政治講座ⅴ1848「秦が中国統一後に15年で滅亡したように歴史は繰り返される」
秦が中国統一し、その後15年で滅亡した要因は宦官の趙 高の権力濫用による。有名な言葉に「指鹿為馬」がある。要は庶民の生活を顧みない政治を行ったことに起因する。秦が中国統一するまでは優秀な人材を他国から広く募集するなどして、法による信賞必罰で国が栄えた。統一後に権力の濫用がはじまり、民に重税を課し、以前と真逆の政治を行い、天下に満ちた怨嗟を起こし、陳勝・呉広の乱の挙兵をきっかけに、枯野へ火を放ったように一気に全土での反乱として現れたのである。
翻って現代に中国の政治・経済・軍事を俯瞰すると、各地で不満のある民衆によるデモが起こり、全土での反乱に近いデモは警察により鎮圧されている(隠蔽され報道されないのである)。そこで、金持ちは防衛策として外国に脱出して逃げ出している。習近平氏は海外投資を切望しても反スパイ法などで真逆の政策を実施して、握手を求めながら足蹴りをしているようである。まさに、滅亡の轍を踏んでいるようである。そして、中国は独裁政権化して周りの意見を聞かない「論語読みの論語知らず。禮之以和為貴」のようである。呵々。
今回はそのような報道記事を紹介する。
皇紀2684年7月9日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
滅びの兆候
加速する中国人富裕層の海外移住、膨大な資産も流出
Milton Ezrati によるストーリー
俗にいう「スマートマネー」が中国から流出しつつある。かつてないほど多くの中国の富豪が母国を後にしており、今年は1万5200人が他国へ移住すると見られている。
投資移住コンサルのHenley & Partners(ヘンリー・アンド・パートナーズ)は中国の富裕層の投資移住を追跡しており、今年の移住者は前年の1万3800人を1割ほど上回ることが予想されると指摘している。香港を離れると見込まれている500人程度の富裕層を加えると、投資移住の加速はさらに劇的なものになる。
移住者の大半が米国やシンガポールに向かう。移住に伴って持ち出す資産の額を証明する方法はないが、過去の傾向からHenley & Partnersは1人あたり3000万〜10億ドル(約48億〜1610億円)相当と推定している。
予想されるように、移住を決めた人々が語る国外脱出の理由はさまざまだ。だが、大半の人が中国の現在の経済状況が暗に示す不確実性と、そうした不確実性により安定した投資収益が今後見込めないことに言及している。現在も続く不動産危機と不動産をめぐる混乱が不確実性の評価に大きく影響している。特に、不動産価値の下落が世帯の資産を目減りさせ、それにともない中国の経済成長の見通しに疑問を残しているためだ。
また、移住の理由として格付け会社のムーディーズとフィッチによる中国の信用格付け見通しの引き下げに言及する人もいる。引き下げの理由は明言されなかったものの明らかだ。習近平国家主席が過去に民間企業や資産家に対する取り締まりを強化する姿勢を示していたからだ。
シンガポールは長い間、中国の富豪が好む移住先だった。だが最近、同国は中国からの資産の流入に対する監視を強化している。隠すものが何もない人たちでさえ、逃避先のシンガポールで現在暗黙の了解となっている煩わしさやプライバシーの喪失を避けたいと思っているかもしれない。
カナダと米国は、今後も中国人が資産とともに移る人気の行き先だろう。アラブ首長国連邦も好まれている。同国では個人所得税はない。また、贅沢な暮らしや、簡単かつ密やかな投資資金の移動を可能にする、いわゆる「ゴールデンビザ」を提供している。日本も中国に近いこと、魅力的なライフスタイル、そして世界で最も安全な国の1つであることから人気の移住先となっている。
公平を期すために言っておくと、富豪らが流出しているのは中国だけではない。韓国と台湾でも起こっている。韓国と台湾の場合、経済よりも安全保障が大きな懸念事項となっている。韓国にとっては、好戦的な北朝鮮が大きな脅威だ。台湾の富豪らは、中国が軍事力をちらつかせていることから自身や資産、家族を懸念される危険から遠ざけようとしている。特にドナルド・トランプが米大統領の座に返り咲いた場合、米国は台湾を防衛するのかという疑問が間違いなく影を落としている。
中国を注視している人々は、中国の富裕層の移住に関するニュースから2つのメッセージを読み取ることができる。1つは、習近平の経済運営は明らかに否定的にとらえられていること。もう1つは、影響を測る方法はないものの、国内経済を活性化させるための中国政府の取り組みが富豪の資産の流出で一層困難なものになるということだ。(forbes.com 原文)
