政治講座ⅴ1989「イスラエルとイランの争いの根源」
ユダヤ教もキリスト教もイスラム教ももとは同根である。
何故に憎しみあうのであろうか。「一神教は絶対神」として排他性を持ち、争いを内在している宗教であると考える。翻って日本の「八百万の神」では、壮絶な争いが起きなかった。仏教伝来でもキリスト教伝来でも今現在も宗教間の争いを伝聞したことが無い。
日本が平和を保つ理由は「八百万の神」の包容力のある教えであり、そのお陰で宗教戦争は起きないのである。ただ、仏教における宗派間でのイザコザの醜聞が聞こえてくるが、これは「人間の性」が起こしていることであろう。
中国に曹植の「七歩詩」がある。
魏の文帝(曹丕)が、才能あふれる弟の曹植をねたみ、「七歩歩くうちに詩を作れ。できなければ厳罰に処する」と命じた。これに対し、曹植はすぐに詩を作ったという。
七歩詩 曹植
煮豆燃豆萁
豆在釜中泣
本是同根生
相煎何太急
豆を煮るために豆がらを燃やす、
豆は釜の中で泣いているような音を立てる。
もともと一つの根から生じたものなのに、
どうしてこんなに酷くいたぶるのですか。
翻って現在のユダヤ教(イスラエル)とイスラム教(イラン)の関係は兄弟喧嘩のようなものである。
今回は現在起こっている戦争の報道記事を紹介する。
皇紀2684年10月27日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
報道記事を紹介
イスラエル、イランの軍事施設を攻撃 ミサイルへの報復か
2024/10/26 11:17
イスラエル、イランへ反撃「軍事標的に精密攻撃」連鎖する報復で全面衝突の危機
[2024年10月26日9時45分]
イスラエル軍は26日未明、イランの軍事標的への精密攻撃を実施していると発表した。イランによる継続的な攻撃への反撃だとしている。国営イラン通信は、首都テヘランの西部で複数の爆発音が聞こえたと報じた。報復の連鎖による全面衝突の危機が拡大した。イランが再報復に踏み切るかが焦点で、中東の緊迫は一層高まった。
イランは1日、親イラン民兵組織ヒズボラの指導者ナスララ師らを殺害された報復としてイスラエルに180発以上の弾道ミサイルを発射。イスラエルは複数の空軍基地に着弾したことを認めた。ネタニヤフ首相は「イランは代償を支払うことになる」と述べ、報復を宣言していた。
イスラエルとイランの軍事的対立は、昨年10月から続くパレスチナ自治区ガザでの戦闘が波及し、先鋭化した。イスラエルはヒズボラが活動するレバノンへの空爆を今年9月中旬から激化させ、同月27日にナスララ師を殺害。今月1日にはヒズボラ掃討を目的にレバノン南部への地上侵攻開始を発表した。
イランは1日のイスラエル攻撃で、ナスララ師らへの攻撃が計画された軍事施設を標的にしたと主張した。(共同)
イスラエル、イランへ反撃 イラクやシリアも攻撃との報道も
共同通信 によるストーリー
【エルサレム、テヘラン共同】イスラエル軍は26日未明、イランの軍事施設への精密攻撃を実施していると発表した。イランによる継続的な攻撃への反撃だとしている。国営イラン通信は、首都テヘランの西部で複数の爆発音が聞こえたと報じた。報復の連鎖による衝突の拡大が懸念される。イランが再報復に踏み切るかが焦点で、中東の緊迫は一層高まった。
イスラエル軍は、イランが昨年10月以降、親イラン武装勢力を使ってイスラエルを攻撃していると非難し、主権国家として「対応する権利と義務がある」と主張した。イスラエルメディアは、イランの防空システムとイラン革命防衛隊の基地が主な標的だと報じた。
米FOXニュースはイスラエルがイラクやシリアも攻撃したと報じた。反撃の一環とみられる。FOXによると、イスラエルは反撃直前に米政府へ通知した。米国家安全保障会議(NSC)報道官は共同通信の取材に対し、イスラエルの反撃を「把握している」と述べた。
イスラエルとイランはなぜ対立しているのか?
