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あなたはギバーですか?メリル・ストリープと内臓から学ぶ、立ち上げ期と成長期ではリーダーシップをシフトすべき理由

こんにちは。SaaSアドベントカレンダー19日目。AppsFlyer Japan株式会社の大坪がお送りします。カントリーマネジャー、通称「カンマネ」と呼ばれる仕事をしています。カンマネとはなんぞや、についてはApp Annieカンマネの向井さんのnoteをお目通しください。AppsFlyerってなんぞやって言うと、ユーザーがどこからやってきてアプリの中で何をしてるのかっていうのを知ることができるアトリビューションツールを提供している会社です。App Annieさんによれば、日本で最も利用されているアトリビューションツールだそうです。

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このアドベントカレンダーにはSaaS業界から優秀な方々が執筆者として集結していて、SaaSにおけるあるべき姿や、反対に陥ってしまう罠についてここまで十二分に書いてくれてます。しかしながら、幸いにも誰もリーダーシップについて書いていなかったので、僕は組織とリーダーシップについて書きたいと思います。なので一般的にはSaaSという範疇を超えた話になってしまうことをご了承ください。

僕のキャリア

が、その前に僕の特異なキャリアについて触れておきます。僕は33歳まで俳優をやっていました。30歳までは扉座という劇団(六角精児さんが先輩で、高橋一生くんが後輩です)で、その後TPTを率いるデイヴィッド・ルヴォーの舞台を観て、「これはロンドン行かなあかんやろ」と、扉座を辞め33歳まで日本とロンドンを行ったり来たりしながら向こうでオーディションを受けたりしていました。でも一方でテックには並行して興味があり、当時検索結果を広告にした会社があると知り(Overtureのことですね)ロンドンのインターネットカフェで「すげーなー」と一人興奮してたことを覚えています。結局ロンドンでの挑戦は失敗に終わり、俳優としてのキャリアを諦め、リクルートエイブリック(今のリクルートエージェントですね)に顔を出したところ、最初に出てきた仕事がOvertureのダイレクトセールスチームのマネージャーでした。「知らないと思いますが」と会社案内を出すリクルートの人に「知ってます!」と即答し、「受けます?」と聞かれ、またまた「受けます!」と即答しました。そして幸いにもOvertureに入社し、僕のテック業界でのキャリアが始まりました。2004年ごろのことです。

聞くことの重要さ

メリル・ストリープという女優がいます。「マディソン郡の橋」やら「プラダを着た悪魔」などに出ている演技派で知られた女優です。彼女がアメリカで放送されている「Inside The Actors Studio」(文字通りNYにあるActors Studioの講堂で、大勢の生徒の前で名物副学長にインタビューを受けるという番組)の中で、副学長のジェームズ・リプトンに演技で最も大切なことは何か?と聞かれました。彼女は"To listen."(「聞くことです」)と答えたんです。

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まだ役者をやっていた僕にはこの答えは衝撃であると同時に、とても納得のいくものでした。例えば、演技のあまり上手くない人たちが多く出ているドラマを観察して観ると、役者が互いに相手のセリフを聞いていないことがわかります。自分の番が来たからというだけでセリフを言っています。だから観ている人に何も伝わってこない。メリル・ストリープが言うように、いい役者はセリフを一度忘れて、共演者のセリフをちゃんと聞き、感じた気持ちを言葉に出しています。「てにをは」は違っても気持ちが入っているから観ている人も心動かされる。名女優さえ最も大切にしているもの、それが"To listen"(聞くこと)なんです。

オーガニゼーションはオーガンに由来している

組織のことをオーガニゼーションとも言います。英語で書くとOrganizationです。似たような言葉でOrganという言葉があります。内臓のことですね。実はOrganizationはOrganから発生した言葉です。どうしてでしょう?

時々、会社で「組織が有機的に絡み合って・・・」とか表現することがあると思います。有機的にお互いに意思を疎通させると仕事って上手く行きますよね?僕たちの内臓たちも実はそうなんです。というか内臓たちが先。僕たちの体にはホメオスタシスというものが備わっています。一般的には「恒常性」と訳される言葉です。平たくいうと、電車に乗り遅れそうになって走ると酸素が足りなくなるので結果的に息が荒くなったり、糖質を摂取すると血糖値が上がりますが、程なくインスリンが分泌されて血糖値が元に戻ったり、そういうことです。実は内臓たちも会話しているんです。そしてちゃんと互いに相手の言うことを聞いている。例えば膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞からインスリンが分泌される流れも、会話にするとこんな感じです。

