米中対立の行方
イタリア・フィレンツェにあるEUI(European University Institute)のウェブにポリシー・ペーパー(英文)を掲載してもらいました(昨年2月、北大の遠藤乾教授に連れられて当地のセミナーに参加させてもらったのがご縁で書かせてもらったものです)。
要約版:“China's ambitions and prospects amidst the COVID19 pandemic and US-China confrontation”
full text(英語)のダウンロードはこちら
以下では、要約の日本語版を貼り付けますが、日本語版のフル・テキスト(「米中対立の行方」)はこちらにpdf版をアップロードしてあります。 私が「中国経済は中長期的に中所得国の罠に落ち、停滞期を迎える」と考えるのは何故か?をデータを織り交ぜて論証しています。興味を持たれた方はご笑覧 <(_ _)>
1.米国の対中政策が根本的に変容したのを追って、中国の対米政策も根本的に変容した。米中関係が好転し復旧する見込みはないと見切りを付けて、米国との長期にわたる持久闘争を始める覚悟を固めた。
2.その背後には、中国は新型コロナウィルス感染症の蔓延を早期に制圧したのに、西側諸国は感染防止と経済回復の二律背反の泥沼から脱出できないでいることや、西側民主主義を標榜していた米国の政治が国民の分断の深刻化によって行き詰まっているのを見て、「共産党の指導と中国の体制の正しさ、優越性が証明された」という自信があり、持久戦を戦っていけば「時間は中国に味方する」という楽観がある。
3.しかし、強力な政府による経済干渉は、中国経済の効率を低下させ、とくに「暗黙の政府保証」慣行は富の配分を大きく歪めている。中国経済は、短期的に成長を維持できても長期的には行き詰まる未来が待っている。習近平政権の左傾的な政策も未来の経済成長の余地をさらに狭めている。西側民主主義体制の行き詰まりを見て、中国の正しさが証明されたと考える中国は、己もまた長期的に行き詰まる可能性を見落としている。
4. 今後グローバリゼーションが退潮していくと、21世紀のいつか、世界にインフレーションが戻ってきて、米中両大国だけでなく過剰債務を抱えている世界主要国の財政が軒並み破綻に見舞われる可能性がある。そうなれば、政府に権力が集中する「主権国家の時代」は終焉するだろう。過剰債務問題に限らず、21世紀は世界中の様々な点で生じているオーバーシューティングが歴史的な“mean”(平均値)に回帰するように矯正される時代になる可能性があり、米中対立はそのような歴史の悠久の流れの中での幕間の間奏曲でしかないかもしれない。