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「天才とホームレス」 第24話 『みんなと僕』

繋ぐ

それが僕たちの会社「ロケットえんぴつ」の役割だ。

人と人を繋ぐ。
会社と会社を繋ぐ。
業界と業界を繋ぐ。

繋ぐとは混ぜること。
境界線を壊すのではなく、超えられるようにするのだ。

この2年半、会社とは僕たちがそう呼んでいるだけで、金銭のやり取りがないために、厳密には会社ではなかった。
機能はしているが、ビジネスはしていない。
会計もなければ経理もないのだ。

それは会社というよりもNPOとか、社会活動に近いということが、活動の中でわかっていった。

それでも僕らの仕事は、確実に街に利益を生み出していたし、
メンバーには、経験という財産で還元されている。
実際に手に職をつけていっている。

例えばダイチ(14話参照)は大工だ。
河川敷に設置するアスレチックは、牧場から紹介されて大工の棟梁たちと友達になったところから始まった。
いとも簡単に僕らの想像した遊具をつくってしまうおじさんたちに、僕らの心は踊った。
特に目を輝かせていたのがダイチだった。

そしてダイチは営業部隊(いろんな人と友達になる役割)をやめて、その大工仕事の手伝いをするようになった。
今は牧場が持つ山の中で、木造の家と共に、いろんなアスレチックを作っている。

テツは彫刻だ。
繋がったアーティストたちの中に彫刻家がいた。
山で切った木を格安で仕入れたいと、向こうから連絡してくれたのだ。
そして祭りのたびに、そこで作品を作ってくれるようになった。
ライブペインティングならぬ、ライブカービングである。
それに惹きつけられたのがテツだ。

彼も営業をやめ、そのアーティストの弟子となった。
面白い作品を作り続けている。
そして彼にも弟子ができている。さらに年下の。

シュンは営業として走り続けた。
外部交渉が格段に上手い。
僕らの中で一番大人で、大人の扱いが上手い。
いろんな会社、いろんな人のところに飛び込んでいく。

彼が集めたインタビューは、会社の財産だ。
アーティストたちと企業を繋ぐアイデアもどんどん出してくれる。
企業に漫画を連載させるというのも彼のアイデアだ。
コミュニケーションの目的という水を得て、彼はものすごいスピードで泳ぎ出したのだ。


僕らの会社に上下はない。
役割だけがあり、その役割もそれぞれがその時々に選ぶ。
代表は僕だが、命令はしない。
僕やてっぺいを面白がってくれて、助けてくれている人が集まっているだけだ。
そこには明確なラインはなく、把握もコントロールもしない。できない。
しかし、それが成り立っているのは金銭のやりとりをしていないからだということは、経験のない僕でもわかった。

夏が終わる頃、
町工場に行った三人(2話参照)の内の一人であるヤヘイが、町工場を離れてアメリカの高校に行った時、僕はハッとした。
次に進まなければならない。

出会った時、中1の坊主頭だったヤヘイは、町工場で着実に技術力と知識をつけ、さらに海外の展覧会についていくなどして、英語を習得し、
夢である宇宙飛行士への着実なステップとしてアメリカの高校を選んだのだ。
そして9月の入学に向け、日本を発った。

数学女子のセナは今、中1である。
彼女が、ついこの前に夏休みの自由研究で認められてJAXAに呼ばれたという。
彼女は町工場とJAXAの両方を行き来している。そして繋ごうとしている。
彼女もまた、新しい領域へ突き進んでいる。
すごい。

パソコンオタクのハマは今、Googleと仕事をしているらしい。
実はハマは一番年上で、今や大学生なのである。
アメリカの本社のエンジニアと対等にやりとりをしている。
お世辞にも上手いとは言えない英語で、しかし臆することなく堂々と議論しているその姿は、あくまで後ろ姿は、かっこいいと思った。

焦る。
僕らも次に進まないと。

実は僕にはどこかのタイミングで踏み出さなければならない一歩があった。
ずっと頭の中にあった一歩。
それこそが「金儲け」だ。

きちんとお金を稼ぐ。
今度こそ会社にする。
これまでの道のりはその下準備なのだ。

しかし、怖い。

この一歩は本当に覚悟がいることだ。
僕はそれを小学校まで叩き込まれてきたのだ。
でもだからこそ、踏み出したいと思う。
これはてっぺいにはできないことだから。

やる。
やれることはなんでもやってやる。

恥をかく。


そう書いて、僕は日記をパタンと閉じた。




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