副作用が、私たち地域の人々にとっては苦痛以外の何物でもないことをちゃんと知ってほしいと思い、この記事を書いた。
正直に言うと、こんな形の支援はいらなかった。割引金額があまりにも大きすぎる。確かに、表面上は客を引きつける力はある。しかし、それは同時に、品質よりも価格を追求する客層を増やし、結果として客筋を悪化させることにも繋がっている。なぜもっと少額の割引で、長期的に持続可能な観光客の流れを作り出さなかったのだろうか?
この支援策が現場にもたらした実際の影響は、期待とは裏腹に、多くの事業者を苦しめる結果となった。
まず、割引システムのアナログさに閉口する。現代の技術がもたらす便利さを享受できる時代にあって、このように手間のかかるシステムを利用することが、なぜ必要なのだろう?オンラインで簡単に予約でき、確認できる仕組みがあれば、多くの混乱や不満は避けられたはずだ。
ホテル八木では、支援割の予約開始に備え、オンライン予約の強化と事前の告知に力を入れていた。しかし、その努力も虚しく、予約受付開始早々にサーバーはダウン。電話回線もパンク状態に陥り、開始からわずか10分で予算額をオーバーするオンライン予約が殺到し、キャンペーンは終了を迎えた。
終了後の電話対応は、ほぼ電話がつながらないというクレームが相次ぎ、ホテル側はこの非常時においても適切な顧客対応を取ることができなかった。
さらに、現場の苦悩を深める要因として、キャンペーン該当者のデータを県独自のシステムに手入力で入力するという煩雑なオペレーションがあった。この手間のかかるプロセスは、特に予約が殺到した際に、事業者にとって大きな負担となり、現場の疲弊を加速させた。
事業者が直面するもう一つの大きな課題は、キャンペーンの補助金の入金が約2か月後になるという資金繰りの問題だ。この遅延は、特に小規模な事業者にとっては、運転資金の確保という点で大きな負担となる。キャンペーンを通じて一時的に売上は上がるものの、その利益を手にするまでに時間がかかりすぎるのだ。
芦原温泉旅館協同組合と福井県観光連盟によるエリアPMSの導入により、予約状況がリアルタイムで把握できるようになっている。このシステムの導入により、この支援割の皮肉な結末が明らかになった。
下記のグラフを見て頂きたい。
対象期間の予約売上をむしろマイナスに押し下げるというものだった。この事実は、地域を支援するという名目の下に進められた策が、実際には地域の宿泊業界にとっては逆効果であったことを示している。
2月23日から3月1日までは、キャンペーンを期待し予約売上は伸びるものの、事前予約が対象外とわかるとキャンセルが相次いだ。
キャンペーン開始の3月8日以降もキャンセルが続いている。
GOTOトラベルでの経験を踏まえれば、なぜ同じ愚策を繰り返してしまうのか、不思議でならない。過去の政策から学ぶべき教訓があるはずだ。北陸の観光を本当の意味で応援するためには、地域の実情に合わせた、持続可能な支援が必要だ。それには、一過性の割引キャンペーンではなく、長期的な視点を持った政策が求められている。
メディアも、この事実をもっと広く伝える責任がある。一方で、消費者も、観光業の現実をもっと理解する必要がある。観光業は慈善事業ではなく、適正な価格で適正なサービスを提供するためには、事業者の健全な資金繰りが不可欠である。安価な宿泊を提供することは、現実的には不可能である。今こそ、適正な価格で適正なサービスを提供する体制を見直し、それを理解し支えていくことが求められている。
北陸地方の魅力を国内外に発信し続けるためにも、もっと現実的で、地域に根差した支援策が求められている。そして、その過程で、地域経済を本当の意味で支え、豊かにすることができるようになることを切実に願っている。北陸の観光を真に応援して欲しいのだ。