政治(為替)講座ⅴ2032「円安と円高で誰が儲ける?」
ドル/円相場を考えるとき、「円安だ」「円高だ」と騒ぐが、冷静に考えると、どちらを基軸として通貨価値を考えるかに尽きると思い至った。
日本国内で生活する一般人が保有しているとするドルの価値は円換算すると今現在のドル/円相場は1ドル154.82円である。100米ドルは15,482円である。これが1ドル160円になると100ドルは円換算で16,000円となる。100ドルを売却すると518円の儲けとなる。このように余剰資金を運用する者にとっては(手数料を除くと)美味しい儲け話となる。
逆に、円高になると歯車は逆転する。
翻って、本来の通貨の機能(価値尺度、交換手段、価値の保存)の国際間の通貨の違う経済活動の貿易では輸出・輸入の決済で通貨の価値の評価(為替相場)方法が関係してくる。
会計簿記における為替は帳簿上は前述したことになるが、問題は貿易の場合は商品の価格競争で打ち勝てるかが輸出の決め手であろう。同様に輸入の場合も国内販売に競争力を持つ商品価値には価格競争に打ち勝てる採算性があるかである。
複合的な要素が絡み合いながら「実需」「空売り」「先物取引」「為替予約」の糸が絡んで為替相場を形成する。実需の取引を見越して先物取引を仕掛けられて利益が飛んでしまうこともあり得る。
今回はそのような報道記事を紹介する。
皇紀2684年11月20日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
報道記事紹介
もはやオオカミ少年化している「円安メリット」 円安効果の過大評価がポピュリズム化を招く
末廣 徹 によるストーリー
「なぜインフレ率が鈍化しているのに日銀は利上げをするのか」と、海外投資家から率直な質問を受けた。
この問いに対して、「インフレ目標達成のことだけを考えれば、低金利政策を維持して円安圧力をかけ続けたほうがよいと言えるが、その間に家計の消費マインドが悪化して個人消費が弱くなってきたので、政治的にも円安に耐えられなくなった」と筆者は回答した。
この回答に対して、質問した海外投資家は、日銀のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)やマイナス金利政策は、円安によってインフレ目標を達成するための政策だったのではなかったのか……?と不思議がっていた。
「円安インフレ」が低金利の狙いだったはずだが
むろん、この日銀の作戦が成功したかどうかの評価には数年はかかるだろう。そもそも物価目標達成はベストケースであり、異次元緩和からの脱却への道筋を付けられただけでも及第点だ、という評価もあるだろう。
いずれにせよ、この作戦が苦戦を強いられているのは事実である。
この背景にあるのは、①円安の悪影響(悪い円安論)が想定外に大きかったこと、②円安の恩恵(Jカーブ効果)が想定外になかったこと――だろう。
このうち、①悪い円安論については多くの国で一般的に生じていることであり、日本だけの問題ではない。
10月27日に行われた衆院選では与党が過半数割れとなったが、11月5日に行われたアメリカ大統領選でも現職副大統領のハリス氏が敗れた。家計や世論はインフレに弱いという面がある。
したがって、より重い課題は「②円安の恩恵がほとんど出てこないこと」である。
すなわち、円安によって日本の輸出企業にとっては有利な状況となっているはずだが、輸出数量指数が増えるどころか弱含んでいる。
各国の輸出数量を指数化しているオランダ経済政策分析局(CPB)の輸出数量指数によると、日本の輸出数量指数は世界の輸出数量指数よりも弱い動きとなっている。
世界の輸出数量指数に対する日本の輸出数量指数の比率(日本が相対的に輸出数量を伸ばしているかどうかの指標)を確認すると、近年は低迷が目立っている。
低迷が目立っているだけでなく、為替相場との連動性がなくなっている点も重要だろう。
金融危機前までは円安になると日本の輸出数量指数は世界全体と比べて相対的に強くなる傾向があったが、金融危機以降は逆方向の動きが目立っている。「円安⇒輸出増」という「短期のJカーブ効果」は、もはや存在しない。
頼みの綱の「長期の効果」も沈黙の兆し
この背景について、金融危機後の円高局面で企業の海外移転が進んだことを指摘する見方が多い。
企業の海外現地生産・現地販売が進んだことで、円安になっても輸出(および国内生産)が伸びなくなってしまった(したがって円高は悪である)という指摘である。
この観点からすると、「円安⇒輸出増」という「短期のJカーブ効果」は期待できなくても、「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」に対する期待は残っているようである。
