小説箴言 7章
7章
夜、おばあちゃんの家まで、お父さんと車で行くことになった。
僕(悟)が学校から帰ってすぐに、お父さんの妹から電話があって、調子が悪いから見に行ってほしいとなったそうだ。
お母さんは仕事だからいけなくて、夕飯の都合で僕も一緒に行くことになった。
二時間ほどある車の中で、お父さんとたくさん話した。
あの子のことを話した。
お父さんの教えてくれたことを守ろうとしていることも。
するとお父さんは驚き、そして喜んでいた。
「僕はその子の名前も行ってる学校も知らないんだ。でも好きなんだよ」
「ははは。わかるよ。男はそんなもんだ。
悟。お前に言ったことは本当にそうだと、俺も思うよ。
俺も母さんのとき、そうだったんだ。はは、、、」
ポツリ、ポツリと昔話をゆっくりとしてくれた。
「真っ直ぐに、真っ直ぐに、その人だけを見て、目を逸らさないこと。
それは例えうまくいかなくても、お前の財産になるよ。
本当に大事なものを大事にするんだ。
お父さんも母さんが若い頃、ずっとずっと思い続けてついに付き合えたんだ。
もっとうまく器用にできたかもしれないけど、そんな人を羨ましいとも思うけど、
でもこれでよかったとも思うんだ。母さんを大事にできるからね。
実はね、この言葉を言ってくれたのはお父さんのお父さん、おじいちゃんだったんだ。
いつの間にかこの言葉が俺の相方みたいになって、
この掴んだ大切だって確信が親友になったんだ」
車は暗い道をずっと走っている。街灯が等間隔で流れていく。
「お父さんが若い頃な、
大学生の時だった。
一人暮らしの部屋の窓からいつも外を見てた。
ケータイもパソコンもない時代、暇やったからな笑
俺と同じぐらいの歳の男が、よくそこを通っていた。
時には何人かと。
時には一人で。
そして時には可愛い女の子と。
そいつは特にかっこいいとか、背が高いとかではなかったけど、
純粋そうで、なんか目が離せなかった。
そんな彼がある時、派手な女性を連れているのを見たんだ。
夕暮れ時の日がもう沈むかという時だった。
彼の目はいつもと違って、なにか焦っているようだった。
彼女はわざとらしく大きな声で早口で喋っていた。
「あなたを待っていたの!
あなたが私の運命の人なのよ!
私、こんな見た目してるけど遊んでる女じゃないのよ、
ほんとに真面目なの。
私はあなたに会うためにあそこにいたのよ!
さぁ、私の部屋に行きましょう。
朝まで楽しむの。私のベッドの上で。
私たち二人だけで。ね、行きましょう」
その言葉の滑らかなこと。そして魅力的なこと。
彼は操られているかのように彼女に連れられていった。
俺にはそれが屠殺される牛の運ばれていく姿に見えた。
その後、しばらく彼の姿は見なかったが、
数ヶ月経って久々に見た彼の姿はずいぶん変わっているように見えた。
服装は派手になり、寂しそうな目をしていた。
俺には彼が、何かを失ったように思えた」
お父さんは寂しそうだった。
そして、静かな車内で、すこし大きな声を出した。
「悟。頼むから悟れ。
俺はお前を信じてる。
お前は頭の良い子だ。よく考えろ。
そのような道に心を逸らすな。
その先は迷子だ。暗闇だ。
多くの人がその道に入り込んでしまう。
その先に待っている死を知らない。
死んでも気づかない。
だから心を見張りなさい。
命の泉はそこから湧く。
大丈夫、お前の信じた道の先には希望があるよ」
おばあちゃん家に着いたのは結局、夜の7時ごろだった。
思ったより元気そうなおばあちゃんを確認した後、二人でラーメンを食べた。
家に着いたのは10時を過ぎていた。
ふぅーーーっと長い息を吐き出しながらベッドに寝そべる。
「まっすぐ行こう。うん。まっすぐ」と、つぶやいて眠りについた。