スカウト運動の創始者 B-P はナチズムに手を貸していない
スカウト運動の創始者であるベーデン・パウエル卿(B-P)の銅像を、英国ボーンマス市が撤去する方針を出したとのニュースが流れてきました。昨今の人種差別反対運動の標的になったことによる町の治安悪化への対策、とのことです。撤去に反対する人々による抗議も展開されましたが、今は、銅像が傷つけられないよう保護されたとのことです。
人種差別反対運動の人々の標的になった理由は(私としては全く考えられない説で)「B-P はヒトラーに手を貸した」という説が流布したためとのことです。
たしかに、B-P はムッソリーニと会見したり、ヒトラーが主導して創設した青少年団体である「ヒットラー・ユーゲント」がボーイスカウトを大歓迎していた、という事実はあります。しかしながら、ムッソリーニやヒトラーの政策について B-P が賛同したという事実はありません。むしろ、彼らの進める青少年団体の動きについて懐疑的であったというのが事実です。
ここに、ボーイスカウト日本連盟が過去に発行した「ベーデン・パウエル伝」より該当箇所を引用します。この本の原著は、米国ボーイスカウト本部のウィリアム・ヒルコート氏が B-P の妻であるレディ・べーデン・パウエル氏より資料提供を受けながら書かれた本です。
※太字は私の註です。
その頃(1930年頃:B-Pが欧州各国でスカウト運動を広めることに尽力していた頃)イタリアではムッソリーニの支配下でボーイスカウトはファシストに吸収されてしまった。1933年にベーデン・パウエルは自らローマに赴き, ムッソリーニに面接してスカウト運動の了解を求めたが非常に失望した。ムッソリーニはファシスト少年団はボーイスカウトそのままであると豪語した。
ベーテン・パウエルは形式は同じでも, その精神の根本的に異なっていることを指摘した。ファシストの官製であるのに反し, ボーイスカウトは自発的であり任意であることをムッソリーニに伝え「狭い国粋的でなく,国際的であることを要す」と強調した。
ムッソリーニのファシスト少年団はバリラと呼ばれていた。ベーデン・パウエルはムッソリーニの少年訓育の方針に大きな失望を感じた。ベーデン・パウエルは書いた…。
ムッソリーニのバリラはまだ初期である。来たるべき2,3年に
イタリアの全少年が強制的にこの訓練をうける。国家の全体から
見て大した変化はないとしても, ムッソリーニ自身が少年たちの
成長を見るのだ。スカウト訓練を国家教育の試石としている点は
重要である。
1933年のハンガリーの世界ジャンボリーには1000余名のドイツから申し込みがあった。しかし6月中旬にヒットラーがバルドール・フォン・シラハを「ヒットラーユーゲント」の総隊長に任命した。彼はドイツ国内の全男女青年団体の解体を命じ, そして「ヒットラーユーゲント」に強制的に編入した。したがってボーイスカウトも解散したのみならず, ハンガリーの世界ジャンボリーには代表の参加も見なかった。
ヒットラー・ユーゲントは隣国の青少年と友誼関係を演出した。旅行に,キャンプに, ハイキングにドイツの青少年は遠くは英国までどしどしハイキングに出かけた。 他方外国からボーイスカウトがドイツにキャンピングに行くと, ヒットラー・ユーゲントは大歓迎をした。
英国のボーイスカウト連盟としては,ヒットラー・ユーゲントー対しては批判的であり, 別に協調もせず, できるだけ遠ざかっていた。ベーデン・バウエル自身は, 青少年たちは親愛の情を高めかつ友情に生きることを教えていた。
ヒットラー・ユーゲントが, ヒットラーに魅せられて催眠状態になって行くのを, ベーデンパウエルは分析して見守った。折りも折りドイツ大使館の茶会に招待され, リッペントロップ大使と訪英中のフォン・シラハに会った。彼らは1時間余りにわたって英独の青少年間題に対して意見を披歴した。ベーデン・パウエルにはムッソリーニと会見した当時と同様の印象であった。ドイツ大使などは, スカウティングのドイツの国情に合致した点は全部生かしていることを得々と語っていた。ヒットラー・ユーゲントとボーイスカウトとは親友になることができることをドイツ側は強調したが, ベーデン
・パウエルは, 彼らの見解には多々考えねばならぬことがあるとした。
スカウト運動は、世界の平和のための運動です。スカウト運動の理念と目的は、昨今の人種差別反対主義の人々が目指す方向に手助けしてくれるものと私は信じています。もちろん、その目的達成のために、暴力的な行為がなされたり、冷静さを欠き誤解に基づいた行動がなされることは許されるべきではないということは言うまでもありません。
引用したニュース記事等
海外の記事では、B-P に向けられた様々な誤解について言及されています。
ではでは。
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