独裁政権に送る言葉
「和をもって尊しとなす」を送る
「和をもって尊しとなす」の語源は中国の書物であり、原文は漢文です。
『論語』と『礼記』の2つの書物に、「和をもって尊しとなす」の文言が記載されています。
「和をもって尊しとなす」の出典1『論語(ろんご)』
「和をもって尊しとなす」の出典のひとつである『論語』は、孔子と弟子の問答集の体裁になっています。孔子だけでなく弟子の「有子(有若)」と「曾子」の言葉も収録されている、中国の儒教の根本文献です。『論語』には、有子の言葉としてこう記載されています。
「禮之用和為貴」(礼は之和を用って貴しと為す。)
「和をもって尊しとなす」の出典2『礼記(らいき)』
「和をもって尊しとなす」のもうひとつの出典である『礼記』は、中国の儒教の経書である五経のひとつで、礼の倫理的意義を解説した古説を集めています。『礼記』には、こう記載されています。
「禮之以和為貴」(礼は之これ和を以て貴しと為す。)
「和をもって尊しとなす」の日本における出典3『日本書紀』
「和をもって尊しとなす」の日本における出典『日本書紀』には、十七条憲法を聖徳太子が起草したことが書かれています。具体的には、推古天皇12年(604年)の4月3日の項の記載に、「皇太子親(みずか)ら肇(はじ)めて憲法十七条憲法を作りたもう」とあります。
聖徳太子の「和をもって貴(とうと)しとなす」の真意
2018-12-18
聖徳太子の17条憲法の「和をもって貴とうとしとなす」の真意に迫る!
聖徳太子の十七条憲法で最も有名な「和をもって貴とうとしとなす」は、全く誤解されて認識されている言葉の一つといえる。一般的には「みんな仲良く」と言った文脈で理解される事が多い。しかし、それについて勉強することで意味が全く違うことを気づかされた。全文を見ながら、聖徳太子の考えをまとめてみた。是非、ご覧を。
1.聖徳太子と十七条憲法(604年)
最も古い「憲法」と言われるものが、聖徳太子の「十七条憲法(じゅうしちじょうけんぽう)」である。
聖徳太子の偉業は大きく、いくつもあるが、その偉業の柱の一つが十七条憲法である。ここでは聖徳太子と時代背景を簡単に触れるのと、十七条憲法に絞って記述したい。
聖徳太子の時代(574年~630年)は、飛鳥時代で、日本の国を形作る上で重要な頃であった。大陸のChina(中国)では「隋(ずい)」という強大国ができ、そのせめぎ合いも激しかった。遣隋使を送っていたが、隋の皇帝「煬帝(ようだい)」に対して送った国書により、煬帝ようだいを激怒させている。
日出(いず)る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙(つつが)なきや。
煬帝ようだいがこれを見て激怒したのは「日出ずる国より」とあったからではない。国書に「天子」という言葉が日本に対して使われていたことにある。これは、皇帝と同じ位置にあることを表現していて、太子としては、日本の位置づけを高めることを狙っていた。当時、隋は朝鮮の高句麗と戦っていたため、隋は戦争をできる状態に無いことを知った上での国書である。それほどまでに、日本という国の確立に腐心していた。
こうした「国体」を強く意識した中で作られたのが「十七条憲法」である。添付の表は、すべての条文の抜粋とその部分の現代語訳である。
これが6世紀の、すなわち1500年以上も前に定められたものかと、感嘆する。今でも十分通じる内容と思う。
もともと「十七条憲法」は、役人が守るべきことをまとめたものである。日本最古の「成文法」と言われる。読んでみると内容は深いので、じっくり読んでみたい。
なお、西暦だけで計算すれば聖徳太子はこの時30歳。いかに若くして国を引っ張っていったか、またその深い内容と考えに、現代人としても深く感じ入る。
先の添付の全条文はあくまで条文の文言を抜粋したものなので全容ではない。一つ一つの条文には全文がある。それを見ると、更に深い内容に驚く。また、意味が違う形で知られているものも多い。
2.「和をもって貴とうとしとなす」の真意
ここで、最も有名な第1条の「和をもって貴とうとしとなす」を掘り下げてみてみたい。よく言われる「和をもって貴とうとしとなす」は、十七条憲法の第一条を部分的に取り出したものである。全文ではない。
では、全文を見てみたい。
第一条「和を以て貴とうとしとなす」の全文
【全文の読み下し文】