2024.4.29 中川功一:やさしいビジネススクール学長
4月、イスラエルと、パレスチナを実効支配しているイスラム組織ハマスの戦闘が続いている中東地域の緊張がさらに高まった。長年対立してきたイスラエルとイランが直接的な武力衝突に至ったのだ。中東はなぜ不安定な状況が続いてしまうのか。「ゲーム理論」を用いてその構造を読み解く。(やさしいビジネススクール学長 中川功一)
イラン・イスラエルが「抑制的な攻撃」をするワケ
さしあたって、戦争の危機は去った。
イスラエルとイランの間で起こった、双方が数百発のミサイルを撃ち合った武力衝突は、どうやら大規模な戦争に発展することなく収束に向かいそうである。
しかし、だからといって、中東情勢がこのまま和平に向かっていくとは決して考えられない。双方、ただ「相手を滅するにあたり機が熟していない」というだけの、かりそめの小康状態だからだ。
この情勢がいかに不安定であるのか。その原因は、どこにあるのか。
古くはキューバ危機の分析においても活用された「ゲーム理論」を用いて、現在の中東情勢を分析してみたい。
まずは、なるべく簡潔に、イスラエル・イラン情勢について説明してみよう。
最も重要なことは、イスラエルとイランは、事実上、相手を滅ぼすことを国家としての基本方針としている、ということだ。
シーア派によるイスラム原理主義的国家であるイランは、かの地にユダヤ人国家が存在していることを認めていない。イスラム革命以来40年以上、イスラエルを滅ぼすことはイランの宿願である。
一方、ホローストを経験した民族国家として、自らを「滅ぼす」と明言する者に対する、イスラエルという国の敵意や恐怖心は、私たちの想像できる範囲を超えている。
ユダヤの歴史の中では、虐殺はすぐ隣にある事象だ。
中東の強国であるイランは、イスラエルにとって最大の脅威なのである。
そんな2国は、パレスチナの「ハマス」、レバノンの「ヒズボラ」という武装勢力を介して代理戦争を既に開始している。イスラエルがハマス・ヒズボラと戦争をしていることは日本でもよく知られているが、そのハマスもヒズボラもイランが裏で支援をしている。
イランはこの2勢力を通じて、イスラエルの国力減退を図っているのである。
そしてついにこの4月、直接戦争の危機が訪れた。シリアにあるイラン大使館が、イスラエルによって爆撃を受けたのである。そこに武装勢力の幹部が滞在しているとの情報が入ったためだが、国際法上、大使館への攻撃は領土攻撃に等しい。
イランは報復を宣言し、史上初のイスラエル本土への攻撃を実行する。それに対してイスラエルもまた、イランへの攻撃を行った。
だが、戦闘行為はエスカレートしなかった。双方の攻撃は、相手に対して「被害が最小限となるように配慮した抑制的なもの」だった。
イスラエルの軍事力からすれば上空で全て撃墜できるとの目算のもとで、イランはミサイル・ドローン攻撃を行い、またイスラエルも極めて抑制的な物量での反撃を行った。
双方、ミサイルを相手領内に打ち込むという最悪の手段を用いて、戦争する気はないということを相手に伝えたのである。なんという非効率で、絶望的なコミュニケーション方法だろうか。
戦争にならなかった理由は「準備不足」だから
それではなぜ、双方は戦争を望まなかったのか。その理由は、お互い、(相手をせん滅するための)準備が整っていなかったから、である。
イスラエルは現在、ハマス・ヒズボラと戦争を行っている。ここでイランという大国とも戦う状況には陥りたくない。機を見て、周辺のアラブ諸国も攻め入ってくるかもしれない。
しかも、イスラエルはイラン攻撃について、米国の承認を得られなかった。米国はロシアや中国のこともあり、中東情勢の悪化を望まなかった。米国が支援してくれなければ、イスラエルにとって情勢はかなり不利になる。
さらに、現在のパレスチナ(ハマス)での戦争で、イスラエルは人道的観点から国際的に非難を受けている。国際世論を考慮しても、今は戦うべき時ではないと判断したのだ。
一方、イランにとっては、何よりも核の問題がある。相手は核保有国とされる。イランは目下、急ぎ核実験を進めている。これを完遂しないことにはイスラエルと渡り合うことは難しい。
