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【掌編小説】カルーセル

その少女には名前がない。ある年の冬の初め、とある遊園地で奴隷商人の男によって売りに出されていた子供の奴隷である。商人の目の前で、奴隷は声を出すことも許されない。人間らしく言葉を話すと、むちで打たれるのだ。下着さえ身につけさせてもらえずに、薄いワンピース一枚で毎日、通行人にとっての見世物として路上に長時間座らせられていた。

大人の女である『わたし』はその日、この遊園地を訪れた。遊ぶ人たちの賑やかな声がする中、ただ一人暗い顔をした『わたし』は奴隷商人の前を通りかかり、ふとこの商品に目を留めた。

***

商人の言い値の二十万円で少女を買った『わたし』は、少女の手を取り、家に連れて帰るため園の出口へと歩いてゆく。少女には、この大人の人は誰で、これからどこへ行くのかもわからない。ただその手の温もりに戸惑い、怯えることしかできなかった。女に手を引かれながら、曇った眼でぼんやりと見つめていたのは、しあわせそうにメリーゴーラウンドで遊ぶ「普通の」家庭の子供たちの姿だった。


原作:我が心のカルーセル

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