20連戦後のパドレス
(注:6月11日につかみタイムズに投稿した記事の転載です)
6月9日、シーズン最長怒涛の20連戦を10勝10敗で終えパドレスは37勝27敗。現時点での64試合はリーグ最多である。4月の14勝12敗から勝率を40pts.押し上げたが、ナショナルリーグ西地区では首位の回春ベテラン軍団ジャイアンツにゲーム差2.5、2位ドジャースから1.5ゲーム差の3位。最強ディビジョンでの三つ巴の争いは継続中である。
ここまで3チームが対戦した勝率5割以上のチームは以下の通りだ。
パドレス 39
ドジャース 32
ジャイアンツ 30
連戦の多さに加え、強敵との戦いを強いられながらの結果なので、本当の実力差は2.5ゲーム差ほど開いてはいないはずだ。
先発投手陣
ERA3.28でNL5位でfWAR5.5は6位(4月5位)。エースのダルビッシュ有とノーヒッター男ジョー・マスグローブは好調を維持も、ブレイク・スネルはゾーン外に逃げる変化球を見送られ四球が増加。しかし直近のメッツ戦では球速差がなく棒球と化していたチェンジアップを封印。ストライクゾーンに果敢に攻め込み7回10三振無失点。復調の兆しを見せた。
続くライアン・ウェザース(上腕疲労)、クリス・パダック(非公表だがCOVIDか)、ディネルソン・ラメット(肘不具合)ら病み上がり先発が投球数制限を強いられ、一試合のパドレス先発平均イニング数4.71はNLで最短。ちなみに逆に最も長いのはドジャース。そのため6人ローテーションで乗り切ろうとするも半分がブルペンデーの様な先発早期降板でリリーフ陣のブラック登板を余儀なくされた。
ウェザースのERA1点台だがK/9が6.70と低いためxFIPは4.40に留まる。制球は良くスライダーも曲がりが小さい割に悪くないが、4シームとシンカーに動きが少なく空振りが奪えない。とはいえメジャー投手最年少の21歳なので、まだ修正は幾らでも可能で伸びしろが楽しみではある。
パダックはILから復帰後、二人三脚でトレーニングを積んできたお兄ちゃんマイケルとのFacetimeお喋りが効いたのかもしくはCOVIDの後遺症なのか、4シームの球速が上昇し低目に納まるようになる。去年から取り組んできた第三の球種カーブもようやく効果を増してきた。圧倒的な成績ではないが、完全復活というより投球の幅が広がっている。あとは見逃し三振が増えれば第三の柱になれるか。
病み上がり三人衆の中で最も厳格な投球数制限下に置かれていたのがラメット。今季6先発で302球。1先発あたり平均50球である。伝家の宝刀スライダーの切れは健在で立ち上がりは素晴らしく、過去2試合は70球を超えているが、最後のイニングで球速が1-2マイルほど急低下してしまう。とはいえこれ以上トミージョン手術の患者を増やすわけにはいかないので慎重にビルドアップを続け、100球を100%の力で投げられるのはオールスター後あたりか。
また先発起用はスポットのみだったが、2017年のルール5ドラフト生存者ミゲル・ディアスが球種を4シームとチェンジアップにしぼり制球を改善。のちにロングリリーフに起用されても好投を維持し復活以上の進化を遂げたことは、疲労した投手陣の中で数少ない光明だった。
リリーフ投手陣
ERA2.59でNLトップ、fWAR1.8は4位。5月以降も気が付けばクレイグ・スタメンが労基署に怒られそうなほどの頻度で登板。リリーフでの35.1イニング登板はパイレーツのドウェイン・アンダーウッド・ジュニアに0.2イニング差の2位。アンダーウッドより11歳年上のスタメンが放るシンカーの球速は落ちているが、カーブを多投しK/9は10.25と37歳でキャリア最高。回跨ぎや緊迫した場面での登板が目立つ。
緊迫した場面といえばいつもギリギリな場面で目にするのがティム・ヒルだ。左打者のワンポイントとして獲得されたが、今年は右打者を得意としている。右打者にはシンカー、左打者には4シームを昨年よりもダイナミックなフォームで投げると、ボール球でも意外に打者は手を出して空振ってくれるので有り難いが冷や冷やする。
NL最多19セーブを記録しERA0.66のマーク・マランソンだが、5月以降のfWARはパドレスのリリーフ投手中最低である。4月は無敵だったカーブの制球が甘くなりボールになるか逆に甘く入ったところを打たれていた。幸い大量失点に結びつく事はそうないが、三者凡退でゲームセットという場面も減少した。