また、イランはイスラエルのみならず、周辺のアラブ諸国とも対立している。イスラエルとの戦争の成り行きによっては、周辺諸国がイスラエル側につくことだって考えられる。
かくして、2国はそれぞれの事情で、準備不足なのである。今回の手打ちは、お互い勝ち切れるだけの体制が整っていなかったから、開戦しなかったというだけの話だ。
「囚人のジレンマ」で読み解く中東情勢
この状況がいかに不安定であるかを、端的に説明する理論がある。「囚人のジレンマ」だ。
これは、数学者のジョン・ナッシュが構想した「ゲーム理論」の中心的成果の一つ。ゲーム理論とは、2者(以上)のプレーヤーの行動の相互作用がどうなるかを予測するための理論だ。
イスラエルとイランという2カ国の状況を分析するのに、ゲーム理論は最適である。ここでは、簡便化のために、イスラエルとイランがそれぞれ「攻撃する」「攻撃しない」の2択で考えているとしよう。
今回は、お互いに「(大規模な)攻撃はしない」を選択した。その結果はもちろん、“和平”である。
これが双方の国民にとって幸せな結論であることは言うを待たない。すなわち、「和平が状況における最適解」である。
だが、イランにとっては、イスラエルがいかなる選択をしようとも、「攻撃をする」ほうが自分にとって望ましい結果となる。攻撃しない方が、イランにとってはむしろ非合理な判断なのである。
もしイスラエルが十分な反撃ができない(攻撃しない)状況なのだとすれば、イランは積極攻勢を取り、中東の地からユダヤ人国家を排除するという悲願を達成できる。
逆にもしイスラエルが自分たちへと積極的な攻勢を画策しているのであれば、イランは応戦するほかはない。応戦しなければ自分たちは滅ぼされてしまうのだ。
お気づきだろうか。イスラエルが攻撃するにせよしないにせよ、イランにとっては常に攻撃を仕掛けるほうが自分たちの理想にかなう行動となる。イランは、相手の状況を見ながら、常に「攻撃をする」という選択肢を取るタイミングをうかがっているといえる。
イスラエルにも同じことがいえる。
イランが反撃できない状況ならば、積極的に打って出て相手方の戦闘能力、とりわけ核実験施設を破壊したい。逆に、相手方が十分に力をつけたとしたならば、「やられる前にやる」必要がある。イスラエルもまた、「攻撃する」という選択を常に視野に入れている。
かくして、このゲームの構造のもとでは、お互いが相手を攻撃する動機が強く働く中で、いつ戦争が始まってもおかしくない状況にあることが分かる。戦争こそが、お互いが素直に自己利益を追求した結果として行き着くところ、「均衡」なのである。
「和平が最適だが、戦争が均衡」――お互いが最善と思って行動する結果が、双方に良からぬ結果をもたらす。こうした構造を、囚人のジレンマという。
かりそめの和平が、いかに不安定であるのか。中東の地では、あまりに安易に破滅的な選択肢が実行されてしまう理由がお分かりいただけたと思う。かの地では、相手国が弱体化するにせよ強大化するにせよ、自国の軍備を強め、戦争に向かう理由となるのである。
改革するすべは一つ。このゲームの構造を変えるしかない。
相手を攻撃することが、自らの悲願達成になってしまうから、攻撃という選択が取られがちになるのだ。
ユダヤ、スンニ派、シーア派。それぞれが他の存在を許すことができたならば、中東に平和が訪れることになる。和平を均衡とするには、それ以外に方法はない。
大国がにらみを利かせるなどの一時的な抑止では、相手を攻撃するインセンティブは常にそこに存在したままだ。
理論的には、答えは実に明瞭だ。だが、それが実現する日が来ることは、果たしてあるのだろうか。
かつての友は今日の敵――イランはなぜ中東でも特別イスラエルと敵対するか 基礎知識5選
六辻彰二 国際政治学者
10/26(土) 9:59
テヘランに設置されたミサイル(2024.10.2)。隣は最高指導者ハメネイ。(写真:ロイター/アフロ)
イスラエルは10月26日、イランの軍事拠点に精密爆撃を行った。レバノン地上侵攻の発生した翌10月2日、イランが約200発のミサイルをイスラエルに発射したことへの報復とみられている。