一に曰いわく、和を以もって貴とうとしとなし、忤さからうこと無きを宗むねとせよ。人みな党たむらあり、また達さとれるもの少なし。ここをもって、あるいは君父くんぷに順したがわず、また隣里りんりに違たがう。しかれども、上和かみやわらぎ下睦しもむつびて、事を論あげつらうに諧かなうときは、すなわち事理じりおのずから通ず。何事か成らざらん。
【現代語訳】
和というものを何よりも大切にし、いさかいを起こさぬように心がけよ。人は仲間を集め群れをつくりたがり、人格者は少ない。だから君主や父親にしたがわなかったり、近隣の人ともうまくいかない。しかし上の者が和やかで下の者も素直ならば、議論で対立することがあっても、おのずから道理にかない調和する。そんな世の中になると何事も成就するものだ。
上記の通り、太子のいう「和を以て貴とうとしとなす」とは、単に「争いごと無く、仲良くしよう」というものではない。「和」とは「調和」のことである。その上で、たとえ対立があっても上の者が「和」を重んじ下の者がそれに倣えば「調和」に至る、と説いているのである。更に、そうした「調和」ができる世の中であれば何でも成就する、と言っている。
みてのとおり、決して「みんなで仲良くしましょう」などという文ではない。互いの違いがあっても「和(調和)」に至ることが大切であると説いている。それを、特に上の者は目指すことを説いているのである。
「仲良く」と説いているわけでは無く、いかに「調和」に至る努力が重要か、そしてその「調和」ができれば世の中は何事も成就する、という力強い条文である。また、それが第一条に来ていることに、聖徳太子の強い意志が現れていると思う。
3.古事記の「天岩戸(あまのいわと)」の話と「和をもって貴とうとしとなす」
ページ目次 [ 開く ]
少し話はそれるが、古事記にある「天岩戸(あまのいわと)」の話に触れたい。天岩戸の話は有名な話だが、単なる物語ではないようである。当時の時代背景や、その出来方を見ていくと、非常に重要なメッセージが込められている物語であることがわかる。
非常に簡単にではあるが、天岩戸の「岩隠れ」の話を紹介したい。
天照大神(あまてらすおおかみ)の岩戸隠れ
神様の国で、弟の須佐之男命すさのおのみことの悪行にたまりかねた姉の天照大神あまてらすおおみかみ(以下「アマテラス」)は、岩に入って閉じこもってしまった。アマテラスは太陽の神様のため、それにより神様の国は真っ暗となり、神々は困ってしまった。
そこで皆で集まり協議した。結果、知恵者の思金神おもいのかねが中心となり、それぞれの役割を決めた。女神である天宇受売命あめのうずめのみことに裸踊りをさせて大騒ぎをして、アマテラスがそれに惹かれて岩戸を開けたら、天児屋命あめのこやねのみことと布刀玉命ふとだまのみことが鏡(八咫鏡やたのかがみ)を用いて誘い出し、力持ちの天手力男神あまのたじからおがアマテラスを出して岩を閉じる、というもので、見事その通りになり、アマテラスは以後岩戸に閉じこることはなくなった。
実際の話はもっと詳細であり、生々しくて面白い。興味のある人は是非見てもらいたい。
古事記についてはいろいろな解釈があるが、一つの例として、古事記がこれにより表現したかったことは、これが日本最古の「国会」であると理解されている。話し合いによって物事を決めて、役割分担をしっかり担うことでことが事が成就する、ということを物語で表現しているという。
まさに、聖徳太子の「十七条憲法」の第一条の「和を以て貴とうとしとなす」と意味が一致する。
違う時代に作られたものが、ここまで一致することに驚く。古事記が変遷されたのは、712年で、聖徳太子の時代(574年~630年)から100年近く後である。変遷したのも、聖徳太子とは関係の無い太安万侶(おおのやすまろ)であるにも係わらず、このように変遷されている。
4.「和をもって貴とうとしとなす」と聖徳太子を見て
このように、「和を以て貴とうとしとなす」は、単なる「皆で仲良くしていこう」というものではない。『議論を尽くして物事を決めていき、それにより「調和を形成する」こと』を解いている。より現実的で、実際の場面を考えた場合の行動指針のような要素を含んでいる。
聖徳太子が伝えたかったものが十七条憲法であるとすれば、その第一条にあるこの文章が最も重みがあるといっていいと思う。それにこのような意味があることは、深く心に刻んておきたい。
現代社会においても、管理者のみならず人の生き方として十分意識すべき内容と思う。日本の出発点からの「教え」として大切にしていきたいと思う。
中国からドン引きする事件を解説