5月以降最多試合登板数トップ3だったピアース・ジョンソン、アダムス、エミリオ・パガーンはK/9が12超えと総じて好調だった。速球で94-95マイルを出せる二人、PJのパワーカーブ投球比率は73%、アダムスのスライダーに至っては89%である。与四球と一発を喰らう印象が強いパガーンだが、空振りを奪える高回転4シームは健在である。
開幕から欠場のマット・ストラムとハビアー・ゲラに加え、ダン・アルタビラ、テイラー・ウィリアムズ、ドリュー・ポメランツなど故障者が戻らないまま、キーオニー・ケラがトミージョン手術で全休。元々ハイリスク&ハイリターンの投手である事は承知のうえで獲得されていたので仕方がない。しかしポメランツ以外は球宴前に戻る見込みは低いので、補強の可能性はある。
投手全体では防御率2.96NLトップ、fWARは5位。20連戦と接戦の疲れが嵩み4月よりやや低迷したが、総じてそれでもよく抑えていたと言って良いだろう。特段に悪い投手が出てきたわけではない。
打者
傾向としては4月から大きな変わりが無い。つまり低打率ながら高出塁で長打が出ずよく走る。wRC+95はNL7位。左投手を苦手としwRC+13位。
振らないパドレス継続中。全体とボールゾーンのスイング%、そして空振り率がNL最低。 初球ストライク率の少なさの僅差の3位。その結果出塁率は3位。
ISOは4月のNL14位から13位とそう変わらない。僅か46試合の出場ながら17本塁打を放ち、NL本塁打数ランク2位につけるフェルナンド・タティス・ジュニアの.361は異常値だが、タティスとトレント・グリシャム以外は相変わらず打っていない。
5月以降は野手の欠場が多く目立ったが、その中で最も不在が悔やまれたのはグリシャムだろう。.301/.383/.515/6HR/7SBの打撃成績と並び魅力的なゴールドグラブ受賞者に代わるセンター守備を、フライ打球の見極めが遅く状況判断が怪しい永遠のノマド野手ことジュリクソン・プロファーに任さざるを得なかった点は負担になった。グリシャムはAAAでリハビリ試合に出場しており、早ければ今週中に合流するだろう。
さほど打っていないが20連戦中タティスに次ぎ活躍していた打者はトミー・ファム。4月.179だった打率は好転もいまだ.220台。しかし新しいコンタクトレンズに特殊機能が備わっているのかとにかく四球を選ぶ。5月以降は三振数28に対し安打と四球が共に27。出塁率は.364に達した。
勢いある打球が不運にも悉く野手の前に飛んでいたマニー・マチャドの成績が徐々に好転する一方、ジェイク・クローネンワースは今年打球速度が著しく低下しHardHit%が下位6%。しかし三振、特に上位2%を誇る空振りの少なさで.276AVG/.346OBP/.402SLGとまずまず。懸念されていた対左投手打率も.262と極端に悪くはなく、タティスとグリシャムに次ぐwRC+110を記録。
新人ルイス・キャンプサーノに代わりオースティン・ノラが復帰の捕手陣、5月の成績は良かったが、そのノラが膝のねん挫で再び離脱し復帰見込みは6月末。ビクター・カラティニが再び正捕手の座に。マイナー生活11年の末にメジャー昇格した苦労人ウェブスター・リーバスが代役を務めているが、どちらかというと守備の人なので打撃での貢献はそう多く期待できない。
残りは殆ど心配な打者である。まずウィル・マイヤーズの長打力低下が著しい。昨年長打力が開花し.318だったISOが今年は.150。今年は膝の不具合とCOVIDで戦線を離脱したが、加えて近頃は左手にサポーターらしきものを巻いて打席に立っており、過去に痛めた手首を悪くしていないか気になる。今季ここまでを通して、健康な状態でプレーしている様には見えない。
また心理的なアプローチを変えた昨年遂に離陸したエリック・ホズマーの打球が、今年は再び地を這っている。三振が減った点は好ましいがゴロ率は58%とパドレス初年度に次ぐ高さ、バレル率4.6%はキャリア最低だ。