イスラエルとイランの対立は、ガザやレバノンなど中東の多くの紛争に繋がっている。
なぜ中東でもとりわけイランはイスラエルを敵視し、なぜイスラエルはイランを危険視するか。その因縁を5項目に絞ってまとめてみよう。
(1)イスラエルと友好的だったイラン
イスラエルが独立を宣言した1948年、周辺アラブ諸国はこれに反対して軍事介入した。第一次中東戦争だ。
この時イランはやはりイスラエル独立に反対したものの、戦後いち早くイスラエルと国交を樹立するなど、アラブ諸国と一線を画した。
この温度差は特に1950年代半ばから鮮明になった。
当時イランでは皇帝レザー・シャー・パフラヴィーが米英の支援のもと、経済、軍事の近代化を進めていた。
権力集中を目指したシャーは反対派を容赦なく取り締まったが、そのなかにはソ連の影響を受けた社会主義者だけでなく、皇帝崇拝を拒む聖職者(イスラーム法学者)も含まれていた。
強権的で、同時に宗教色の薄いシャーのもと、イランはやはり米英から支援されるユダヤ人国家イスラエルとも国交を維持した。
アメリカを挟んだ友好を象徴したのが石油危機だった。
1973年に第四次中東戦争が発生すると、アラブ諸国は米英など先進各国(日本を含む)に対して石油の禁輸措置を発動し、イスラエル支援を止めるようプレッシャーをかけた。しかしこの時イランは先進国に石油を輸出し続け、アラブ諸国に協力しなかった。
(2)転機はイスラーム革命
こうした関係が崩れたきっかけは、1979年にイランで発生したイスラーム革命だった。
皇帝主導の近代化計画(白色革命)の結果、農地の一部が貧困層に配分されたりしたが、多くの国民は豊富な石油資源の収入の恩恵と無縁だった。油田権益のほとんどを米英企業が握っていたからだ。
生活苦は1973年の石油危機でさらに悪化した。原油価格高騰にともない石油産業に海外から巨額の資金が流入した結果、インフレが加速したのだ。
その結果、シャーに対する不満・批判だけでなく、シャーに連なる米英への反感も増幅した。
その発火点は、1978年1月に中部コムで発生したデモだった。神学生や商人によるデモに治安部隊が発砲したことで、抗議活動はむしろ全土に飛び火したのだ。
事態の悪化を受けてシャーは翌1979年1月、アメリカに亡命し、帝政は崩れ去った。
シャーと入れ違いに、弾圧を逃れて国外に亡命していたイスラーム法学者ルーホッラー・ホメイニが帰国し、その指導のもとでイスラームの教義と共和制を融合した新体制が樹立された。
このイスラーム革命は世俗的な皇帝支配への反動だったが、同時にシャーを支援していた米英と断絶する転機でもあった。
革命支持者が1979年10月、テヘランにあった米大使館を占拠した事件は両国関係を決定的に悪化させ、アメリカは国交を断絶してイランを「テロ支援国家」に指定した。
これと並行してイランは、シャー時代とは対照的に、パレスチナ支持を鮮明に打ち出した。それはイスラエルとの決裂を意味したのである。
(3)第一ラウンドはレバノン内戦
アメリカの同盟国イスラエルがイランと最初に対決した舞台はレバノンだった。そのきっかけは1975年に発生したレバノン内戦だった。
当時レバノンでは宗教対立が激化していたが、混乱の最中の1982年、イスラエル軍が侵攻を開始した(ガリラヤの平和作戦)。その目的はレバノンに拠点を構えていたパレスチナ人の組織、パレスチナ解放機構(PLO)の壊滅にあった。
イスラエルの戦車部隊は首都ベイルートにあったPLO本部を包囲したが、それでも周辺アラブ諸国は全く動かなかった。アラブ諸国はパレスチナの道づれになるつもりはなかったのだ。
そのためイスラエルの進撃を最終的に止めたのは、停戦を求める国際世論に押されたアメリカだった。
アメリカの仲介によりPLOはチュニスに拠点を移したが、イスラエル軍はレバノン南部に駐留し続けた。
そのイスラエル軍を攻撃し始めたのがイスラーム組織ヒズボラだった。
ヒズボラはレバノン南部のシーア派住民を中心に結成され、当初からシーア派で共通するイランの軍事援助を受けていた。