ミトコンドリア:みんな!細胞内にグルコース(糖)が入ってきたよ!*ATPいっぱい作っちゃうね!
細胞:おけ!じゃあカリウム専用ゲート閉じちゃうね!
(カリウムが細胞外に放出され、細胞膜内外の電気状態が変化する)
細胞:電圧変わってきたので、じゃあカルシウム取り込むね!
カルシウム:ハロー!そろそろインスリン出してくれる?
細胞:おけ!じゃ出すね!
(インスリンが分泌される)
*ATP: アデノシン三リン酸。全ての生命を動かすエネルギーの素。

僕たちの体は細かく切り刻むと最終的に分子になります。分子って別に生命体ではありません。でもそれが集まってなぜか真核細胞が生まれ、臓器が発達し、僕たちのような脊椎動物が生まれた。ここに到るまで何億年も体の中で細胞同士が会話して発達してきたんです。僕らの組織(Organization)は体の組織(Organ)の模倣にすぎません。何も意識していないのに暑くなると汗をかいたり、血糖値を維持できるのは組織内で互いに話し、聞きあっているからなんです。聞きあってないとどうなるか。病気になります。特定の数値が下がらない、本当はアポトーシス(自死=細胞の自殺)する細胞が異常に増殖したりなんてことが起こります。翻って会社の組織を考えてみると、これと全く同じだと思いませんか。

そろそろリーダーシップに話を移しましょう。最近は「脳腸相関」という言葉もよく聞きます。昔は脳がリーダーで、腸をはじめとする臓器に一方的に指令を出しているものだと思われていた。ところが実はどうも違うということが最近分かってきた。腸も腸細胞、免疫分子、神経信号に保存されているホルモンなどを介して脳にメッセージを送っているらしいんです。最新の研究では、骨でさえも、体が危機を感じると「オステオカルシン」というホルモン様物質を分泌して、心拍数や体温、血糖値を上昇させるということが分かってきたんです。あの無口な骨君が!ですよ。いつもは発言しない骨君が、実は危険を察知すると、組織の底力を発揮させるためにメッセージを出すんです。

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何が言いたいかというと、リーダーはいい聞き手じゃないといけないし、コミュニケーションがワンウェイではあってはならず、自分の視点に固着せず、それぞれの持ち場についているプロフェッショナルなメンバーの意見に耳を傾けないといけない。じゃないとホメオスタシスは実現せず、血糖値が上がってもインスリンも分泌されずに糖尿病になってしまう。

別の言い方をすると、きっとこのnoteはリーダーじゃない方も読んでると思うので言っておくと、フォロワーシップも同様に重要ということなんです。脳がいくら腸にメッセージを送っても、腸が反応しなければ脳腸相関は実現できない。リーダーに頼るだけではなく、リーダーの呼びかけに呼応してメッセージを発しないといけない。だからフォロワーシップがある人はいつかきっといいリーダーになれます。

組織内の会話を実現するために、うちでは毎週ほぼ全メンバーと週に1回、1 on 1(一対一のミーティング)の時間を必ず作っています。

ギバー、テイカー、マッチャー

ちょっと臓器の話は脇に置いて、別の観点から話します。それはギバー、テイカー、マッチャーという考え方です。詳しくは『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』(アダム・グラント著)を読んでもらいたいんですが、簡単にいうとその言葉通り、それぞれ、

