予習していくとより楽しめるトライアローグ20世紀西洋美術コレクション展
「トライアローグ 横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」にいってきました。わたしにとってはじめてのコレクション展です。
トライアローグとは、
3者による話し合い(鼎談・ていだん)を意味
するそうで、3つの美術館が所蔵しているコレクションが持ち寄られた展覧会です。「3」をキーワードに、展示は3章立て、30年区切りで展開されています。
この記事でも大きく3つ(前日・当日・翌日)にわけて、わたしがどのように「トライアローグ」展を鑑賞したか、について書きたいと思います。
0. この展覧会に行こうと思ったきっかけ
・『新 美の巨人たち』(テレビ東京)にて、だいすきなルネ・マグリットの作品の展示があると知ったから。
・箱の詩人、と呼ばれているジョゼフ・コーネルの作品展示があると知ったから。
1. 展覧会に赴く前日にしたこと(予習)
「論理的美術鑑賞(堀越啓【著】)」という本を読んでから、わたしは展覧会に行く前に予習をするようになりました。
今回は、本展覧会の特設サイトがとても充実していたので、隅々まで読んでみることにしました。特に理解が深まった部分をご紹介します。
(1)オンライン・トライアローグ
まず各館担当学芸員の3名による3つの会談を読みました。
1. 各美術館のコレクションの強み
2. 個人的イチオシ作品
3. 本展注目ポイント
読むことで、「明日絶対に見てみよう!」と思う作品ができ、当日が楽しみになりました。
例1:アレクサンダー・カルダー《片膝ついて》(1944年[1968年鋳造])
愛知県美術館の副田学芸員さんの、このブロンズ彫刻を展示された際のエピソードが印象的で、実際に6つのパーツを絶対に確認したい!と思いました。
膝をついてどっしり構えた脚部に、ハート型のお尻がひっかかり、その上に腕が交互に2本乗り、さらに首を掛けて、首から垂れた先におっぱいを引っ掛ける。展示の際は、6パーツの結構な重さのブロンズの塊のそれぞれを作業員が保持しながら、ゆっくりと力を抜いていきます。
すると絶妙なバランスで釣り合いながら、ゆらぁ〜と揺れるんですよね。思わずみんな「おぉ…」と声が漏れた瞬間でした。
当日このブロンズの周りをぐるぐるとしながら、「えーと、膝をついた脚部に...あ、ハート型のおしり!腕が交互に...おぉ...!」と確認できました。
例2:オッペンハイム《りす》、デルヴォー《こだま(街路の神秘)》と《夜の汽車》
富山県美術館の碓井学芸員さんがご紹介されていた、作品同士の再会です。
オッペンハイムの作品《りす》は、100点複製されているそうで、そのうち横浜と富山に収蔵されている2匹が本展で並ぶことに。
知らずにみていたら、「ふーん、りすとビールかぁ...」と思いながら流してしまいそうでしたが、当日はもう「兄弟再会できてよかったね!!涙 お祝いのビールだね!!泣」という感じでした。
愛知と富山所蔵のデルヴォーの《こだま(街路の神秘)》と《夜の汽車》はなんと、
1948年にパリの画廊で開かれた展覧会に同時に出品されていました。70年以上前にもこの2点が会場に並び、みなさんのように鑑賞していた人たちがいたわけです。
すごい...!