しかし、イスラエル軍との戦力差は歴然としていたため、当時のヒズボラは自爆攻撃を多用して対抗した。これはイスラーム世界における最初期の自爆攻撃だったといわれる。
自爆攻撃に手を焼いたイスラエル軍は1985年、レバノン南部から撤退した。
それ以来、ヒズボラはレバノン南部を拠点にイスラエルと対峙してきた。レバノン内戦はイランとイスラエルの第一ラウンドであると同時に、現在の危機の入り口だったといえる。
(4)イスラーム世界のなかの勢力図
イランが中東でもとりわけイスラエルと敵対的である一つの背景は、アラブ諸国が1970年代からイスラエルと融和的になったことにある。
アラブの大国エジプトは4度の中東戦争を主導したものの、1979年にイスラエルと単独で和平条約を結んだ。他のアラブ諸国はエジプトの「一抜け」を批判したが、レバノンでPLOが陥落寸前になっても動かなかった。
そこには軍事大国化したイスラエルへの警戒だけでなく、1980年代から先進国が重要な石油輸出先になったこともあった。その意味でアラブ諸国の融和的な態度は高度に政治的な判断ともいえる。
ただし、それは多くのムスリムから共感を得にくく、むしろ「裏切り者」とみなされることさえあった。
だからこそ、ほとんどのアラブ諸国は1993年のオスロ合意を支持した。
オスロ合意はイスラエルとパレスチナの一時的妥協によって結ばれ、国連決議に沿った二国家建設が基本合意された。これは周辺国にとって「イスラエルかパレスチナか」の二項対立からの解放を意味した。
これに対してイランは、表向きオスロ合意を支持したものの、この頃からガザのハマスに訓練、兵器、資金などの軍事援助を増やし始めた。その支援額は年間1億ドルともいわれる。
イスラエルでもそうだが、パレスチナ人の間でも二国家建設案には意見が別れている。
PLOを中核に発足した穏健派のパレスチナ自治政府が二国家建設案を支持するのに対して、ハマスはパレスチナ全土の解放(=イスラエル打倒)を叫ぶ。
そのハマスへの支援は、イスラエルやアメリカと融和的なアラブ諸国を突きあげる効果もある。いわば「イスラームの本流はイラン」というイメージ化だ。
イスラエルに対するイランの敵意の影には、アラブ諸国に対するライバル意識もうかがえるのである。
(5)核開発を促したアメリカの圧力
イランとイスラエルの対立で懸念を招いている一つのポイントは、イランの核武装だ。
イスラエルはイランの核関連施設に対する攻撃を計画しているともいわれる。
ただし、イランの核開発は急に始まったものではなく、その起源はシャーの時代にさかのぼり、イスラーム革命後も細々と継続していた。
結果的にそれを一気に加速させたのは対テロ戦争だった。
2001年のアメリカ同時多発テロ事件を受け、ジョージ・ブッシュ・ジュニア大統領に「悪の枢軸」と名指しされたイランでは危機感が高まった。
イランは国際テロ組織アルカイダとほとんど関係なかったが、アメリカはいわばどさくさに紛れてイランを標的にしたといえる。
イランの危機感は2003年、アメリカがイラク侵攻を強行したことでピークに達した。
イラクはイランとともに「悪の枢軸」と名指しされていた。アメリカは証拠を示さないまま、イラクが大量破壊兵器を保有していて危険と断定し、多くの国の反対・批判を押し切って侵攻に踏み切ったのである。
イラク侵攻はアメリカと対立する国にとって「核兵器をもたないと危険」という教訓になったといえる。
実際、イランはその前後からウラン濃縮や弾道ミサイル開発・配備を急速に進め、アメリカのさらなる敵意を招く悪循環に陥った。
この緊張が一時的に緩和したのが2015年の核合意だった。バラク・オバマ大統領は国交のないイランを含め、英仏独中ロと合同で、イランの核武装禁止と核の平和利用を認める合意に至ったのだ。
ところが、この合意はすぐに無に帰した。2016年大統領選挙で勝利したドナルド・トランプは根拠を示さないまま「イラン核武装疑惑」を主張し、核合意を廃棄した上で経済封鎖を強化したからだ。それにともないイランは再び態度を硬化させ、核開発を再開したとみられている。
