米中対立で最後に勝つのは誰か “ネーション・ステート”の黄昏(連載#3)

連載の3回目は、国家権力が情報アーキテクチャーの担い手に拡散・簒奪されていくイメージを描く約束だ。

ネーション・ステート(主権国家)が前世紀の遺物として廃れていくイメージを思い浮かべると、Amazonのベゾスとか、FBのザッカーバーグといったGAFA、プラットフォーマーの経営者達に思いが至る。彼らが今後の発展の舞台として『政府』が担ってきた領域を狙うんじゃないかということだ。

15年前、日本の村上世彰やホリエモンは「イケてない業種こそアップサイドが大きい」と睨んで、沈滞して緩みきったTV局を買収することを企てた。

似た発想だが、GAFAの経営者達はもっと大物の「政府」がビジネスフロンティアに見えて、これを食べちゃうことを狙っているのではないか。もちろん政府の全体じゃなく、美味しい部分を、かつ、サラミ式にスライスして少しずつ。

投資家目線を想像すると、「グッドカンパニー・バッドカンパニー分離」のアイデアが浮かぶ。バランスシートが劣化、先の見通しも暗いような事業はバッドカンパニーに集約して、将来性のある事業だけをグッドカンパニーとして存続、発展させるやり方だ。

先の明るい事業の筆頭は、先述したように情報技術が威力を発揮する社会の管理、ガバナンスの領域だ。ブロックチェーンやAIが発達してくると、紛争解決といった司法的機能の魅力も増しそうだ。

気候変動や災害対策なども、人々が強いニーズを感じているから、取りに行くべきだ(事業をどのようにマネタイズするかは、おいおい考える)。ほかにデジタル通貨なども必須だ。

徴税や社会保障はニーズが強いから取り組むべきだが、当面は国家権力から「仕事を請け負う」のが良かろう。ビッグデータを活用して、各人の所得(フロー)と資産保有(ストック)の状況を把握、徴収と給付を統合して、各人の貧富状況に応じて記号のプラス(徴収)/マイナス(給付)を行う。

これによって極めて公平・効率的で、“BI(ベーシック・インカム)”政策とも親和性が高い仕組みが出来上がるだろう。

一方、引き継ぐべきでない事業の筆頭は、伝統的な「国防」だろう。軍隊は21世紀的に言うとイケてない領域の代表選手だ。いまや国民を脅かす脅威は、テロやサイバーアタック、自然災害、パンデミックだが、戦車だの軍艦だのといった装備は、そういう新しい脅威に対して無力という意味で「陳腐化、リターン低下が著しい」からだ。

何万人もの兵士が殺し合うような戦争は20世紀で終わった。21世紀の安全保障は、焦点が大きく遷移する。軍隊は抑止力として、今すぐお払い箱になるものではないが、取りに行く獲物にはならない。

主権国家が衰退しても、民族対立はなくならないだろうが、人々のナショナリスティック、エスニックな感情の矢面に立つと面倒だから、裏方に徹して「世論誘導」請負に専念した方が賢そうだ。

以上のように人々の意識に上らない緩慢さで国家権力の拡散・簒奪が進んでいくが、10年後に気付いたら、サラミが半分になっている・・・といった具合だ。

GAFAの高笑いか?ノーノー

ネーションステートが衰退していくと、代わりにfacebookのザッカーバーグ、googleのページ&ブリン、Amazonのベゾスといった面々が新しい世界首脳ヅラして我々の上に君臨するのだろうか?

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そんな簡単な話にはならないだろう。

彼ら米国のプラットフォーマー達は、これまで “Free and Open Internet” をスローガンに、膨大なカネを注いだロビイングをして「政府はネットに介入するな」という主張を押し通してきたが、この1,2年ですっかり風向きが変わって、厳しい批判に晒されるようになった。

そもそもGoogleにせよFacebookにせよ、創業者が議決権の過半を握っている会社が政府に成り代わって人々の上に立つ、なんてあり得ない。中国共産党の自己宣伝を額面通り信じる人がいないのと同様、こういう会社のクリードとかポリシーを額面通り信じたら、それはお人好しというものだ。だから、「ザッカーバーグやベゾスが高笑い」する未来にはならないだろう。

では、だれが情報アーキテクチャーを使って国家権力に成り代わる立場に立つのだろうか?

前述のとおり、昨今はプライバシー保護とか、個人データの利用対価を払えとかいった規制がかかるようになってきた。プラットフォーマーのやりたい放題に歯止めがかかって、「国民の権利」といった対抗軸が生まれてきた。

おかげで、最近はたいていのウェブサイトに「プライバシーポリシーを受け入れるか?」というポップアップが出て、我々に「チョイス (選択の権利)」が与えられるようになった。

しかし、現状ではプラットフォーマー企業だけでなくネット業界全体にうまいこと立ち回られて、我々の権利の保護が手厚くなった感じがしない。

【閑話休題】「プライバシーポリシーを受け入れるか?」と聞かれて、「OK」を押さずに、自分でクッキーとかの受け入れの同意/不同意を「カスタマイズ」したことがありますか? 
始めてみると、聞いたこともない、世話になった記憶もない企業名が幾つも出てきて、いちいちリンクを辿っては、あなたのウェブ閲覧履歴や個人情報を見る権利を否認しないといけない・・・コレはぜったい途中で挫折するように作られていると思う。
こんな「カスタマイズ」を試していると、ふと虚しくなる。「国民のプライバシーを保護する規制ができた」と聞かされ、「保護されている」と感じて安心する・・しかし、最後までやる人は100人に1人居るかいないかだろうな。

このプライバシー保護って誰が制度設計したの?  え? 去年までプラットフォーマーでエグゼクティブやってた人? (空想です)

けっきょく「分かる人同士が話をしないと進まないから」って、われわれ「衆生」は「保護されるようになったから、安心しなさい」ってご託宣だけ聞かされる訳? それって代議制民主政体、国民主権「幻想」の典型なんじゃないか。

ここから先は見当も付かないのだが、一つだけ「仮説の仮説」を遺しておくと、情報アーキテクチャーを握って21世紀の権力を掌中に収めるのは、プラットフォーマーの創業者のようなビジブルな存在ではなく、ITテクノクラートと呼ばれるような一群の匿名者たちではないか?

情報技術の専門家、官庁のIT政策立案者、若くて「ITおたく」な国会議員といった一群の人達がつるんで、各国のカウンターパートと連絡を取り合って、21世紀のガバナンスのあり方を主導していく・・・そんな未来の可能性はないだろうか。

そんな風に考えると、そこから二つ疑問が湧く。

(1)彼らは、誰にどうやって規律されるのか?技術に明るいからと言って彼らに独裁者になられたんじゃたまらない。

(2)ITテクノクラートが権力を握る・・・なんて言うと、お隣にそういうことが人一倍好きで得意な人がいたことを思い出す。中国だ。

人類社会がこういう風に変化していくとき、中国はどうなるのか?

次回はそんな妄想話をして最終回にしたい。

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