「現場経験なし」の善し悪し
メディアやSNSで、「中小企業の後継者に現場経験は必要か否か」の議論を目にします。
僕は33歳のとき、後継者として家業に入社しました。しかし、現場経験はありません。
事業承継までの時間的猶予が短く、「経営全般に関わってほしい」という社長(父親)の意向です。
先に断っておくと、「現場経験は必要か否か」の答えはわかりません。どちらも経験することはできないので。
ただ、入社から3年が経ち、「現場経験なし」の善し悪しはわかってきました。
あくまで僕の主観ですが、まとめてみようと思います。
良い点
①フラットな目でみれる
意思決定が必要なときや問題が発生したときに、フラットな目でみれます。
たとえば、部門間で意見が分かれた場合、どちらか一方だけの経験があると、客観視できない可能性があります。
経験が良くも悪くも基準(当たり前)をつくり、固定観念や感情移入をうむからです。共にした時間が長ければ長いほど、言い分もわかるし、情もわきます。
しかし、経験がなければ、それらのノイズは減らせます。もちろん予備知識はいりますが、より事実や根拠にフォーカスした判断が可能です。
②中長期の課題に取り組める
時間に余裕ができるため、中長期の課題に取り組めます。
各現場は目の前のやるべきことが最優先です。どうしても、中長期の課題は後回しになります。
特に中小企業の管理職は、マンパワーの問題でプレイングマネージャーも多く、時間の確保が困難です。
僕の場合は、入社後半年間だけ検査室勤務でした。それ以降は特定の部署に所属していません。何をするかも自分で見つけろという方針でした。
だから、時間をかけて「緊急ではないが重要な課題」に取り組めました。おそらく現場に入っていたら、新工場建設は進んでいなかったと思います。
③感謝と尊敬の気持ちが強くなる
自分ができないからこそ、現場に対する感謝や尊敬の気持ちは強くなります。
特に製造業は奥が深いです。技術や知識は一朝一夕で身につきません。
実を言うと、僕も入社前は現場配属を希望していました。仕事の全体像をつかみたかったからです。でも、そんな簡単な話ではないことを、今なら理解できます。
家業に入社してから、できないことは増えました。一方で、現場に対する感謝と尊敬の気持ちは、これまで勤めた3社のなかで最も強いです。
自分ができないことを任せられる環境のおかげで、自分にしかできないことに注力できています。
悪い点
①業務理解に時間がかかる
とはいえ、現場経験なしに知識や技術を理解することはかなり大変です。勉強にたとえるなら、問題集を解かず、教科書のみで理解する感覚に近いかもしれません。
また、どうしても質問が多くなり、必要以上に相手の時間を奪います。タイミングもうかがわなければなりません。
後継者に求める業務理解度は、組織によって違います。しかし、議論に支障をきたさない理解度は必要です。あまりにも的外れな意見は、まわりを疲弊させます。
月並みですが、わからないまま放置せず、聞くべき相手に質問する。これを地道に続けるしかありません。
②社員との距離が遠くなる
後継者は本人の性格がどうであれ、目立つ存在です。自分が思っている以上に、一挙手一投足をみられます。
この状況で「現場を経験しない」となれば、社員との距離は遠くなります。いかなる理由があるにせよ、批判的な意見はあって当然です。
だからこそ、社員の信頼を獲得するには、ちょっとした行動の積み重ねしかないと思っています。
ちなみに僕は、5つの行動を意識しています。
神輿を担いでもらってる立場として、最低限のマナーです。
「結果で信頼を得る」という話をよく聞きます。しかし、口で言うほど簡単ではありません。むしろ、社員の協力なしに結果は残せないのではないでしょうか。
最後に
好き勝手書きましたが、正解はありません。
ただ、もし3年前に時間を戻せるなら、「1年で全部署をまわりたい」とお願いします。
これは仕事を覚える目的ではなく、社員との接点をつくりたいからです。
そう思ったきっかけは、上述の検査室勤務です。ほぼ戦力にはなれませんでしたが、同じ場所で同じ時間を過ごしたことで、相手を知ることができ、自分を知ってもらうこともできました。
なにをするにしても、最後は「人」です。早い段階で、お互いの性格や人柄を知ることはプラスでしかありません。チームワークがものをいう製造業にきて、その思いはさらに強くなりました。
同じ境遇で悩まれている人の参考になれば幸いです!
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