今年7月の段階でアメリカ政府は、イランのブレークアウト・タイム(ウランを核兵器に使用できるレベルにまで濃縮するのに必要な時間)が1~2週間にまで短縮されたという観測を発表し、その核能力の向上に警戒を示した。
しかし、イスラエルやアメリカが警戒するイランの核能力は、少なくとも部分的には、アメリカの圧力が生み出したものでもある。だとすれば、中東の緊張をある程度ハンドリングできるのはアメリカしかない。
アメリカは今、超大国としての真価が問われているといえるだろう。
六辻彰二 国際政治学者
博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。
イスラエル、イランの核・石油施設は攻撃せず 標的は基地と米報道
毎日新聞 によるストーリー
イスラエル軍が26日未明に実施したイランに対する報復攻撃を巡り、イランメディアは同日、首都テヘラン西部と南西部にある軍事基地が標的になったと伝えた。米NBCニュースはイスラエル政府関係者の話として、イランの核施設や石油施設に対する攻撃はなかったと報じた。
イスラエルは今月1日にイランによる弾道ミサイル攻撃を受け、報復としてイランの核・石油施設に対する攻撃も検討していた。一方、イスラエルを支援する米国は、こうした施設への攻撃は紛争激化を招くことから反対していた。【カイロ金子淳】
シリアの軍事施設も攻撃 紛争拡大の恐れ イスラエルがイランを攻撃
毎日新聞 によるストーリー
イスラエル軍は26日未明、イランが今月上旬に攻撃してきた弾道ミサイル発射などへの報復として、イランの軍事施設に対して「精密攻撃」を加えたと発表した。米CNNテレビによると、イスラエルは「第2波の攻撃」も始めており、攻撃は「一晩続く」とも伝えられている。首都テヘランを含む地域で爆発音が確認されており、イランが今回の攻撃へ更なる報復に乗り出せば、紛争が拡大する恐れがある。
イスラエル軍は声明で、パレスチナ自治区ガザ地区の戦闘が始まった昨年10月以降、イランや親イラン武装組織がイスラエルに対して攻撃を続けていると指摘し、「報復としてイランの軍事施設に精密攻撃を加えている」と発表した。
「第1波」とみられる攻撃を受けた段階で、イランメディアは、テヘラン西部・南西部にある軍事基地が標的になったと伝えた。テヘランでの爆発音は飛来してきたミサイルを防空システムが迎撃した際に起きたものだとして、市内の状況は「平穏だ」とも報じている。テヘラン近郊にある精鋭軍事組織・イラン革命防衛隊の軍事施設に被害はないという。一方、中部イスファハンや北東部マシャドなどでも爆発があったとの情報もある。
イランと関係が深いシリアの首都ダマスカス近郊の軍事施設なども攻撃された。
イスラエルは今回の報復攻撃に先立ち、イラン国内の核施設や石油施設も標的として検討していたが、イスラエルを支援する米国は紛争の拡大を招くとして反対していた。イスラエルはイランに軍事的な打撃を与えながらも、報復の応酬を避ける計算も働かせて、標的を軍事基地に限定したとみられる。
ただ、今回の攻撃が大きな被害を及ぼしていれば、イランが更なる報復を検討する可能性は否定できない。紛争が拡大すれば、中東情勢が一層不安定になり、原油価格が高騰する事態にもなりそうだ。
イスラム教シーア派国家のイランはイスラエルを敵視し、ガザ地区のイスラム組織ハマスやレバノン南部のシーア派組織ヒズボラなどを支援してきた。今年4月にはイスラエルが在シリアのイラン大使館を空爆したことを受け、イスラエルに無人機や巡航ミサイルなど300発以上を発射。今夏以降にハマスやヒズボラの指導者らが相次いでイスラエルに殺害されたことへの報復として、今月1日にはイスラエル各地に弾道ミサイル180発以上を撃ち込んだ。
イスラエルは4月に受けた攻撃に対し、イスファハン近郊で核施設を防護するレーダー設備を標的に小規模な報復攻撃を実施。今月の弾道ミサイル攻撃に対しても報復すると宣言していた。【カイロ金子淳】
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