確かに、世界の輸出数量指数に対する日本の輸出数量指数の比率と円名目実効為替の動きを2年間(24カ月)ずらして比較すると、アベノミクス以降の円安局面後、日本の輸出数量指数は相対的に少しだけ回復した局面があった。
しかし、今回の円安局面では回復の兆しが見えない。
「円安のメリットが出てくる」という主張は、もはやオオカミ少年化しつつある。
「円安⇒企業の国内回帰⇒さらなる円安⇒輸出増」という「長期のJカーブ効果」が発生するためには、日本企業の国内回帰が進むことが重要だが、この兆候はまだ得られていない。
日本企業の「海外設備投資比率」は2023年度の実績値が19.5%となり、2022年度の18.4%から上昇した。
「海外設備投資比率」はドル円相場に対して約3年遅れで推移してきたことから、2023年度の実績値はまだ途中経過に過ぎないが、「長期のJカーブ効果」が期待できる動きにはなっていない。
デジタル赤字を生かす「潜在的な成長分野」はあるのか
8月に公表された「令和6年度 年次経済財政報告」(経済財政白書)では、以下のように整理された。
デジタル分野等の赤字は、比較優位に基づく国際分業の考え方に基づけば、必ずしも問題というわけではなく、例えば、クラウドサービス利用が拡大していることは、質の高い海外のサービスを活用して、企業のDXが進んでいることの裏返しとも言える。
デジタル赤字を縮小すること自体が目的ではなく、コンテンツ産業など我が国の潜在的な成長分野において、稼ぐ力を強化する取組を進めることにより、結果として、関連サービス分野が成長していくということが重要であろう。
中長期的な成長につなげられるのであれば、デジタル分野を含めて貿易・サービスの短期的な赤字(とそれによる円安圧力)は問題ない――という楽観的な指摘である。比較優位の考え方からは理にかなった指摘なのだが、現状では妄想の域を出ない「我が国の潜在的な成長分野」に対して過度な期待をかけている可能性はないだろうか。
少なくとも現状では楽観的な視点で「Jカーブ効果」を待っている間に家計が疲弊している。その結果、政治がポピュリズム化し、所得減税などのバラマキ政策に突き進んでいる。
産業政策の議論は置き去りになっており、気がついたら成長産業をサポートする財政的余力がなかった、という展開に向かっているように思われる。
このように考えると、最近の政治や財政の問題の根本は、円安が経済に与える影響を過大評価したことにある、と言えそうである。
日本と中国が米国債を大量売却、トランプ氏勝利前の7-9月
Masaki Kondo、Ruth Carson によるストーリー
(ブルームバーグ): 海外投資家として世界最大規模の米国債を保有する2カ国が、米大統領選挙前の第3四半期(7-9月)に米国債を大量売却した。
米財務省が18日に発表したデータによると、日本の投資家は9月30日までの3カ月間に過去最高額の619億ドルの米国債を売り越した。中国も同期間にネットで過去2番目の大きさとなる513億ドル売却した。
米国債のリターンは、共和党が議会とホワイトハウスの両方を掌握する前の9月中旬に2年半ぶりの最高水準を付けた。その後、トランプ次期大統領の減税および高関税政策がインフレをあおるとの懸念から、米国債は約4%下落している。
みずほ証券のチーフデスクストラテジスト、大森翔央輝氏は、日本の米国債売りは銀行や年金基金によるもので、「トランプ氏勝利のリスクと利回りの上昇観測が米国債に対するセンチメントを傷つけた」と指摘。「地政学リスクが現実的な懸念となっていた中国では、さらにその傾向が強かった」と話す。
日本の米国債売却は、7月11日と12日に財務省が実施した総額5兆5300億円(359億ドル)のドル売り・円買い介入により膨らんだ可能性がある。
中国の売却額も、カストディアン口座の利用による偏りがあるかもしれない。中国の保管口座があるとみられるベルギーは、9月に過去最高となる202億ドルの米国債を購入した。
第3四半期の歴史的な売却後も、日本と中国はそれぞれ1兆200億ドルと7310億ドル相当の米国債を保有しており、米国債市場における影響力を保持する。
堅調な経済を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測が後退していることに加えて、トランプ次期大統領による米財務長官の人選を巡る不透明感も、米国債利回りの上昇圧力につながっている。
ATグローバル・マーケッツのチーフ・アナリスト、ニック・トワイデール氏は「市場が織り込み始めていた、トランプ氏がインフレ的な政策を取る可能性が確認されつつある」とし、「中国や日本による米国債売却は今後も続くだろう」と予想した。
More stories like this are available on bloomberg.com
©2024 Bloomberg L.P.
