“アウステルリッツ”をめぐって
Ⅰ. アウステルリッツ 『アウステルリッツ』は、ドイツの作家W.G.ゼーバルトによって2001年に著された、彼の遺作である。語り手であるドイツ人男性が、偶然かつ運命的に出会ったアウステルリッツなる人物の半生を聞き、時にはそれを書き留めているといった体裁がとられている。前半部には、衒学的とも呼べる主人公アウステルリッツによる建築や地政学的な知識のあれこれが延々と述べられる。しかし、様々な類縁性を辿る博識は、彼自身の出自の不明瞭さに起因していたことが示される。物語の後半からは、イ