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『公園物語』 その3
砂場の草はなくならない。
だいぶ減ったかと思ったら梅雨に入り、
梅雨が明けたらまた生えていた。
しかもけっこうしっかりしたやつ。
悔しさに混じって、まだ続けられるという安心があることに、僕は驚いた。
そろそろ暑くなってきた。
夏になったらどうなってしまうのか。
まだ草を抜いているのだろうか。
終わりの見えない草抜きを、終わりが来るまで続けていく。そのうち何かが見えるはず。
そんな時、妻が、秘密基地の鍵を持って帰ってきた。
仲間は小学4年の女子。
娘と一緒に遊んでる時、出会ったらしい。
鍵は妻と、もう一人だけが持ってるらしい。
そんな26歳いるか? 最高じゃないか。
初めて団地でできた友達。
なるほど、秘密基地か。
心の中の少年が踊った。
いつか本気で作ると、心に決めた。
次の日、昼過ぎ、チャイムが鳴った。
ピンポーン!
「ともちゃーーん!!あそぼー!!」
めっちゃ友達やん、、、
娘たちを連れて、僕も一緒に遊びに行った。
木の下に隠した「鍵」である木の棒をとって、
公園を囲む森の中にある秘密基地へと案内してくれた。
秘密基地には特に何もなく、ただ草の少ないスペースだけがあった。後は入り口として、木と木の間に木の棒を置いて、それを開ける道具としての木の棒を鍵としていた。
おお、それだけでいいのか。
たしかに秘密基地とは、それだけでいいのだ。
なんか感動した。
その日はその子と僕ら家族で遊んだ。
「あ、門限」と言ったかと思うと急に帰った。
「自由か。すげえな」と、つぶやいた。
僕のことはずっと呼び捨てで、妻はちゃん付け、2歳の娘もちゃん付けだった。
うん。友達になる、ということ。
その時間が、僕ら家族の喜びとなった。
大収穫の1日だった。
帰り道に妻が
「砂場の草、だいぶ減ったね!」
と、言ってくれて、そう言われればそうか、と思った。
言われなければ気づかないのだ。
梅雨明けに草抜きの意味がわからなくなっていた僕にとって、それは朗報だった。
無駄じゃなかったんだ。
夕日が綺麗だったのと、
夕飯の時間までもう少しあったから、
みんなで木登りなどをした。
木登りをしながら「一人じゃこれはできないな」と思った。妻と娘が一緒にいると、怪しさが一気に小さくなるのだ。
誰もこない公園で、誰かの目を気にしていることに気づいた。
そうか、草抜きは、そんな公園に居続ける「口実」になるんだ。
でも、なんで居続けたいんだ俺は。