日本人母子襲撃だけではない…!いま中国社会で多発している「傷害事件」がもたらす「国民感情の悪化」と「憎悪の扇動」
柯 隆(東京財団政策研究所主席研究員・静岡県立大学グローバル地域センター特任教授) によるストーリー
どうなっている?中国の治安
さる6月24日、中国蘇州市で日本人母子が襲撃された事件があって、日本で大きく報道されている。一般的に日本人が抱く中国の印象は治安がそれほど悪くないと思われている。だがなぜこのような事件が起きたのだろうか。
とくに、この事件で注目されているのは日本人母子が襲撃されたとき、犯人を制止しようとした中国人女性が刺され死亡したことだった。
事件が発生してから、中国政府はこの事件が偶発的なものとのコメントを発表した。実は、同じ6月に、吉林省の公園でアメリカ人教員4人が襲撃され、負傷する事件が起きた。わずか1か月のうち、外国人が襲撃された事件が2回も起きた。「治安が悪くない」と思われている中国で何が起きているのだろうか。
経済急減速、雇用悪化
振り返れば、中国経済が高度成長期をピークアウトしたのは上海万博が開かれた2010年ごろだったとみられている。習近平政権が正式に発足したのは2013年3月だった。それ以降、中国経済は徐々に減速したが、とくに2020年からの3年間、中国経済はマクロ経済統計以上に落ち込んでしまった。たとえば、中国政府の発表では、2023年、中国経済は5.2%成長したといわれているが、アメリカのラジウムグループの検証によると、実際は1.5%程度しか成長しなかったといわれている。
中国経済が急減速した背景に、3年間のコロナ禍に実施されたゼロコロナ政策によって数百万社の中小零細企業が倒産し、若者を中心に雇用が悪化したことがある。失業率が急上昇したため、家計の消費性向が低下し、景気が一段と減速した。
実は、中国は所得格差の大きい国である。経済が上り坂にあるとき、所得格差が大きくても、社会不安などの副作用が出てきにくい。なぜならば、経済成長が続く局面において、低所得層の可処分所得は高所得層に遥かに及ばないが、それでもいくらか増えるためである。しかし、景気が急減速すると、低所得層を中心に生活が困窮してしまうため、犯罪が多発するなど社会不安が深刻化しやすい。
とくにコロナ禍と重なって、中国では、不動産バブルが崩壊した。住宅ローンや自動車ローンを抱える若者は失業した場合、社会で孤立し、犯罪に走りやすい。普通であれば、失業して、住宅ローンを返済できなくなっても、自己責任である。しかし、中国で不動産バブルが崩壊して、デベロッパーはマンションの建設を途中で中止してしまったケースが増えている。これらの建設途中のマンションを買った個人は物件の引き渡しが行われていないが、住宅ローンがすでに実行されてしまったことが多い。
すなわち、マイホームに入居できる見込みがないなかで、ローンの返済を迫られている。さらに、不運な人の場合、失業も重なれば、途方に暮れてしまう。このような個人に対する救済措置が講じられていないため、犯罪が多発してしまう。
中国人同士の傷害事件は外国メディア報道せず
仮にこれらの個人は矛先を政府やデベロッパーに向けると、治安警察に連行される可能性が高い。中国では、軍事予算が年々増えているが、実は、それ以上に増えているのは治安維持予算である。これらの予算は住民などの抗議活動を力で抑えるためのものである。
結果的に住民たちは連携して抗議活動を展開することができないため、個別に犯罪に走ることが急増している。中国で起きる傷害事件は決して偶発のものではなくて、かなり高い頻度で起きている。ただし、中国人同士の傷害事件の場合、外国メディアがほとんど報道しないため、広く知られていないだけである。
一連の外国人襲撃事件の後、日本のインターネットSNSでネットウヨと呼ばれる人々の過激な書き込みが散見される。中国のSNSでも反日や反米の書き込みや動画がたくさんアップされている。これらのヘイトスピーチは相手国に対する国民感情を悪化させるだけでなく、自国民の間で憎悪を煽ってしまうことになりかねない。
今回の襲撃事件が日本人やアメリカ人を狙ったものかどうか定かではないが、中国人同士の襲撃事件に比べ、影響が遥かに大きいのである。
日本人母子襲撃事件で「反日書き込み」を削除…!中国がいまもっとも恐れている「最悪の事態」
柯 隆(東京財団政策研究所主席研究員・静岡県立大学グローバル地域センター特任教授) によるストーリー
当局が「激しい」SNS書き込みを削除
そもそもなぜこのような事件が起きたのだろうか。
