見出し画像

旅路【FFⅢ二次創作】

年中強い風の吹く大陸、ダルグ。その大陸には、偉大な魔導師ノアが、人間としてはたった一人で住んでいた。彼の住居(ノアの館)以外に建物はなく、彼の館のある辺りは、険しい山々に囲まれた盆地の地形をしていた。
シーザはノアの館で育った。物心ついた時、母も父もいなかった。以前、ノアが各地方を回った時、ある村で、赤ん坊のシーザをノアに預けてきた女性がいた。ノアはシーザを連れ帰り、その後自分の屋敷にて養育した。二歳になるまで面倒を見ていたが、ノアは死に、その後はノアに仕えていた十三匹のモーグリ族(モグラとコウモリを掛け合わせたような生き物。二足歩行をする。身長七十センチほど)がシーザの教育や身の回りの世話をしていた。シーザは大陸の外の世界を知らぬまま、十四歳まで育った。
そんなある日、シーザより二つか三つ年上くらいの、三人の少年少女たちが、高速で飛行する小型飛空艇『ノーチラス』で、大陸の内部へやって来た。強風の吹く大陸のため、普通の飛空艇では大陸に近づけないのだ。ノーチラスは、彼らの国サロニアの城で造られたものだった。三人は、サロニアにおいて突如、時が止まり、誰もが皆石像のように動かなくなってしまった事件を受けて、時間が止まらずに人が動いている地域がないか、各国を回って調べていた。最新の研究で造られたノーチラスなら、ダルグの強風にも負けずに大陸の中へ入れるだろうと考え、ノーチラスで調査にやってきたのだった。有識なモーグリが言うには、この大陸には、ノアの魔力が残り香のように残っており、その魔力に包まれていることから、惑星麻酔が効かなかったのではないかとのことだった。
「惑星麻酔?」三人のうちの一人が聞き返した。
モーグリ「時が止まり、何もかも動かなくなるのは、誰かが大きな魔力によって世界に麻酔をかけることでしか発生しない。その者の魔力より、ノアの魔力の方が強かったのであろう。」
少年「誰がそんなことを」
少女「麻酔を解く方法はないの?」
モーグリ「二つある。一つは、行為者の命を奪うこと。もう一つは、クリスタルの巫女が、火、土、風、水、各地に祀られる四つ全てのクリスタルに、特別な祈りを捧げること」
シーザは、時を取り戻すための三人の旅に同行することにした。
初めて見る外の世界は、彼らが言った通り、時が止まった世界だった。生き物は静止し、空気も止まっているらしく、風ひとつ吹いていない。いま夕方の地域は、永遠に黄昏時で、雨の降っている地域では、幾千もの雨粒が、空気中で留まっている。いま、生きて動いているのは、この世界で四人だけだった。
「シーザは、大陸に守られていたからだとしても、なぜ俺たち三人は、止まらないで動けているのだろう。」三人のうちの一人が言った。
「さあな、もしかしたら、時を止めた奴の力が完全じゃなくて、完全には止められなかったとか。」その説が有力そうだった。シーザを加えた四人は調査を続けた。
 
小さな陸地があった。そこには壊れかけた大きな木造の難破船がとまっていた。彼らはノーチラスを陸地にとめて、難破船の中を調べた。中には寝台に苦しそうに横たわる少女がいた。息はしているようだった。三人のうちの一人が、ポシェットの中からエリクサーを取り出して少女に使うと、少女は目を覚ました。
少女の名前は、エリアといった。クリスタルの巫女であるとのことだった。シーザは、エリアを一目見て、鈴の鳴るようなその声を聞いて、恋に落ちた。
エリアは、しなければならないことがあると言った。それがまさに、時を取り戻すため、四つのクリスタルに祈りを捧げることだった。
少年「まさに僕たちも、時を取り戻すために旅をしていたのです」
少年「俺たちの目的は一致しているな。エリアさん、俺たちも同行するよ」
エリアと四人は難破船を出て、ノーチラスに再び戻ると、エリアの指し示す洞窟を目指し、その中へ入っていった。進んでいくと、その深奥部に、大昔に造られたのであろう、水のクリスタルの祀られた神殿が現れていた。だが、エリアの祈祷が終わり、彼らのいる後ろを振り向いた直後だった。物陰に隠れていたクラーケンという魔物が、シーザに向けて毒矢を放った。エリアはその陰に気づき、「危ない」と叫んでシーザを突き飛ばした。毒矢はエリアの左腕の上部に突き刺さった。シーザは今、何が起きたかわからなかった。倒れて血を流しているエリアに駆け寄り、抱き抱え、何度も名前を呼んだ。そのうちに彼女は息絶えた。
 
