『ノイズキャンセラー』を読んで
読みました
今年のnote創作大賞のミステリー部門応募作です
なんでわざわざ感想を記事にするのかと言うと、わたしにとって『推せる』作品だからです
なるべくネタバレをしないようにがんばりつつ、推しどころを書きます
わたし自身が書き手でもあるので、どうしてもその視点も入ってしまうと思いますが、ご笑覧ください
すごいと思うところ
・状況描写、情景描写が細密
これはもう、1話(第一章)のさわりを読んだだけでもわかるんですけれど、その場にいない読み手をそこに立たせる文章です
全体的にひっかかりを覚えるような特徴はない、ひたすら整った筆致なのですが、それはストーリーへ没頭させるにすばらしい働きをしています
冒頭部分を引用します
【これはあくまでわたしの肌感覚の感想で、世の中のすべての書物をひっくり返して得た知識などではない、と前置きした上で書きます】
【よって、例外はあると思いますので、鼻についたら読むのをやめてブラウザバックをお願いいたします】
わたしは新宿駅前広場へ行ったことがありません
それでも、この情景を思い浮かべることができ、さらにはこのお話がとても自分に近いところにあると感じました
書き出しだからといってトリッキーな表現はなく、静かに状況の中へと読者を引き込んでくれます
どうしてこれを最初に推しポイントとしてあげたかと言うと、
わたしはこれまで、けっこうな数の古典ミステリーと、ほんのちょっとだけ新本格あたりを読みました
その経験からわたしが固定観念として持っていた、『ミステリー』もしくは『ミステリ』の文章への印象と、この作品の文章の印象はまったく違うものでした
わたしがこれまで読んだミステリー作品は、どちらかというと言葉の裏にある意図を隠すために凝った言い回しをし、一文が長い傾向があったように感じます
このお話にはそういった要素がまるでなく、それはエピローグまで徹底されています
それは謎解きや推理のために後戻りして読み込む必要を感じさせないものであり、むしろすぐにでも先を読みたいとページを繰ってしまう力がありました
わたしにとって、これがミステリーだというのは、新鮮な驚きでした
・視点入れ替えがあるのに混乱しない
これはやはり文章の特徴になるのかな
あらすじから読み取れるように、主要人物が三人います
そしてまったく異なるそれぞれの立場から、それぞれの目を通した日常が語られて行きます
始めのうちは、どうしてこの三人が話の軸になるのかさっぱりわかりません
それでもおもしろく読み進めてしまうのは、三者三様の生活の描写が、実在の人物と思えるほどに真に迫っているからだと思います
それぞれの背景や置かれた状況は違いますが、それぞれから申告があってこの文章を書いた、と言われても得心が行くくらいに描写が細かい
よって、読んでいて「この人だれだっけ?」とはならないし、視点が変わっても「待ってました、あの人の続き!」となる
それが重なって、合わさって、ラストへ!
最高にかっこいい!!!
そして、ミステリーで視点がみっつもあるのって、なかなかお見かけしないと思うんですよね
そういう点でも型破りだと感じます
・最初に死体が転がらない
いえ、転がってはいるんですけれど このお話自体の死体ではないというか、なんというか(第一章を読んでいただければ……)
お話の書き方でホットスタートという考え方がありますが、その型をたしかに踏襲してはいるんです
でも違うんです もうこれすごいよ
(ホットスタート:インパクトのあるシーンを導入にすることにより、読者の興味を惹く書き方。だからといって話にまったく関係ないアクションを入れると興ざめになる)
ミステリーといえば、最初に死体じゃないですか
その死体にまつわる謎を解いて行くわけじゃないですか
違うんですよ、このお話、ちがうんです
お話自体が謎に包まれていて、読者はもう、読むしかないんです
こう書くと、ものすごく難しいお話に思えるんじゃないかと感じるんですが、これまで何度か触れたように、文章自体はとても端正で読みやすく、理解もしやすいです
なので複雑な構造のこの話も、難なく読んで行けます
それが本当にすごい ちょっと褒め言葉が思いつかないくらいにすごい
長々と書きましたが……
ちょっとだけ心配なことがあります
それは、ミステリー愛好家さんたちに、このお話が真っ直ぐに受け入れてもらえるかどうかということです
わたし自身は一般文芸やライトノベルあたりを趣味で書いている者であり、ミステリーは読むのみで書こうと思ったことすらありません
なので、ぶっちゃけミーハーです
が、それでも
わたしはこのお話『ノイズキャンセラー』はミステリーだと言うし、読んでもらえればその点納得していただけると確信しています
すっごく型破りなの! すごいよ!
以上です!
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