「いや、朝の7時半ですね」の巻。
朝6時から卓球の練習をした。
到着すると既に隣の台では、御年70歳前後(予想)のシニアプレイヤーが、黙々と一人でサーブ練習をしていた。
どんな早朝から来てるんだ。
知らない仲ではない。
一度試合をし、その高速サーブが全く取れず、完敗を喫したおじいちゃんだ。かつては東京選手権上位入賞者だったという噂の。
黙々と。
ひたすら黙々と。
彼は様々なコースに、質の高いサーブを打ち分ける練習をしていた。
横目で見ながら私は「やっぱりあのサーブ取れないよなあ」と思っていた。
「トス16センチ上がってないよなあ」とも少し思った。
やがて私と練習パートナーがゲーム練習に入った頃、おじいちゃんはタバコ休憩に、外に出て行った。
数分後、浮かぬ顔をしておじいちゃんは戻ってきて、入口から私たちにこう尋ねた。
「......なあ、今、夜の7時半だよな?」
ちょうど5ゲーム目に入る直前だった私たちは一瞬呆気にとられたが、これ以外に答えようのない返答をした。
「......いや、朝の7時半ですね」
「ええ!?」
おじいちゃんは、数秒かけて事実を受け止めた後、悔しそうな笑顔で
「それで外、明るいのかあ」
と、言った。
話はそれだけだ。
5ゲーム目、私はデュースでパートナーに辛くも勝利した。
せつない話にもできるし、卓球というスポーツの奥深さの話にもできるが、
どちらにしたって、私にはまだあのサーブは取れないのだ。
さておき。
キャンプ場で捕まえてきたカブトムシが、もうかれこれ3日間、飼育箱の床マットから姿を見せない。
餌のゼリーにも手をつけた気配がない。
「カブちゃん」と呼んで毎朝様子を見る娘に、そろそろ、つらい私の予想を伝えなければならない。
夏は、隠していたもの、隠れていたものが露わになる。
それが女性の水着などでないことが、私の41歳盛夏を告げている。(おわり)