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ひろ君とねこ

ひろ君の出会い

大学3年生の初夏
参加するボランティアサークルに顔を出す
週2回
決して大所帯ではない十数人のささやかな活動

諸事情あって春から殆ど出られず
3年生になって初めましての顔もちらほら

顔を覚えるのは苦手である
ゆるめのパーマと声のでかさとノリのよさが
元来特徴のない自分の存在感を全面に打ち出し
無意識に他者の個性を潰しにかかるためだろう

勿論悪気なんて更々ないので
当人としては必死に覚えようとするのである

今年はひろ君を含む3年生が主体となる
他の同輩は既に新顔数名と打ち解けているようだ

それにしてもやはり顔の覚えが悪い
気を紛らわすべく好きな音楽を鳴らした

覚えようとしなくても
自然と脳に入り込んでくる至上の無体

そう
聴覚から脳に飛び込んで

きた

視覚から脳へのダイレクトアタック

知らない顔
知らない声

まさに
あなたはだぁれ?
状態

男?にしては小柄で可愛らしい
女?にしてはがっしりとして凜々しい

あぁコレがジェンダーレス
なんて思っていると

どうやらこの新顔も音楽が好きらしい
声をかけてくるままに
輝くような笑顔を覗かせた

思いの外
会話は弾む

声は低くないがハスキーで
耳馴染みがよいようだ

というかこの顔この姿
まるで 猫

そんなことを考えながら
音楽談議で時は過ぎ解散の時間

ボランティアサークルに久々に来て
なにしてるんだろう
なんて思いながら
新顔の名前をきいていないことを思い出す

そもそもキミは男?女?

新顔のことを偉く気に入ったものだ
他の新顔は全くわからないままなのに

向こうも気に入ってくれたのか
連絡先を訊かれたので交換してみれば

なんだ
女の子じゃないか

名前に“ねね”と

訊けば音の子と書いて
音子-ねね-

解散とはわかっていても
なんだかもっと知りたくなって

男の子っぽさから音子(おとこ)とされたり
猫っぽさから音子(ねこ)とされたり
見た目と名前をネタにされることが多いとか

高校までは音楽の趣味が合う友人がおらず
当時の話題は専らアニメや漫画ばかりだとか

あぁ
もっともっとほしい

欲求は満たされるどころか増えるばかり
完全に沼にはまった

話せて嬉しいなんて言われながら別れて
連絡先を訊かれた側のはずが
気付けば自ずと連絡しているのだ

ひろ先輩
そう呼ばれることが
この子からだとどこか特別に感じて

初夏は思考を惑わし始めたのかもしれない

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