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#3 記憶力

記憶力。

それがのちに共同創設者となる
「安間 雄一郎」との最初の出会いで
強烈に印象に残ったことでした。

「辻は高校の時のクラス、1年は10組で
 2,3年は2組やんな?」

(え!?)驚きました。

1学年24組ある高校で
それほど目立ちもせず過ごしていた
僕のクラスを覚えていました。
それも自分ではすぐに思い出せなかった
1年の時のクラスまで。

「10組の前田とは昔から仲が良くて。
 辻は前田の3つ後ろの席やったやろ。
 いつも休み時間、寝てへんかった?
 宇野といつも一緒に帰ってたよな。」

自分でもほとんど忘れていたことが
スラスラとでてくる安間に
言葉が出ませんでした。

またある時、テニスサークル内で
ある男子と女子が付き合い始めた
というニュースが流れました。

ビバヒルのような恋愛が盛んなサークルで
恋愛はテニスの勝ち負け以上に
重要な要素を占めていました。

ビッグニュースに騒然とする仲間を横目に
安間はいつものようにテニスコート脇で
たばこをくゆらせながら、
あの時、男子はこういうことを言っていた。
その時、女子はこんな素振りを見せていた。
と、こと細かに解説し始めました。
それはカップルになることが
必然だったような話し振りでした。

そして僕は、安間のその「記憶」の原動力は
人より数倍もある<好奇心>であることに
気がつきました。

好奇心からくる、記憶力、観察力、想像力。
それが安間の持つ高い能力でした。

安間は、話し好きでもあり、
聞き上手でもありました。

大阪ミナミでアルバイトとして
バーテンダーもしていました。
その話の面白さとゆったりとした雰囲気で
お店でも常に人気者でした。
よくお客さんに、ご馳走になったり
時には店を出て、飲みに連れて行って
もらったりもしていました。

次第に僕は、些細なことでも
安間に話すようになりました。
日常のちょっとした疑問や
自分の長所や短所、過去のこと、
今、考えていること、
これから先の未来のこと、
自分の意見を言い、
なぜそう考えるかに至ったかも
話すようになっていました。

安間は決まって肯定的にうなずきながら
僕の考えを大事にしつつも、
自分の考えも話してくれました。

そして、否定的な考えを展開する時は
頑固な僕の性格を鑑み
注意深く、タイミングを見計らい
会話の中に織り交ぜてくれました。

そして、いつも最後には
「俺はそう思うけど、
 辻がどうしたいか、なんちゃう?」
と締めくくられていました。

そうして、毎日のほとんどを
共に過ごすようになっていました。

僕たちは18歳で、まだ若く
何か知らないことを見つけると
好奇心をむき出しにして
それを見て、触り、感じ、
それを何かに使えないか想像しました。

周りにとってはどうでもいいことでも、
想像したことを口に出し、考えを共有し、
違った角度で何かを発見しようとしました。

安間の大きな好奇心が起源となり
この時期、たっぷりと時間を使い
一見、無駄かと思えるくらいの
経験を存分に行い、
お互いの考えを共有しあいました。

生涯、共に生きていくことになる礎を
築くための、とても大切な時間でした。

(つづく)

以前、会社のメールマガジンで掲載していた起業記です。
お時間よろしければお付き合いください。


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