風景画の中へ吸い込まれる@クールベと海 ー フランス近代 自然へのまなざし展
『クールベと海 ー フランス近代 自然へのまなざし』
「私は目に見えるものしか描かない」と宣言したギュスターヴ・クールベ(1819-1877)は、19世紀フランスを代表するレアリスム(写実主義)の巨匠です。
『オルナンの埋葬』が有名なクールベですが、本展覧会はクールベが描いた自然に注目しています。
わたしはシュルレアリスムが好きなので、実はあまりこの展覧会にワクワクしていなかったのですが... いざ展覧会に足を運んでみると、満足感がとんでもない、大変充実した時間となりました。
今回は、展覧会を通して満たされたことをまとめてみました。
満たされたこと(1)海について 初めて触れる知識に満たされる
小倉孝誠先生の「海」のお話(山梨県立美術館「クールベと海」展 ギャラリートーク)が、この展覧会に行こうと思ったきっかけになりました。
現在「海」というと、海水浴や、リゾートのイメージが当たり前のように浮かぶと思います。
しかし、18世紀半ばくらいまでのヨーロッパでは、
×楽しむために海に行く
×海の景色をみて美しいと思う
ということはなく、むしろその真逆で、海は、
・どこか恐ろしいもの
・(宗教的には)混沌と恐怖に満ちたイメージ
=荒れているものこそ海(畏怖の対象)
という考えが根強くあったそうです。
18世紀の後半になって、だんだんと人々の感受性が変わり、身近な自然の情景に美しさを発見していくようになります(=ピクチャレスク美学, イギリス発祥)。
動画を通して、海に対する感受性が昔と現代とで全く異なることを初めて知り、また、ターナー、モネ、ミレー、シスレーといった様々な画家による「海」の表現の違いが気になり、展覧会に行ってみようと思いました。
『クールベと海』と題されていますが、展覧会前半には、クールベが描いた自然や動物の絵が展示されています。
小倉先生曰く、当時からクールベの雪景色は評判がよかったそうです。
(実際とても綺麗でした)
また、当時描かれていた動物というのは、
・田園地帯の家畜を描いた牧歌的な作品
・神話的な構図の中に動物を配置する伝統的な作品
が多かった中で、クールベが描く動物はそれらとは異なり、自然の中で実際に見た自然な動物の姿だったそうです。
そういった作品も見てみたい、と思いました。
満たされたこと(2)吸い込まれるような森 神秘的な美に満たされる
クールベが描いた自然の中で、吸い込まれるように見入ってしまった作品が、『オルナン風景』です。
作品を見ているうちに、「この小川の奥には何があるのだろう...」、「どこにつながっているのだろう...」、と疑問がどんどん湧き上がり、物語が始まっていく魅力を感じました。
今まで風景画を見たときには感じなかった不思議な感覚があり、風景画は退屈じゃない...!と思った最初の作品が、この作品です。
満たされたこと(3)シックな会場の雰囲気 安らぎに満たされる
汐留美術館の展覧会会場はこのようになっていました。
セクションごとに違う色の壁紙が施されていて、その色によって作り出される雰囲気が居心地よく、作品を鑑賞しやすい空間になっていました。とても癒され、ずっとその場にいたくなる会場でした。
少し記憶が曖昧ですが、こんな感じの色でした(下図)。
満たされたこと(4)疲れずじっくり鑑賞できる展示数 幸福感に満たされる
全部で約60点ほどの展示だったため、疲弊することなく全作品を見終えることができます。一点一点をじっくり鑑賞できるため、物足りないということもありません。美術展って最高だな、また来たいな!という気持ちで、展覧会場を後にすることができました。
まとめ
・興味のない分野の美術展だと、行くのを躊躇ってしまいがちですが、そういう展覧会での出会いや発見には何か普段とは違う意味があり、新しい楽しみへと繋がるものがあると思いました。
おまけ1
コロー作『フォンテーヌブローの風景』(1830-35,千葉県立美術館)のキャプションに書かれていた言葉が心に残っているのでご紹介します。
(...)実景に基づいた習作は、後の完成作へと活かされることになる。
コローは戸外で制作した習作を基に、アトリエで完成作を描き続けたそうです。
この作品に限らず、作品が完成するに至るまでの背景を知ると、自分も頑張ろう、という気持ちになります。
おまけ2
図録の装丁がすてきでした。
以上です。