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ひろ君とねこ
ひろ君の決意
ねこという生き物は気まぐれなイメージがある
その癖死期を悟ると懐いた相手の元から
いつの間にか姿を消すだとか
大学は休みに入り
返すことのできないCDは鞄の中に入ったまま
変わらずねねと連絡が取れない日が続き
なんとなく気持ちが乗らない中で
サークル活動のボランティアに向かう
学校用の鞄は大きいので
ボランティアにはサコッシュに最低限の必需品
忘れ物がないか確認していると
スマホに着信が
ねねからだった
気になって不穏な気持ちもあったが
通知を開く
連絡が取れなかったことへの謝意と
今日のボランティアへ参加するという内容
安心した
ねこっぽい印象だったから
自分の元からいなくなったのが不安で
気付いたら随分と執心していたものだ
現地に着くと既にねねもいた
見知らぬ男とそれは仲良さげに話している
ひろ君に気付くと満面に笑みを浮かべ
大手を振って駆け寄ってきた
目の前までやってくると深々と頭を下げ
事の経緯を話し始めた
ねねには年の離れた兄がいること
その兄は病院で殆ど寝たきりの難病で
容態が急変したので家族で付き添っていたこと
そのまま寝息も聞こえなくなったというので
きっと苦しむことはなかったのだろう
話してくれている間の優しい表情が
とてもさみしくて辛そうで
今は兄の分も前を向いているのだと
話をされるまま
先まで仲良くしていた男を紹介された
ねねのことを“おと”ちゃんと呼ぶ彼とは
以前に交際していたらしい
今回のボランティア先の施設で働いているとか
元恋人同士とはいえ距離も近い
彼はきっとねねにまだ好意を抱いているのだろう
思うより先に言葉が出てしまって
ねねに借りたCDを返したいが
今日は持ってきていないので
近々会う時間を作れないかと
遠回しに断られた
急ぐことはないのでサークルの時でもいいと
にこやかにいわれれば了承するほかない
元恋人の彼もCDに興味を持ったようで
彼にもまた貸すのだろう
ひろ君は少しもやっとしたが
ねねの全ての発言はただその人の良さから
他意なく発されているのだ
ボランティアの最中に
然も当たり前であるかのように隣に来るから
自分はねねのことを“ねこ”と呼ぼうかと
お好きにどうぞといったように
今度は笑って受け入れた
やはりこの笑顔を大切にしたいと思うので
いつでも頼ってくれて構わないのだと伝える
ひろ君はねねの嬉しそうな表情に
何か強い感情を抱いたのはここだけの話
季節の変遷を感じる晩夏に新たな感情は芽吹いた