小説 創世記 5章
5章
一雄とイブキが河原を離れて半年が経った頃、
二人は牧場にいた。
歩き始めて、二人が拾った犬はまさに、神からの使いのようだった。
川に入ると魚を取ってきて、食べられない野草には吠えた。
犬のおかげで、二人は食うに困ることはなかった。
犬は「セツ」と名付けた。
あまりにもセッセと働くからである。
数日間歩いたある昼下がり。
橋の近くに一人のおじいさんが座っていた。
セツがそこに近づいていって、隣に座った。
一雄は話しかける。
「大丈夫?なにか食べる?」
おじいさんの声は思ったよりも元気だった。
「おお、ありがとう。何かくれるかね。」
そこで二人と一匹は、川から魚を取ってきて焼いた。
二人もそこでご飯にすることにした。
おじいさんはムシャムシャとそれを食べた。
「君たちはどこへ行くんだね?」
おじいさんは静かな声で尋ねた。
「わからないんだ。でも神様が行けっていうんだ。」
「そうか。」
「じいさんは?」イブキが聞く。
「わしはここが目的地じゃ。わしの人生はここで終わるじゃろう。」
二人は冗談かと思って笑ったが、おじいさんは続けた。
「このまま、ゆけ。
神がお前たちと共にいる。
私はエノク。お前たちと同じように、神と共に歩む者だ!」
おじいさんが本気の目をしていることはわかった。
焚き火の火が消えつつあったので、二人はそろそろ行こうかと立ち上がった。
おじいさんは最後ににっこりと笑って、二人に手を振った。
「ありがとう」と言い残し、出発した。
風が吹いて振り返ると、そこにおじいさんの姿はなかった。
しばらく行くとセツが一匹の羊を見つけた。
こんなところになぜ?と二人は思ったが、その答えはすぐにわかった。
セツが吠えて羊を走らせるとその先に羊の群れがいたのだ。
さっきの羊が群れに合流し、どの羊だったかもわからなくなったころに、一人の大きい男が近づいてきた。
「ありがとう!羊が一匹迷子になって困っていたんだ!」
一雄はもっさりと生えた男の髭をカッコイイと思った。
「君たちが見つけて連れてきてくれたんだね?」
山男はグイグイとくる。
「い、いや、この僕らの犬がやったんだ」
「おおー!そうか!賢い犬だ!」
そこに声がした。
「この男のところに行け。そこに住め。その心は良い。」
男は言った。
「僕のところに来ないか。この前、牧羊犬が死んでしまったんだ。
君たちが来てくれると助かる!もちろん一緒に住んでくれたらいい。」
丘を登っていった先に牧場があった。
馬、牛、羊、山羊、いろいろな動物が広大な土地にいた。
そして大きな木の看板が立てられていた。
牧場の名は『Noah’s Ark』であった。