ギバー(Giver):与える人
テイカー(Taker):奪う人
マッチャー(Matcher):与えられた分だけ与え返す人

という意味です。今、チームにはBe a giver.と言っています。ロンドンにいた時、こんな例え話を聞きました。

ある森に、わがままで全然いうことを聞かない少年とお爺さんが住んでいました。あまりにもいたずらが過ぎて、村人に迷惑をかける少年に、お爺さんは「そんなことをしてると地獄に落ちるぞ!」と叱りつけました。ところが少年は反省するどころか、「地獄ってなに?見たことあんの?そんなのねーよー」と言って家を出て行ってしまいました。
少年が森の中を歩いてしばらくすると、玄関が二つある大きな家を見つけました。よく見るとそれぞれの玄関の上には「地獄」「天国」と書かれてあります。「地獄!やった!見たかったんだよねー地獄」と言って喜んで地獄の扉を開けました。薄暗い部屋の中で目をこらすと、そこにはピカピカに磨かれた長いテーブルとそれを囲むように配置されたいくつもの背の高いチェアがありました。テーブルの上には肉汁の滴るステーキや、山盛りのフルーツなどが置かれていました。「なんだ、こんなの全然地獄じゃないじゃん」と少年は思い、テーブルに置かれていた美味しそうなお肉をつまみ食いしようとテーブルに近づきました。近づいて少年は初めてチェアに小人たちが座っていることに気がつきました。背もたれが高過ぎて少年には見えなかったのです。よく見ると、その小人たちの顔はげっそりと痩せ、目は血走っています。「一体どうして・・・」と思った瞬間、なぜ小人たちが美味しい食べ物に囲まれながらそんなに痩せ細っていたのかを理解しました。小人たちは手に自分の腕よりも柄の長いフォークとナイフを持っていたのです。あまりにも柄が長いので、お肉を切り取って口に運ぼうとしても口に上手く入らず、全く食べられなかったのです。なんども口に運ぼうとしては失敗し、小人たちは唸り声をあげながらずっとその動きを繰り返しているのでした。少年が恐怖に駆られて固まっていると、ギロリとにらむ小人と目が合ってしまいました。少年は怖くなって「地獄」の部屋を飛び出し、「天国」の部屋に飛び込みました。
不思議なことに、「天国」の部屋にも、「地獄」の部屋と全く同じテーブルが並べられていました。その周りには同じく背の高いチェアと、テーブルの上には同じように美味しそうなお肉やフルーツが並べられていました。もしかして、と少年は思い、近づいてみると、やはりそこには小人たちが座っていました。手には同じように腕より柄の長いフォークとナイフを持っていました。でも小人たちの顔は、なぜかふっくらとしており、優しい表情をしていました。もう少し近づいて、少年はそれがなぜなのか気付き、ハッとしました。小人たちは切り取ったお肉を自分の口に入れるのはなく、向かいに座った小人の口に運んでいたのです。食べ物をもらった小人は、今度は自分が向かいの小人に同じように食べ物を切り与えてあげていました。

天国も地獄も、実は何も違わない。違うのは自分から与えているかどうか。それだけなのだ。自分から与えることで、相手も与えてくれるようになる。先に紹介した本の中にはギバー、その中でも他者指向性のギバーが最も収入やパフォーマンスが高いという調査結果が紹介されています。組織をギバーの集団にするために、リーダーが率先してギバーになることが重要です。

自分でビジネスを立ち上げたリーダーのジレンマ

ところが、それが中々難しい。特にゼロイチでビジネスを立ち上げたリーダーの場合、自分で全部やってビジネスを成功させてきた自負があり、他社からマーケットシェアを奪う中でついたテイカーやマッチャーの習慣が染み付いている。ついつい自分のやり方と比較してしまったり、自分の間違いを認められなかったり、いわゆる「立場固定」をしてしまう傾向にある。何を隠そう、僕がそうだ。こんな偉そうなことを書いていながら、自分では中々ギバーになりきれていない。多くのシチュエーションにおいてマッチャーになってしまっていると思う。平たくいうと、俺がやってるんだからお前もやれ的なマインドだ。だから、特に自分でビジネスを立ち上げた人(これは日本のスタートアップでも外資のカンマネでも変わらない)は、組織拡大フェーズに入った時が注意だ。スイッチをテイカーやマッチャーからギバーに入れ替えなければいけない。

幸いなことに、僕にはそんな自分に助言をしてくれるチームメンバーがいる。「ナオヤさん、あの時こういう風に言った方がよかったんじゃないですか」とか「ナオヤさん、こういう傾向にありますよね」と僕の悪い癖を指摘してくれたりする。付き合いが長いというのもあるが、中々自分の上司に言えるもんじゃないと思う。だけど、こういう風に言われても、腹が立たないのが彼の特徴というか人間性だ。彼には本当に感謝している。

ということで、近いうちにチームメンバーには謝ろうと思っている。それがホメオスタシスを守ることでもあるし、ギバーでもあることだと思うから。Be a giver. 習慣って怖い。でも自分から変えていこうと思う。

僕の生化学趣味爆裂で書いたので、全くそそらない内容になってたらすみません。でももし少しでも読んでくれた方のお役に立ててたのなら幸いです。

生化学でいうと、その知識を活かしてダイエットしたら3ヶ月で体脂肪率7%落としましたって記事も書いてますので、こちらもよかった読んでください。

次回はカオナビ マーケティングの鈴木 優一さんによる「退職エントリー」です。SaaSアドベントカレンダーもあと数日。最後までお楽しみに!

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