【映画】アナログ

Amazon Primeで見たので、感想を少し。少しネタバレ含みます。

まさに、ゼロイチのデジタルに回収できない、冗長なものや感情、時間を撮ろうとしているのが伝わる映画だった。

青い空に海、深い森と月。よく手入れされた仕事道具、細部に宿りわかるものには伝わる作り手の思い。コーヒーの香りと空間に流れる人間同士の感情の交流、ゆっくりと深まる関係。窓から侵入してくる空気。自分から入っていくのではなく、他者や世界から入ってくるものに開いて待つ。

タイパよく情報インプットするとか、マッチングアプリで効率よく出会って3回目のデートで告白するみたいなものとは対極的な時間の流れだ。
もちろん、人間は情報技術によって、そのコミュニケーションの仕方を変えてきたので、こういった感受性そのものは、まどろっこしいものに成り下がっているだろう。情報環境に適応するは人間の性でもある。
しかし一方で、スマホのなかに流れてくる「コンテンツ」だけじゃなくて、「世界」をよく見ろよといったメッセージが通底に流れている。

たぶん、何かを好きになるとか、愛するといったものに「実感」を持つには、冗長さやめんどくささ、葛藤する時間の蓄積みたいなものが不可欠なのだろうと思った。

前にアニメで見たヴァイオレット・エヴァーガーデンに出てくる、少女兵として育てられたヴァイオレットが「愛してる」の意味を手紙を書くことによって理解していくような、身体を動かして時間をかけるのが必要なんだろう。

最後に、古くからの友人が、「そういや、お前指輪どうしたの」と聞く。だが、さとるはあいまいにして質問に答えない。指輪をあげたとか結婚という形式・象徴のゼロイチに回収されるのを拒否している。
もう一方の友人は、「いますぐ誰かに好きって言いてぇ」とつぶやく。なんとも青臭いけれど、まさにそんな映画に仕上がっているように思う。

亡くなった母親が、「人には自分だけの幸せの形がある。それを信じて貫け」と言っていたが、さとるがデジタル空間上に流れる、誰かが提示する幸せやこれが普通だといった画一的な欲求に流されなかった。
それが何よりの救いで、うつくしいと思った。

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