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ジャンルカ・カシオーリの鮮烈なデビュー作は、深い静寂を連れてくる

ジャンルカ・カシオーリ 『Gianluca Cascioli』

録音:1995年12月 ドイツ・ハンブルク

ジャンルカ・カシオーリ、ただの才気走ったニューカマーではない。
このアルバムは、彼がドイツ・グラモフォンから発表したデビュー作(当時18歳)。
元のタイトルは単純ストレートに彼の名前だが、日本題は『デビュー』となっている。というのもカシオーリは、同じ「名前のタイトル」でもう一枚出していて、そちらの邦題は『アンコール』となっている。

内容は、
ベートーヴェン3曲、ヴェーベルン2曲、
シェーンベルク、リゲティ、ブーレーズ。
この選曲、演奏。

最初の数音が聴こえてきただけで、演奏の質の高さにハッとする。
思い浮かべる言葉は”円熟”。

グラモフォンが近年獲得した新星は、ヴォキングル・オラフソン、フランチェスコ・トリスターノなど、クラシック音楽の魅力を刷新してくれる実力派ぞろい。そこにジャンルカ・カシオーリも加わってくる。

ジャケット・デザインも、往年のグラモフォン・フォーマットで堂々たるもの。

カシオーリは作曲面でも能力を示しているせいで、演奏曲が完全に自分のものになっている。演奏者というよりも、音楽家としての演奏。タッチは明確と迷いがなく、若い頃のグルダを思わせる。

出色なのは、鮮度の高いベートーヴェンという古典解釈と演奏の後にくるヴェーベルンで、カシオーリの演奏は、よくある無調や12音を感じさせる”いかにも的な”演奏から離れている。
これも演奏者が、作曲家の名前や音楽史的な位置づけ”よりも、曲を自分に引きつけて深い理解と解釈を行い、それを演奏として表現できているから。

カシオーリが演奏するヴェーベルンの2曲を聴いていると、この作曲家の根底に流れるロマンチシズムや、大きな自然の循環性に対する畏敬の念まで思い起こされる。

シェーンベルクが初めて完全な12音技法で作曲した作品23の第5曲を経て、リゲティのエチュード「解放弦」へ。アルバム・ラストのブーレーズが書き下ろした「アンシーズ」の演奏が終わると、部屋は、突然、時が止まったような深い無音の静寂につつまれる。



#クラシック音楽 #ピアノ #カシオーリ #現代音楽 #ドイツ・グラモフォン

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