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「天才とホームレス」 第23話 『二年後と今』

「今日で3年目、なんと22回目の祭りということで、
 ゆきやくん、どういう気持ちでしょうか?」

吊るされた巨大な猪をバックに、僕はマイクを向けられた。
ローカルテレビ局のキャスターが目の前に立っている。

最初の祭りから2年が経った。
今日は一年で七度ある祭りの中で一番大きな夏のお祭りの前夜祭である。

「本当に嬉しいですよ。
 僕は代表という肩書きをいただいていますが、この祭りはたくさんの方の働きで成り立っています。」
「え、ちゅ、中三なんですよね、、、?」
大きな目をパチクリさせるお姉さん。
この3年間、さまざまな取材を受けてだいぶ慣れていたのだ。

おっちゃんも神父も、あまり前には出たがらない。
てっぺいはもちろんだ。
全部僕にやらせるんだ。

「なんというか、もはや、村、ですよね、、、?」
規模の大きさに彼女は驚いているようだ。

真ん中には大きな和太鼓、
また別のところには猪が吊るされていて、
遠くには簡易の囲いの中に牛や羊。
彫刻や絵のアート作品が点在しており、
木造のアスレチックが建てられている。
橋の下辺りには居住区がある。

「ははは。住人もいますしね」
そういうとキャスターは苦笑いをしていた。

実はその「住人」たちの働きがすごいのだ。
彼らの中にはいろんなスペシャリストがいたのだ。
さまざまな会社と繋げてくれ、さまざまなアイデアを出してくれて、
祭りはどんどん規模が大きくなった。
とはいえこの話はテレビでは言えない。

「聞けば、相当な人数が関わっているんですってね。
 ゆきやくんはその代表として、大変じゃないですか?」

「確かに、本当にたくさんの人たちが関わってくださっています。
 でも僕がまとめているわけじゃありません。そんなことはできません。
 この祭りでは、参加者は同時に協力者なんです。
 そういう意味で村なんですよね」

「本当にたくさんの人材がいますよね!
 どうやって集められたんでしょう?」

「ありがとうございます。
 それは集まっていったんです。
 祭りを通してもそうだし、僕らの会社「ロケットえんぴつ」の繋がりからもです。
 僕は師匠に、仕事とは友になることなんだ、と学んだんです。
 祭りもそのためのものなんです。
 友が友を呼んで集まって宴をするのが祭りなんです。
 僕は友を作るのが下手だけど、祭りのおかげでたくさんの友ができました」

「友になる、、、。
 ありがとうございます。私もなれるでしょうか、、、」

「もちろんです」
ニコッと笑った。ここらへんが上達したところだ。
その後もじっくり話して、彼女らは帰っていった。

前夜祭と後夜祭をする。
テントで泊まることができるのだ。
決まっているのは焚き火を囲むということだけ。

さぁ、三年目の祭りが始まる、、、!


次第に人が集まってきた。
キャンプファイヤーを牧場のみんなが組み立ててくれた。

2年が経って、牧場や町工場の状況は変わっていた。
一番大きい変化は、牧場の森の中にアトリエができたことだろう。
そこにアーティストたちが住み、自給自足に近い生活をしながら作品を描いている。
祭りでは河川敷をアトリエにしてもらって、大きな作品を描いてもらう。
そして描きたいという人を巻き込んで行ってもらうのだ。
てっぺいのアイデアである。
てっぺいを含むアーティスト集団がセグウェイに乗ってやってきた。
でかいキャンバスを担いでいる。

てっぺいは漫画を描いていた。
牧場の漫画だ。
それを牧場のHPに載せたり、お客さんに配るチラシに載せたりして連載をしている。
漫画雑誌に載る以外の連載の仕方があるのかと驚いたが、実は昔からある形らしい。
そして漫画家を集めて「ロケットえんぴつ」のつながりがある会社と契約して、その会社のための漫画を描いてもらう。
この街の人たちしか知らない漫画だ。
漫画家たちの一部も牧場のアトリエに住んでいるのである。

町工場はあの三人の活躍もあり、ブランドとして全国で、いや全世界で有名になってきているらしい。
その作る商品が面白いと、世界中の展覧会を回っている。
特に注目されているのは、あの着脱式セグウェイと小型バイオガス発電機である。
日本以上に酪農産業が身近な国では、画期的なアイデアらしい。
そこら辺もプロデュースはすべておっちゃんである。

おっちゃんは全く変わらない。
家が多少、アーティストたちによって彩られたぐらいだ。
変わらないのにどんどん人が集まってくる。
会社もホームレスも、だ。

これまでの祭りにはホームレスも普通の家族も、ヤンキーも来た。
僕らはその度にどうしようかと狼狽えたが、おっちゃんとパウロ神父がいれば、何の問題もなかった。
その、目に見えない垣根を壊していく。
たくさんの人がいて、そこでいろんな人が混じり合っていく。
境界線が壊されていく。
友達になっていく。
二人が、混沌とした海の中を悠々と泳ぐ魚に見えた。
二人は全く、人の評価を気にしない。
だから人のことも評価しない。だから人が集まってくるのかもしれない。
そして集まった人も、気がついたら泳ぎ出してしまうのだ。

そうして高く組まれた木の周りに多くの人が集まった。

「Yeah-------------!!!!」
パウロ神父の叫び。

前夜祭が始まった。


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