政治講座ⅴ775「昨日の友は今日の敵」
思った通りのことが起こった。ウクライナ侵攻で手こずるロシアを見放した。中国の変わり身の早さ、君子豹変とはよく言ったものである。ロシアは弱い国であることが身に染みたのではないだろうか。報道記事を紹介する。
皇紀2683年1月19日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換
石 平 - 15 時間前
新しいヒエラルキー、明確な格下げ
昨年12月30日に中国の外交部長(外相)に任命された秦剛氏は年明けてから早速、活発な外交活動をスタートした。1月11日からアフリカ諸国への外遊を始めたのと同時に、アメリカ・ロシア・パキスタン・韓国の4カ国の外相とも電話会談を行い、外相としてのデビューを飾った。
一連の電話会談のうち、秦外相が最初に行ったのは米国のブリンケン国務長官との会談である。1月1日の元旦、外相に任命されてからわずか2日後、秦外相はプリンケン長官と通話し、新年の挨拶を交わした上で「米中関係の改善と発展」を語り期待を寄せた。
外相に任命される直前まで、秦氏は駐米大使を務めていたから、外相になって初めての電話会談相手が米国務長官であることは自然の成り行きとは言えるが、最大の友好国家であるロシア外相との電話会談をその後に回したことはやはり違和感を感じさせる。中国の外交姿勢に何かの変化が起きているのではないかと思いたくなるのである。
ロシア外相との会談が実現されたのは1月9日、米中外相電話会談から8日後のことだ。同じ9日に秦外相がパキスタン、韓国外相とも電話会談を行ったから、ロシアとの関係を「特別視しない」という中国側の姿勢はそこからも伺える。
そして中国外務省の公式発表では、秦外相は「予約(要請)に応じて」、ロシアのラブロフ外相との電話会談に臨んだという。それは要するに、「向こうからの要請がなかったら電話会談をやっていないかもしれない」ということを暗に示唆しているような表現であるが、わざと「要請されての電話会談」を強調するのにはやはり、ロシアとの距離感を示す狙いがあるのであろう。その一方、米国務長官との会談に関しては、中国側は「要請されて」との表現を使わなかった。
「3つのしない」とは
肝心の中露外相会談の中身となると、中国外務省の公式発表では、秦外相は電話の中で「中露関係の高レベルの発展」に意欲を示しておきながらも、「中露関係の成り立つ基礎」として、「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」という「3つのしない」方針を提示したという。
この「3つのしない」方針の意味合いを1つずつ考えてみると、「第3国をターゲットとしない」とは当然、アメリカ・EUの存在を強く意識したものであろう。つまり中国の新外相はここで、中露関係は決して欧米と対抗するための関係ではないことを、むしろ欧米に向かって表明したのである。
もう1つ、秦外相はロシアに対して「対抗しない」との方針を示したことも大変興味深い。本来、「対抗しない」云々というのは、対抗している国同士間で関係の改善を図る時に発する言葉であって、友好国家の間でこのような表現を使われることはまずない。
例えば日本の外相はあえて、米国国務長官や英国外相やフランス外相に向かって「対抗しない」と語るようなことは考えられない。親密関係の友好国同士の間に、「対抗する」ことは最初から想定されていないからである。
しかし中国の秦外相は、本来なら一番の友好国であるロシアの外相に対して「対抗しない」という言葉を何気なく使った。捉えるようによってそれは、ロシアとの今までの親密関係を頭から否定するような発言でもあれば、「中露は互いに対抗しなければこれで良い」という、中露観の親密さを打ち消すような「冷たい」言い方にもなっているのである。
そして「3つのしない」の一番目の「同盟しない」となると、要するに中国側は明確に、ロシアと同盟関係を結ぶ可能性を否定した訳である。
それまでは「無制限の関係強化」だった
しかし、秦外相が示した中国の対露外交の「3つのしない」方針は実は、2021年以来の習政権の進む対露外交方針からの大転換である。
それまでに、中国の外相や外交関係者は中露関係についてどう語ってきたのか。いくつかの実例をあげてみよう。
例えば2021年1月2日、王毅外相(当時)は人民日報からのインタビュー取材において、「中露間の戦略的協力は無止境、無禁区、無上限である」と述べ、中国はロシアとの間で軍事協力の強化や同盟関係の締結を含めた、全く無制限の関係強化に対して意欲を強く示した。
2020年10月23日、中国外務省趙立堅報道官(当時)は記者会見で、王外相と同じ表現を使って「中露協力は無止境、無禁区である」と語った。そして2022年10月4日、王外相は新華社通信のインタビュ取材で再び、「中露関係は無止境、無禁区、無上限」と強調した。
しかし、去年の年末に王外相が退任して前述の秦剛氏は新外相に就任した。そして、ロシア外相の初電話会談ではこの新外相の発する言葉から上述の「3つの無」は完全に消えた。その代わりに、秦外相はロシア側に提示したのは前述の「3つのしない」方針であるが、それはどう考えても、これまでの「3つの無」方針に対する明確な否定であって、習政権による対露外交方針の180度の大転換であると言っても過言ではない。
「3つの無」の「無止境・無禁区・無上限」が明らかに、軍事同盟を含めた同盟関係結成の可能性を強く示唆した表現であるのに対し、秦外相の「3つのしない」方針は真っ先に、ロシアと同盟する可能性を明確に否定した訳である。
「戦狼」報道官更迭もその一環
そしてその意味するところすなわち、習政権は今までの数年間の「連露抗米」戦略を放棄し、米国との関係改善を図る一方、ロシアとの親密関係を根本的に見なおす方針に転じたことである。
そう考えると、前駐米大使の秦剛氏を新外相に任命したのもまさにこのような外交方針転換の一環であって、そして秦氏は就任早々、一連の電話会談をもってこの新方針を実施に移し始めたと見て良い。
その一方、今までに中国の「戦狼外交」の顔一つとして傲慢姿勢を貫き、欧米では受けの悪い趙立堅報道官は、秦外相の就任直後に表舞台から異動させられたこともまた、こうした外交方針の転換の現れであると理解できよう。
このようにして中国の習政権は、対ウクライナ戦争で「負け馬」となって「世界の大国」の地位から転落したプーチンのロシアに見切りをつける一方、経済の立て直しのためには欧米との関係改善を図ろうとしていることは分かる。
欧米との関係改善は中国の思惑通りになるとは限らないが、中露関係は新しい局面を迎えようとしていることは確実であろう。
参考文献・参考資料
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