失業率の上昇により不穏な空気が漂っているが、中国で包丁などを購入するとき、実名制が取られ、身分証明書が確認される。昼間に包丁またはナイフを持ち歩くというのは普通のことではない。仮に計画的な犯行ではないとすれば、鬱憤を放つ犯行の可能性が高い。
吉林省の公園でアメリカ人教員たちを切りつけた犯人は失業者だったといわれている。蘇州市で日本人母子を襲撃した犯人に関する詳しい情報が公表されていない。犯行を制止しようとした中国人女性を殺害したことを考えれば、計画的な犯行ではない可能性が高い。
この二つの事件に関する中国政府の対応に共通点がある。それは事件の公表がいずれも遅れた点である。一般的にこういった重大事件について地方政府の市長などに対する問責に発展する可能性があるため、地方政府は事件そのものを過小報告する傾向がる。ほんとうは、できることならば、事件を隠蔽したいはずである。蘇州の事件に関する動画がSNS上にアップロードされてから、24時間後に中国政府は事件の発生を認めた。ただし、中国社会の安全性を強調するために、これは偶発的な事件であるといわれた。
事件発生直後のSNS上の書き込みをみると、日本人母子を助けて命を落とした中国人女性を、「なぜ日本人を助けるのだ」と罵倒する書き込みがあった。外交部報道官の記者会見で犠牲になった勇敢な中国人女性を称えたのを受け、SNS上の日本に対する憎悪を煽る書き込みのなか、とくに激しいものが削除された。
迫るトランプ、今、日本に逃げられるわけには……
そもそもネット上のヘイトスピーチを削除することは珍しいことである。共産党を批判するなど政治的な書き込みが削除されるだけでなく、書き込んだ本人が連行される可能性が高い。しかし、反日、反米の書き込みをしても、責任を問われることはほとんどなかった。
なぜ今回、反日的なヘイトスピーチが削除されたのだろうか。真相は不明だが、可能性として高いのは中国経済の減速と関係すると思われる。アメリカ大統領選はバイデン大統領の老衰ぶりが思わず露呈してしまった。トランプ候補が当選する可能性が高まるなか、中国にとってトランプは付き合いにくい相手である。
一方のEUは中国の電気自動車(EV)に制裁関税を課しており、米中の貿易戦争までにはいかないが、緊張対立が増幅する可能性がある。中国にとって日本企業は重要な存在になっている。日本人母子襲撃事件を善処しないと、日本企業は大挙して中国を離れる可能性がある。仮にそうなった場合、中国経済に深刻な影響を及ぼす恐れがある。なぜならば、中国企業にとって日本企業からの技術移転が必要不可欠だからである。
今回、事件後、犠牲になった中国人女性に対して、駐中国日本大使館が反旗を掲げ哀悼の意を表したことは中国インターネットSNSで広く伝えられ、中国社会に好印象を与えた。それを受けた形で中国政府はこの女性の勇敢さを称える模範称号を授与した。これも中国では珍しいことである。
失業率は高止まり、治安改善には時間が
これでこの事件の後処理が終わることになるが、気になるのは中国社会の治安がよくなるかどうかである。
まず、経済の回復が見込めないなか、失業率が高止まりする恐れがある。同時に、格差も大きいままである。これを考えれば、治安を改善するには時間がかかると思われる。そして、この事件を受けて、日本企業は大挙して中国を離れるとは思えない。
米中対立のなかで提起されたデカップリングとデリスキングの言い方を援用すれば、日本企業も中国でのビジネスにおいてデカップリングがありえなくて、デリスキング、すなわち、チャイナリスクをきちんと管理することが重要である。
さらに、日本政府の仕事として、渡航に関する注意喚起をよりいっそう強化することである。アメリカ政府はアメリカ人教員が切り付けられた前にも、中国への渡航注意喚起についてレベル3、すなわち、再検討 (reconsider)を求めている。
むろん、全般的にみると、中国社会の治安は深刻なほど不安定化しているとは思わないが、注意喚起を強化する意味は、人込みのなかに入らないこととか、公共交通機関を利用する際の注意などを呼び掛けることが重要である。
参考文献・参考資料
加速する中国人富裕層の海外移住、膨大な資産も流出 (msn.com)
日本人母子襲撃だけではない…!いま中国社会で多発している「傷害事件」がもたらす「国民感情の悪化」と「憎悪の扇動」 (msn.com)
日本人母子襲撃事件で「反日書き込み」を削除…!中国がいまもっとも恐れている「最悪の事態」 (msn.com)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?