当日、「ああ、この2作品が当時のパリの展覧会に...」と思いながら鑑賞できた、感動が倍でした。
(2)図解・用語集
これはとても勉強になりました。本展覧会の構成が20世紀西洋美術の流れとともに一目で理解できます。また、表現主義や、コンセプチュアル・アートといった「20世紀西洋美術」の用語も、噛み砕いて説明されており、今まで書籍などで読んできた説明文の中で一番分かりやすかったように感じました。
(3)映像でみるトライアローグ
ここでは、7点の作品が動画で紹介されています。実際の7作品を前にしたとき、「ああ、これあの技法で描かれたんだ!」と制作過程を思い描きながら鑑賞できたのはとてもいい経験になりました。
特に感動したのは、マックス・エルンスト《少女が見た湖の夢》です。
デカルコマニーという技法を知ったうえで鑑賞できたので、画面のあちこちに不思議な生き物たちを発見したときの感動が一味違いました。
(4)鑑賞サポートアプリ
今回は、音声ガイドがない代わりに鑑賞サポートアプリというものがありました。厳選された9作品に対して質問が投げかけられており、その解説が子供向けと大人向けに用意されています。このアプリを前日に準備しておきました。
ガイドと違い、その作品を見ながらまず自分自身で作品について考えることができるのがとてもよかったです。
2. 展覧会当日
(1)どのように鑑賞したか
まず最初にミュージアムショップで図録を購入しました。できれば荷物を全部ロッカーに預けて身軽に鑑賞したいと考えていたのですが、図録を最初に買っておき、鑑賞の途中、休憩場所などで解説を読み、改めて作品鑑賞する、ということをしたかったのです。
全作品の解説が収録されているのでおすすめです。
3章立てになっている本展覧会は、各章ごとに展示室が設けられていました。下図のような構造になっていたため、休憩スペースから各部屋への行き来がしやすく、じっくりと、そして繰り返し鑑賞することが可能でした。
1章 → 2章 → 休憩(図録チェック)→ 2章 → 休憩(図録チェック)→3章 → 休憩(図録チェック)→ 1章 → 2章 → 3章...のような感じで巡ったと思います。滞在時間は2時間半ほど。
(2)予習が活きた作品
学芸員さんのお話に出ていた作品や、映像でみた7点はすべてよかったです!
途中、図録の解説をみて見方が変わった作品のうちの2つをご紹介します。
1. パウル・クレー《蛾の踊り》
青色がとてもきれいだと思って見入った作品です。タイトルの通り、蛾が踊っているように見えなくないです。そして図録の解説を読みました。
(...)しかし女性は、夜明かりのなか優雅に舞い踊っているというより、むしろ羽ばたきを止めて闇へと堕ちていく瞬間のように見える。(...)
なんだって!もう一度鑑賞しに戻ります。すると、たしかに今度は羽ばたきが止まって見え、闇に堕ちていく瞬間のように見えたのです。ふしぎです。
2. ルネ・マグリット《真実の井戸》
マグリットの作品なのでじっくりとみていました。そして図録の解説を読みました。
(...)靴の部分を手で隠して見ると、石壁に穴が空いているかのような錯覚を生じさせる。(...)
なんだって!確認しに戻りました。ちょうど靴の部分が、わたしの前で鑑賞されているおじさまの頭で隠れました。するとたしかに石壁に穴が空いているように見えました...!!!
(3)はじめて知ったアーティスト
楽しみにしていたマグリットやコーネルの作品や、予習していた作品はそれはやはりすばらくして、どれも期待以上の感動がありました。また、今回は有名な方の作品が多かったので、「これピカソが描いたんだ...カンディンスキーが...レジェが...」と改めてじっくりと見てしまう作品が多かったです。
そんななか、展覧会ではじめて知ってすきになったアーティストが3人いました。
ハンス(ジャン)・アルプ
奥さんの突然の死をきっかけに、4年間詩作にふけり、彫刻を一点も作らなかったというアルプに興味が湧きました。
クルト・シュヴィッタース
のり付けのマジシャンといわれるシュヴィッタースを、前日に映像で知り、実際の作品を当日に見てさらにすきになりました。
ジョゼフ・コスース
コスースはコンセプチュアル・アートの先駆者的存在だそうです。芸術における言葉について探求していたという点に魅かれました。灰色の石版に英語の文章が印刷されている作品《哲学者の誤り#2 よきものとやましくない良心》が、この展覧会の一番最後の展示作品であったことに、なにか深い意味があるように感じました。
3. 振り返る翌日(まとめ)
・コレクション展の良さ
まず、すべての作品が日本の美術館に収蔵されていて、いつでもまた見にいくことができる、という安心感があることに気づいたのが大きかったように思います。
マグリットの《王様の美術館》と向き合い、この山高帽の男の目を見て、「また会いましょう」と言うことができました。
・行ったことのない美術館に興味が湧く
愛知県美術館、そして富山県美術館にぜひ行ってみたいと思いました。
ちなみに、このトライアローグ展はこのあと愛知(2021.4.23 - 6.27)、富山(2021.11.20 - 2022.1.16)を巡回予定です。
・予習でさらに楽しめる
事前にお目当ての作品をもっておくことで、当日その作品と出会えることがこんなにも楽しく、喜ばしい体験になるとはじめてわかりました。また、理解も深まり、よりじっくりゆっくり作品を堪能できたように思います。