元翻訳者が『安達としまむら①』台湾翻訳版を読んでみた1 タイトルの翻訳と『しまむら』の表現について

どうもつぶあんです。日本在住の元翻訳者です。
主に 日本語 → 広東語、繁体中国語の翻訳、通訳、校正をやってます。

翻訳は元本業ということで、もう普通の目線で小説を読めない身にはなりましたので、逆にそれを強みにして少し皆様と違う目線であだしまの翻訳版を読んでみて、個人の気になる部分についての感想を言いつつ、解説しつつ、皆様に新たな楽しみができたらいいなと思います。

では早速本題に入りましょう。

台湾翻訳版 『安達和島村』

まずはタイトルの翻訳についてですが、台湾版のタイトルは『安達和島村』に翻訳されました。
漢字を見てわかると思いますが、原作の「しまむら」が「島村」になってます。シンプルに漢字になりましたね。
漢字圏だから漢字しか表現できないの?仮名とかないの?と疑問を感じる方もいるかもしれません。はい、ほぼその通りです。

まず表記から説明いたします。

実は台湾の中国語では、日本の仮名とほぼ同じ役割をしている「注音符号」という発音記号がありますが、ではなぜそれを使わずに漢字にしたのでしょうか。

ざっくり言うと、ダサいだからです!

台湾の「注音符号」はあくまで振り仮名として使われていて、正式の書類では表記として使わない傾向があります。
その上、本文はともかく、タイトルではとても重要な役割をしていて、簡単に言うと売上に直結します。タイトルの決め方としてはなるべく見栄えがよく、おしゃれにしたいのは一般的ですので、とのことで漢字以外は不採用となります。ちなみに「注音符号」を使うとこうなります。

『安達和ㄉㄠˇㄘㄨㄣ』

うーん、この作品は何が言いたいかさっぱりわからん!あとダサい。
という印象しかありません。
なので、表記上では漢字を使う一択しかありません。

以上は台湾中国語の場合でした。
ん?台湾の中国語って、つまり同じ漢字圏でも違う地域によって異なる場合があるってこと…?

おしゃる通りです!!!究極に面倒くさいでしょ!!!

では中国語(簡体中国語)のタイトルを見てみましょう。

中国翻訳版『安达与岛村』

中国の場合(簡体中国語)では、台湾の「注音符号」と違い、拼音(ピンイン)という発音表記があります。例えるなら…日本のローマ字と似たような感じです。アルファベットになります。
役割としては台湾の「注音符号」とほぼ同じ、「拼音」ではあくまで振り仮名として使われていて、正式の書類では表記として使いません。ですのでタイトルに使うと違和感しかありません。
違和感というのは、実際はどういう感じなの?よしじゃあお試しに当ててみましょう。\ドーン!/

『安達与dǎocūn』
こうなります。

日本の方にも馴染みがあるの例え方にすれば、『安達とSHIMAMURA』←という感じになります。
これだとタイトルロゴ作るのも難しく、意味も伝わりにくく、なので表記面では漢字を使うしかありません。
(「拼音」を使うとコスト面も表記面もデメリットのほうが大きい)

次香港の場合ですが、台湾と同じく繁体中国語を使っていますが、発音表記は一切ありません、漢字の発音はすべて丸暗記です。なので、台湾のタイトル、内容も全部漢字に翻訳されましたら、香港にも販売できますので、売上上も表記上も漢字を使うのほうがメリットが大きいです。

こんなに長々と話しましたが、結論は

\ 漢字使うしかないです!/

はい。

次は「しまむら」の意味の観点から説明したいと思います。

「しまむら」の意味

基本翻訳する側では、言葉の内側に含まれた意味を読み取って、それを原作のニュアンスに合わせて表現しないといけないのですが、今回の「しまむら」ではそこまで難しい話ではないですが、少しややこしいことになっています。

皆様がご存知の通り、ヒロイン「島村抱月」の苗字では、実際存在しているファッションセンターの「しまむら」と同じで、本人は自分の苗字に対してコンプレックスを抱いています。上にも少し話ましたが、言葉の内側に別の意味が含まれていますと、それもしっかりと表現しないといけないので、ではどう翻訳すれば、ファッションセンター「しまむら」の意味が伝わるのでしょう…

ん?待てよ?
ファッションセンター「しまむら」が台湾でビジネス展開してる場合、ワンチャン意味通じるのでは??と一瞬思いました。愚かでした。

なんと

台湾のファッションセンター「しまむら」
正式名称は「島村」ではなく、「思夢樂」(発音:し→む→ら→)でした!!!
※翻訳は漢字にするじゃなくて当て字にしました。

なぜ……なぜこうなった…。キラキラネームかよ…。
めっちゃややこしいことになったんじゃないですか!!バカ!!
なので解決方法は一つしかありません。
しまむらの苗字の「しまむら」を「島村」に翻訳して、その上に注釈をつけるしかありません。

説明するのが難しいですので、原文と訳文を比較してみてみましょう。

原文:島村といえば、しまむらなのである。どうもみんなからひらがなでよばれている気がしてならない。    『安達としまむら』①原文から抜粋
訳文:說到島村,就是流行服飾品牌「思夢樂」(註:日文中「島村」與日文的流行服飾品牌「思夢樂」同音)。我總覺得大家都把我當成服飾品牌在叫。
                                  出自『安達和島村』 1卷
↑を再翻訳:島村といえば、ファッションセンターしまむらなのである。(※日本語の「島村」はファッションセンターの「しまむら」と発音が同じ)どうもみんなからは店の名前で自分のことを呼ばれている気がしてならない。

おわかりいただけただろうか。
ややこしいです。
ここまで説明が入ると、原作のさりげなくの表現がしっとりになりました。もちろんニュアンスも重視したいですが、翻訳にとって一番大事なのは意味を正確に伝わることですので、言葉に含まれた意味>原作の雰囲気、ということで、つまり今回は前者を選ぶしかありません。

意味の観点からみても、「しまむら」は「島村」に翻訳するしかありません。

結論(唐突)

以上、表記面、意味面からも長々と説明してみましたが、
結論からいうと

どの世界線の「しまむら」も「島村」になります。

はい、以上となります!(あっさり)
お願いですからせめて店の名前を「島村」にしてくださいよ…(泣)

というわけで終わりです。
もし次があれば、多分本文の二人のしゃべり方、原作の雰囲気の表現仕方、「私」と「わたし」、「なんだばしゃぁぁぁぁ」、について話したいと思います。
次があれば、の話、だけど…

余談

商業漫画も翻訳したことありますので、タイトルの決め方についても少しだけ語れることができます、興味ある方は教えてください!
(たぶんいない)
あと元翻訳者とはいえ、今はやらないわけではないです、案件があればやります。案件ください。

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