昨年の胃腸炎かバント失敗による人差し指骨折がいけなかったのか、束の間の魔法が解けてしまった感がある。4月は.320だった打率もインプレイ打率が平準化するに伴い打率は.260台に低下。打球の速さは健在なので、やはりビヨンドマックスが必要なのではなかろうか。
オランダ領キュラソー島出身、高バットコンタクトのジュリクソン・プロファー
ドミニカ共和国出身、リーグ最速レベルの俊足ホルヘ・マテオ
韓国出身、好守が魅力のキム・ハソン
ユーティリティ三人衆はそれぞれ長所を持つユニークな選手達だが、彼らを結ぶ共通点がある。
笑顔がとっても素敵でとっても貧打。
プロファー(.222/.327/.281)は打球速度が低過ぎ角度が高過ぎ
マテオ(.208/.250/.292)はストライクゾーンの球にバットを当てられず四球率僅か1%台
キム(.208/.266/.340)はメジャーの速球に対応しきれていない
三人共インプレイ打率が低いのでアンラッキーな点もあるが、それぞれ明確な打撃不振の理由を抱えている。外野手はレンジャースのジョーイ・ギャロなど補強の噂もたっているので、マイナーオプション切れのマテオはそろそろ立場が危ういか。プロファーとキムは複数年契約(プロファーはオプトアウト可)なので少なくとも今年はパドレスに残るだろう。
打撃陣の良かった点に再び目を向けると、COVIDにより主力打者が欠場中に脇役がしっかり代役を務めホームで9連勝したことだろう。もし今季僅差で地区優勝に輝いたなら、タティス、ホズマー、マイヤーズ、プロファー、マテオ5打者が不在の中で9連勝の口火を切ったカーディナルス3連勝を分水嶺に挙げるだろう。
ファーム
トッププロスペクト昇格の可能性はまだ低い。ウェザースに後れを取ったマッケンジー・ゴアはAAAで制球難と指マメに悩まされている。キャンプサーノと短距離巧打のユーティリティ内野手トゥクピタ・マルカーノはメジャーでは打率1割台、一昨年前Low/High-Aからの3-4階級アップは厳しかった様子。しかしCOVIDプロトコルの厳密さに差が有るため、AA以下からメジャーへの直接昇格は困難。メジャー再昇格の可能性があるならばAAAでキープする方が即座の対応が容易。
AAで野手トッププロスペクトのC.J.エイブラムスは打率3割、Low-Aでは昨年ドラフト1巡指名のロバート・ハッセル3世も高出塁率で堅調。タティスとポジションが被るエイブラムスだが、今年は遊撃手での出場がメインなので、層が不安な外野へのコンバートは今年中に起こりそうもない。
投手では元球団トッププロスペクト投手の右腕アンダーソン・エスピノーザが、二度のトミー・ジョン手術を経てHigh-Aで5年ぶりに実戦登板。先発で最速98マイルの4シームとスライダー、チェンジアップを放っているが、制球がまだ覚束ないのでメジャー昇格は来年か。まだ23歳と若く使える球種も多いので、じっくり先発で育成されることを期待している。
今後の展開
20連戦の後に今日の異動日を挟み、13連戦が始まる。ニューヨークでメッツ、そして先週サンディエゴで手も足も出なかった地球上最強投手ジェイコブ・デグロムと再び対戦する。コロラドでのアウェイ3連戦とホームに戻りレッズとの4連戦はやや肩の力が抜ける対戦だが、〆に宿敵ドジャースとのホーム3連戦が控えている。
そして1日オフでダイヤモンドバックスとの3連戦で再びオフ。そこから再び13連戦(レッズとフィリーズとのアウェイ戦、ナショナルズとロッキーズとのホーム戦)でオールスター休み、そしてドラフトに突入する。その頃には各地区でのゲーム差が開き、7月末の期限前トレード話がヒートアップしてくるだろう。
毎年A.J.プレラーGMは誰も予想しない形でのトレードを敢行してきた。しかし2年前までベテラン放出によるプロスペクトを搔き集め、そして一線級の即戦力獲得のためにそのプロスペクト達を大量放出しているので、今までとは異なる補強方法が見られるかもしれない。
いずれにしても大型補強が期待されるが、個人的にはまずベテラン左腕リリーバーのオリバー・ペレスを獲得してほしい。2003年8月にブライアン・ジャイルズ獲得の為にジェイソン・ベイとコーリー・スチュワートと共にパイレーツへに放出されて以来、18年ぶりのパドレス帰還を望んで止まない。
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