明るい日差しが差し込んでくる公園で、シーザは大きな木の幹に顔をくっつけるようにして泣いた。
 
クラーケンは、時を止めた張本人ザンデの手下だった。ザンデ(人間)が時を止めた理由は、友人のドーガ(魔物)が病気で、このまま時が進むとドーガは死んでしまうと思ったから。クラーケンがシーザに矢を放ったのは、四人が時を動かそうとしているから。巫女が亡くなり、祈りを捧げる方の作戦はだめになったので、四人はザンデと直接対決する決意を固めた。彼ら四人に魔力はないので、魔法などではなく武器を持っての物理攻撃をすることになる。装備を整えるため一度ノーチラスへ戻った。その後、四人はザンデの居城を突き止めた。魔法を使って襲いかかってくるザンデは、青黒い肌に長い白髪の大男だった。恐ろしい死闘の末、ついにザンデを殺し、時を取り戻した。時が動き出すと、やがて、ザンデと一緒に居城にいたドーガも死んだ。
 
***
 
サロニアに引き取られたシーザは、引き取られた家のシドという老人と仲良くなり、彼からボトルシップ制作を習った。巫女エリアと出会ったあの難破船をイメージしたボトルシップを制作し、完成したそれを、一生の宝物にすると決めた。その頃、シーザはサロニアの王女フィーリアと知り合っていた。
シーザ「初めて彼女を見た時、その長い艶やかなブロンドヘアーが、エリアみたいだなと思ったのを憶えている。」
シドは薬学者だった。最初のうちシーザは、養われるだけだったが、だんだんとシドの研究することに興味を覚え、彼の助手として働くようにもなった。まずは簡単なポーションの作り方から習った。それからだんだんと色々な薬剤が作れるようになっていった。何年もそうするうち、やがてシーザ自身も薬学者と名乗れるほどになった。シドと同じ製薬会社と契約を結び、薬の研究で稼げるようになったのは彼が二十八歳の頃だった。
いつしかフィーリアと恋仲になったシーザ。フィーリアは、シーザがエリアという少女を好きだった過去を知り、自分がエリアのようになろうとした。だがシーザは、フィーリアはフィーリアのままでいてほしいと告げた。「あまり華奢で可憐だと、あの娘のように、すぐに消えてしまいそうな気がするから。つきあう女性は、フィーリアのように、少し勝気なくらいがいいよ」と言って冗談のように笑った。
フィーリアと結婚し、フィーリアは城を出て一般人になった。シーザもシドの家を出て、夫婦二人で暮らす、郊外の広い平屋に引っ越した。シドの家からは、自分の集めた植物のサンプルを大量に持ち込んだ。薬を作るための材料となる植物だった。
フィーリアの父である国王は、ノーチラスをいつでも貸してくれると言ってくれた。ノーチラスがあれば、ノアの館に帰れる。だが、帰ることは一度もなかった。やがてシーザは、二人の息子(ルート、ルイザ)、一人の娘(ルーシー)をもうけた。十数年後、末っ子のルーシーが思春期の頃、彼女は拒食症を患った。いつも痩せたい痩せたいと考えてしまうと言って、苦しんでいた。そんな彼女を見てシーザは、『満腹感を維持しつつ摂取したものを体内で消す』作用のある、「ナカッタコトニスール」という薬を開発した。


解説

初めてファイナルファンタジーⅢ(リメイク版)をプレイしたのは、叔母の家だった。叔母はキャラクターに名前をつけるのが好きで、公式ではルーネスという名前のキャラに、シーザという名前をつけていた。わたしは叔母のデータを遊ぶ中で、『ドーガの館』という建物に恋をしてしまった。壁も床も何もかもが真っ赤な内装、美麗なBGM、魔導師が住むという設定、大きな大陸にただひとつポツンと一軒建っているという理想的な佇まい。赤が大好きだった小学生のわたしにとって、この屋敷の中で、赤魔道士の格好をさせたシーザを歩かせるのが、このゲームの何よりの楽しみだった。その経緯を踏まえて、この物語の冒頭はこのような始まりにしている。
ちなみに、叔母のデータを誤って消してしまって、自分で一からプレイするようになるまで、シーザが男性だということを知らなかったのはここだけの話である。

いいなと思ったら応援しよう!