「もうやめてほしい」アメリカ財務長官の嘆き…アメリカ経済を利用し、4兆円もの儲けを出した「ヤバすぎる日本政府の収入源」とは
11/18(月) 7:04配信
2024年7月10日、日経平均株価は史上最高値の4万2224円2銭を記録した。その一方で、8月には過去最大の暴落幅を記録し、株価乱高下の時代に突入している。インフレ時代の今、自分の資産を守り抜いていくために私たちはどのような対策をすべきなのか。NVIDIA急成長の背景や新NISAとの向き合い方を見直しながら、日本経済の未来について考えていかなくてはならない。
【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣
本連載では世界的経済アナリストのエミン・ユルマズ氏と第一生命経済研究所の永濱利廣氏が語る日本経済復活のシナリオを、『「エブリシング・バブル」リスクの深層』より一部抜粋・再編集してお届けする。 『「エブリシング・バブル」リスクの深層』連載第21回 『もはやインフレに“歯止め”がかからない事態…誰の思惑も通じないマーケットが描く「悲惨すぎる日本経済の行方」』より続く
政府・日銀は為替介入で大儲けしている
エミン:エミン・ユルマズ。トルコ出身のエコノミスト・グローバルストラテジスト。レディーバードキャピタル代表。1996年に国際生物学オリンピック優勝。1997年に日本に留学し東京大学理科一類合格、工学部卒業。同大学院にて生命工学修士取得。2006年野村證券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に携わった。現在各種メディアに出演しているほか、全国のセミナーに登壇。 永濱:永濱利廣(ナガハマ トシヒロ)。第一生命経済研究所首席エコノミスト。1995年第一生命保険入社。98年より日本経済研究センター出向。2000年より第一生命経済研究所経済調査部、16年より現職。景気循環学会常務理事、衆議院調査局内閣調査室客員調査員などを務める。
エミン:アメリカがどこまで利下げできるかはまだわかりませんが、FRBと米政府がこれ以上の金利上昇を嫌がっているのは間違いありませんし、それは日本にとって「助け舟」になっています。 その場合、日本の財務省もなりふり構わず為替介入するかもしれませんが、ドル売り・円買いの為替介入は無限にはできません。手持ちのドルが無くなったら、米国債を売って介入するしかありません。ただ、米国債を売れば、アメリカの金利はさらに上がり、金利差が拡大して余計円安になってしまう。
永濱:2022年の為替介入では米国債を売っていましたよね。 エミン:2024年4月、5月の介入でも一部売却したかもしれませんね。
永濱:ちなみにこの2024年の2回の為替介入で、為替差益が4兆円くらい出ているはずです。
エミン:日銀は安いところで買っていますからね。
永濱:80~100円ぐらいで買ったドルを、150~160円で売っていますから。
エミン:日銀・財務省は巨大なヘッジファンドのようなものですよね。「為替介入に税金を使うな」という人がたまにいますが、為替介入には税金を使っていません。安く買ったドルを「利確」しただけです。
アメリカの顔色を伺っている
もう一つ、日本の財務省はアメリカの顔色をうかがっています。ドル売り・円買い介入をやる場合はアメリカの同意を得る必要があります。でも、このところアメリカの当局者からいい反応が聞こえてきません。 イエレン財務長官は4月25日に「為替介入はまれであるべきだ」と発言しました。
日本の為替介入をけん制する発言と見えましたが、日本の財務省は4月29日、5月2日の2回、為替介入に踏み切っています。 もしかすると、この時のイエレンさんの発言は、日本向けというよりも、中国を念頭に置いたものだったかもしれません。中国は米国債を大量に売っています。不動産バブル崩壊後の中国経済を支えるため、人民元買いの介入を行っているからです。 要するに、「話がついている日本はいいが、中国はダメ」と言いたいのでしょう。
永濱:アメリカから見れば、中国のほうが余程問題でしょうね。
エミン:最初あの発言を聞いた時は「これは日本に対して言っているのだろう」と思ったのですが、その後に日本が為替介入しているので、日本の通貨当局とは話がついていたと見るのが適当でしょう。となると中国を念頭に置いていた可能性が高いと思います。 ただ、イエレンさんはその後も為替介入についてネガティブな発言を数回しました。あとの発言は日本向けだった可能性があります。そもそも為替には頻繁に介入すべきではない。金融政策の変更で為替を安定させるべきです。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?