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【番外編】 『魔法使いの弟子』 ダイナマイトたく
旅の三日目、
ダイナマイトな人と出会った。
そのよく喋ること、喋ること。
日本語だから師匠たちは知らん顔。
その女性はこのLappiの、Rovaniemiという街にある日本人教会の牧師だ。
タクさんというらしい。僕と同じ「たくみ」という名前なのだ。
僕の親ぐらいの年齢なのに、師匠と同じぐらい目がキラキラしている。
Kemiの正教会の司教さんが紹介してくれたのだ。
この人は僕のこの後の音楽人生でとても重要な役割を果たすのだが、この時はまだそのマシンガントークに、ただただ引くのみだった。
「わたしはずっと救われたくてもがいてたの。心の中のどうしようもない穴を埋めたくて、必死に努力、そう努力していたの。でもね、神様だけ、神様だけなのよ。この穴を埋められるのは。信じたら人生変わるよ。ねぇ、あなたも信じてみない?あなたの人生は虚しくないの。信じられる?この美しい世界を作った人がいるんだよ。君のことを愛してるんだよ。だからね、、、」
気を抜いたら彼女の世界に引き込まれそうである。
しかし、一歩引いたらとっても良い人で、たくさんのお世話を約束してくれた。
一番大きかったのは日本の人たちとの連絡である。
今までもお母さんのパソコンを使って直々メールをしていたが、なかなか難しかった。
ビザ関係のあれこれも、僕にはわからないことだらけだった。
「任せて」
この簡素な一言で、このあと本当にたくさんのことをしてくれた。
僕はこの旅の後で、彼女に大きく感謝することになるのだ。
しかしこの時は、本当によく喋る人だなぁとしか思っていなかった。
久しぶりの日本語は耳に心地がよかった。
彼女と共に食事をし(食事の時はフィンランド語だった)、彼女の教会のメンバーや、近くの人たちを呼んで演奏会をした。
演奏はここでも大成功。大きな拍手に包まれた。
特に彼女は目に涙を浮かべて感動していた。
「すごい! 本当に素晴らしいわ!
このフィンランドの地で、日本人の、それもこんなに若い人が、こんなにもフィンランドを理解しているなんて!
ごめんね、私おしゃべりで。ほんとはもっと無口なのよ。
でも、本当に感動したの!」
そう言って僕の手をブンブンと振った。
すごいのは師匠やEeviやお母さんだと僕は思うけど。
褒められて悪い気はしない。
「わたし、賛美を歌いたい!」
そう言い始めた。
「さ、賛美?」
「そう!神様を褒め称える歌のことよ!教会で歌うの!」
「あ、讃美歌のことか!」
「そうそう、日本語の素晴らしい賛美もたくさんあるのよ!」
そういって師匠たちに楽譜を渡し、ぐいぐいと交渉を始めた。
観客には何人かの日本人もいて、その人たちも歓声をあげた。
懐かしい気持ちらしい。
僕は日本にいた時は教会なんて行ったことなかった。
あることも知らなかった。
キリストの話なんて聞いたこともなかった。
そして僕らは「歌いつつ歩まん」という曲をすることになった。
師匠が華麗な前奏を弾く。
タクさんが大きな声で歌い出した。
それに合わせて、来ていた日本人たちも歌い出す。
フィンランドの空に日本語が響く。
みんなの声がオーロラの中に溶けていく。
「うたいつーつ ゆーこおー
ハレルヤー ハレルヤー
うたいつーつ ゆーこおー
この世の 旅路を〜♪」
「ああ、あたし、生まれてきてよかった!
こんなに嬉しい気持ちになれた!
ああ、あたし、ここに来てよかった!
もう、死んでもいいわ!」
そう言って涙を浮かべるタクさん。
「もう〜、タクさんはいつもすぐ泣くんだから〜!」
そう言ってからかう周りの人たち。
みんな子どもみたいだ。
白樺の木から、ドサリと雪が落ちた。
参照:『オーロラ迷走記』ダイナマイト・たく著
フィンランドの話はこの本をたくさん参考にさせていただきました。
Special Thanks!
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