生まれ直したい
「早く帰って死のう」
リョウコは毎日デスクでパソコンに向かいながら、頭の中でそう呟く。
入社2年と、もうすぐ半年。
周りは違う時間軸が流れているかのように、みんな忙しなく仕事をこなしている。
リョウコの業務は、入社2年と半年、ほとんど同じで発展していない。
入社前はもっと出来ると思っていた。
人と話すのは嫌いじゃないし、パソコンも苦手じゃないし、頭の回転も早い方だと思っていた。
でも、リョウコにとって想定外だったのは、会社で上手くやるにはなるべく目立たないで皆と横並びでいること、前に出すぎず、かと言ってやる気を見せないわけでもなく。
「可愛くないから仕事を教えてもらえないんだよ」
半年前に別れた彼はリョウコにそう言って、同じ部署のもっと若い女の子を「あの子、かわいいね」と何の気なしに言っていた。
彼は向こうの島で上司の顔をして得意先に電話をかけている。
去年の今頃も、同じことを考えていたっけ。
「早く帰って死のう」
去年は別の気持ちで考えていた。
リョウコは人生を悲観していた。
この歳で、ひとりで、さみしくて、お父さんとお母さんに、こんな娘でごめんと思っていた。
なんで私はどこでもうまくやれないのかなぁ。
彼は一度私を見つけてくれたけれど、私が可愛くないから、痩せていないから、すぐ泣くから、大切にしてほしがったから、
あぁ、いつも考え出すと見えなくなる。
本当に気付かなきゃいけないこと、直さなきゃいけないことたち。
きっと見たくないからわからなくしてしまうんだろうな、私の頭の中は。
リョウコはそんな事を考えながら「早く帰って死のう」と、今日も頭の中で唱える。
ほんとうは死んだりする勇気なんかない。
でも、今、会社の中で涙をこぼさないために、お昼にユカちゃんと愚痴を言って笑い合う女優になるエネルギーを貯めるために、
今日、帰りの電車で泣かないために、
ただ唱える、「早く帰って死ぬために、今生きろ」と。