ファイブ!〜廃部にはさせない!〜⑨
≪ガラガラッ≫
『小坂先輩、まだお時間大丈夫ですか?』
『うん。別に予定はないから。…やっと二人きりになれたねっ。』
『え?』
『あぁごめん。真面目にふざけるのが染みついちゃってて。それで相談って?しかも職員室で話せない内容なんでしょ?』
『あ、はい。…小山さんから聞いたんですけど、演劇部が危ないって。』
『あ~うん。人が捕まらなくてね~。』
『それで…一つ提案なんですけど。』
『うん?』
≪カカッカッカカッ≫
「というわけで!ここにいる演劇部、パソコン研究会、文芸同好会で、同盟を組むことにした!!」
「同盟?!」
「どういうことですか部長!」
「ここから先は、田島君から!」
「あ、はい…。え、えっと。僕らパソ研は今、動画制作に取り組んでいるんですが、学校が持っている編集ソフトのスペックが低いため、苦戦していたんです。でも、同好会には学校経費が下りない。そこで、演劇部の名前を貸していただきたいんです。」
「…ごめん、つまりは、部活に入る代わりに金をよこせと?」
「あ、えっと、平たく言えばそうです…」
「ち、違う違う!木原すごい誤解!!田島君も木原に負けちゃダメ!」
「す、すみません。」
「えっと、確かにパソ研が入ってくれたら、編集ソフトを演劇部の部費で下すんだけど、でもそれは俺たち演劇部のためでもあるわけ!」
「どういうこと?もったいつけてないで、要点を言ってよ!小山を見なさい!もうパンク寸前よ!」
「私たち、パソコン研究会に乗っ取られるってことですか?!」
「ち、違うんだ小山さん!僕たちはそんなつもりはなくて!この桜井と吉田は、もともと動画編集がしたくてパソコン研究会に入ってくれてたんだ!」
「あ、そうなんです…。」
「いつか、YouTubeに投稿したいなって。なぁ吉田。」
「う、うん。」
「でも結局、演劇部のお金は取られるんでしょ?私たちにメリットがない。」
「そこで!文芸同好会にも手伝ってもらうんだよ!」
「はぁ?」
「佐々木さん!説明してもらえるかな?」
「あ、はい…。文芸同好会2年の佐々木です。私たちの主な活動は、オリジナルの小説やエッセイ、漫画の制作などをしています。ただ…。」
「ただ?」
「…私たちは、シャイなので。その…、自分では面白いと思っているけど、周りに分かってもらえるのかなとか、オタクだって馬鹿にされるかもって思って、自分の作品を上手く発信できていませんでした。そうして、ひっそりと活動していたんですが…。」
「それで?」
「だから!文芸同好会にシナリオを書いてもらって、それを俺たちが演じるんだよ!」
「あー!なるほどですね!」
「私たちが、そうやって作品発表の手伝いをすると。」
「そういうこと!!文芸同好会がシナリオを書いて、俺たちが演じて、パソコン研究会に編集してもらう!!つまり、このメンバーがいれば、映画が作れるんだよ!!」
「映画…!!すごいですね!!」
「映画ね…。いいじゃん。面白そう。」
「軽音部とはまた違った、少し乱暴な合併の仕方なので、革命というよりクーデターに近いですが…。先ほど生徒会にも、小坂先輩が話を通してくれたので、大丈夫だと思います。」
「え?いつの間に?!」
「小山さんたちが、一生懸命呼びかけてくれてた時だよ~ 。二人の声は、しっかり学校の端のほうまで聞こえてたよ。」
「先輩が生徒会に行ってる間に、僕らが文芸の方に‥。」
「そうだったんですね!ありがとうございます!他の皆さんも!ありがとうございます!」
「あ、いえいえ。こちらこそ。新参者ですが…。」
「関係ないよ佐々木さん。もう同じ部活の仲間なんだから。木原です。よろしく。」
「よ、よろしく。」
「んじゃ、みんな軽く自己紹介とかしていこうか!」
「はい!あ、田島君ちょっと。」
「なに?小山さん?」
「気になったんだけど、田島君はいいの?桜井君と吉田君は編集希望だけど、田島君は?」
「僕は…。正直、演劇とか小説はあまり詳しくないし、編集の技術はない。でも…。」
「でも?」
「部活のために頑張ってる小山さんを見ていたら、なにか僕にも出来ることはないかなって。それに、このメンバーが集まれば、すごいものが出来るって思うんだよね。それぞれが、それぞれの得意分野を生かして。子供っぽいかもしれないけど、僕、結構ワクワクしてるんだ。」
「田島君…。」
「あ、いや、今のは忘れて!はずっ」
「恥ずかしくないよ!すっごいカッコいいよ!田島君はすごいよ!」
「や、やめて‥褒められなれてないから…。」
「ちぇっ、アイツら青春しとるの~。」
「野暮はよしなよ小坂。…その、さっきは言い過ぎた。」
「いいよ。そんなこと。こんな俺だけど、これからもよろしく。」
「うん。よろしく。」
≪ガラガラッ≫
「あ、迫先生!!見てください!!」
「うん。島崎先生から聞いたよ~。みんな!よく頑張りました!!」
「はい!頑張りました!えへへへ!」
「演劇部顧問の迫です!以後よろしく!」
『よろしくおねがいします。』
「それと…。」
「失礼するよ~。」
「あ、島崎先生。なんでここに?」
「おう田島、俺も演劇部の副顧問になったから、よろしく!」
「え?!島崎先生が?!」
「小坂、そんなに驚くことか?一応、パソコン研究会の顧問と、文芸同好会の副顧問だったからな。まぁ、成り行きだが、よろしく~」
「うわ~そういうことか~!まんまと先生の掌だったか~。」
「ん?それは違うぞ?確かに文芸同好会が色々書いてるのは知ってたが、全部ひっくるめて考えたのは田島だ。俺は情報しか与えてない。」
「え…」
「田島君凄すぎ!!」
「田島君…。部長にならない?」
「え?」
「木原?!」
「あんな使えない奴より、君が部長の方が絶対いい!」
「え、えっと…。」
「ちょっと待てぃ!俺も頑張ったんだけど…。」
「まぁまぁ木原さん。いきなり大人数を仕切りなさいっていうのも酷じゃない?小坂君もちゃんと頑張っていたし。」
「迫ちゃん…!」
「冗談よ冗談。…三割くらいは。」
「七割本気かよ!!」
「たははは!面白いな演劇部!あ、そうだ。これは他の先生方には内緒にな。」
≪ドサッ≫
「島崎先生、これって…!!」
「せめて昇降口出てから食べなさい~。」
「チョコだ~!」
「バカたれ!声がでかい!」
「島崎先生、ありがとうございました。」
「いいんですよ迫先生。うちの田島たちを頼みます。」
「えぇ。もちろん!」
「おっとそろそろ。じゃあ皆!時間も時間だから帰る準備~!」
『はーい!!!』
青紙執行まで残り二日を残し、演劇部は存続した。
秒針が鳴り響いていた部室に、今では楽し気な笑い声が響く。
しかし、まだ彼らの戦いは始まったに過ぎない…。
「ん?話が違うぞ?演劇部の部室は、俺たちのものになるんじゃ?」
「それが、ギリギリのところで息を吹き返したみたいで…。」
「ふ~ん。」
≪ギュイーン!!ジャーン!!!≫
「面白くないね~…。」
果たして、演劇部員たちはどうなってしまうのか!!
ー 第一章、完 ー
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