政治(経済)講座ⅴ1964「近隣窮乏化政策から見ると円安と円高どちらが日本にとって有利か。」
円安は貨幣価値が下がり、輸入品価格が高騰して国民生活のインフレという実害があると識者は騒ぐ。しかし、視点をかえると多額に債権国の日本にとっては、円安は円換算による受取額が増えることは、想像に難くない。そして海外貿易で得た企業収入や所有する債権・証券からの配当・金利収入は円換算ベースで増えて会計上プラスになるのである。1ドルに対して160円を受け取ることと1ドルに対して140円を受け取ることに関して20円の利益の差となって日本企業や米国債を持っている日本にとっては有利なのである。貿易収支に関しては日本は石油などの資源を輸入していて貿易収支はマイナスとなるが、金利・配当などの収入の経常収支はプラスとなっていることからこの理屈が分ると思う。
今回はそのような日本経済の特質に関する報道記事を紹介する。
皇紀2684年10月8日
さいたま市桜区
政治(経済)研究者 田村 司
ヘッジファンド、15年ぶり大幅下落の直前に円を買い越し
グラス美亜、Ruth Carson によるストーリー
(ブルームバーグ): 石破茂首相のハト派的な発言と強い米雇用統計により、円相場が週間で2009年末以来の大幅な下げに見舞われる直前、ヘッジファンドは円に対して強気姿勢に転じていた。
米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、レバレッジドファンドは10月1日時点で8月中旬以来の円買い越しとなった。円買いは石破首相が2日に日本銀行の追加利上げについて「現在そのような環境にあるとは考えていない」と発言する直前に起こった。
4日に発表された9月の米雇用統計は事前予想を上回り、ドル需要をさらに強めた。市場では来月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での大幅利下げ観測が大きく後退した。
野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは「先週初めの段階では、石破新首相のタカ派路線への期待から円買いポジションを取るヘッジファンドもあった」と指摘。米雇用統計が予想外に強く、ドル・円は目先150円を試す可能性が出てきたとの見方を示した。
円は先週、ドルに対して4.4%値下がりし、週間ベースで09年12月以来の下落率を記録した。米雇用統計の予想外の強さと石破首相のハト派発言を受けて、円相場の軌道を再考する動きが活発化した。円に対する弱気なセンチメントを反映する形で、一部のヘッジファンドを含む投資家はリスクの高いキャリートレードで円売りポジションの再構築に動き始めた。
今週後半に発表される米国のインフレ指標は、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策方針と円の行方についてさらなる手がかりを提供することになるだろう。7日のアジア市場で円相場は1ドル=148円台半ばで取引されている。
みずほ証券金融市場部の大森翔央輝チーフデスクストラテジストはブルームバーグテレビのインタビューで、「キャリートレードを行う投資家が再び160円を試すようなことがあれば、それを止める者はいないだろう」と言い、「目先は150円、あるいは155円までいくのではないか」と語った。
CFTCのデータによると、1日時点のヘッジファンドによる円の買い越しは2021年初頭以来の高水準だった。
ポジション反転も
円の下落は円買いのチャンスと見る向きもある。
ブルームバーグが集計したデータによると、ストラテジストらは日銀の追加利上げにより来年はさらに円高が進むと予想。25年4-6月(第2四半期)のドル・円の予想中央値は140円となっている。
ロンドンのヘッジファンド、RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は、円安について「短期的にはもう少し進むかもしれない」が、150円に向けて円が下落すれば、「円のロング(買い)ポジションを構築し始めるのに魅力的な時間となる可能性がある」としている。
CFTCのデータは遅れて公表されるため、ヘッジファンド勢はその後の石破首相のハト派的な発言に反応し、新たな円の下落に備えてポジションを調整している可能性はある。
カナディアン・インペリアル・バンク・オブ・コマース(CIBC)のストラテジスト、マキシミリアン・リン氏は、「8日時点のCFTCデータで円買いポジションが反転していても驚かない」とし、「全ては米国の指標」とFRBの対応に尽きると述べた。
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近隣窮乏化政策
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
近隣窮乏化政策(英語: Beggar thy neighbour)とは経済政策のうち、貿易相手国に失業などの負担を押しつけることによって自国の経済回復と安定を図ろうとするものをいう。
経緯
政府が為替相場に介入し、通貨安に誘導することによって国内産業の国際競争力は増し、輸出が増大する。さらに国内経済においても国産品が競争力を持ち、国内産業が育成される。やがて乗数効果により国民所得は増加し、失業は減少する。
その一方で貿易の相手国からすると、通貨高による国際競争力の低下、輸入の増大と輸出の減少、雇用の減少を引き起こすことになる。多くの場合、相手国は対抗措置として為替介入を行い、自国通貨を安値に誘導しようとし、さらにそれに対して相手国が対抗措置をとる。こういった政策を「失業の輸出」といい、さらに関税引き上げ、輸入制限強化などの保護貿易政策が伴うと、国際貿易高は漸次減少していき、やがて世界的な経済地盤沈下を惹起する。
世界大恐慌の後、1930年代に入ると主要国は通貨切り下げ競争、ブロック経済化をすすめ、やがて国際経済の沈滞とそれに続く植民地獲得競争が第二次世界大戦の遠因となったという反省から、戦後は国際通貨基金(IMF)、関税および貿易に関する一般協定(GATT)(2013年現在は世界貿易機関(WTO)に継承)等の設立により為替相場安定と制限の撤廃が図られた(→ブレトン・ウッズ体制)。
1930年代の恐慌に関して
1930年代の恐慌に関しては、通貨切り下げ競争が景気の後退要因となり、恐慌の世界的拡大をもたらしたとの説はバリー・アイケングリーンとジェフリー・サックスによって否定的な意見が出された。このアイケングリーンとサックスの研究において、為替切り下げの原因として2つのものが挙げられており、このうち、貿易を有利にする目的で単に自国通貨の為替レートを切り下げることは悪い結果につながり、いわば「悪い切り下げ」である。しかし、若田部昌澄は「大きな金融緩和をした結果として為替が切り下がること」は良い切り下げであると主張している。
2010年以降の通貨安競争に関して
若田部は「大きな金融緩和をした結果として為替が切り下がること」は良い切り下げであると主張しているが、アイケングリーン(2013)は「1930年代半ばまで金本位性が取られていた当時の世界経済と、2013年現在の世界経済は状況が異なるため、この議論を2013年現在の経済にそのまま適用することはできない」としている。
2010年にはジョセフ・E・スティグリッツが、欧州やアメリカの欧州中央銀行(ECB)、連邦準備理事会(FRB)の金融緩和政策が世界経済に過剰流動性をもたらし、為替レートを不安定な状態に陥れているとしており、周辺国のブラジルや日本などの国々が打ち出した自国通貨高抑制の動きについて一定の理解を示す発言をしたものの、追加の金融刺激策は世界の需要不足によって生じた問題を解決できないのは明らかと指摘している。
通貨安競争
問題点
経済学者の野口旭は「近隣窮乏化政策の問題点は、他国の報復を誘発する可能性が高く、結局は自国の状況も悪化させるケースが多い。世界恐慌時、近隣窮乏化政策を多くの国が先を争って実行したため、貿易の縮小を通じ恐慌がさらに悪化した」と指摘している。
参考文献・参考資料
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