またやっちまった

 私は、子供のころから忘れ物が異常に多かった。
 
 小学生の頃忘れ物をして、親に持ってきてもらったことは数知れず、高校生の時に、忘れ物をしてそれを取りに行く電車の中にまた別の忘れ物をしたこともある。あまりにも物忘れが多いので、忘れないように手にマジックで印をつけていたこともあったが、そのうち手に書いてあるマジックが何のためのものだったかも忘れてしまうような始末だった。
 
 今原因を分析してみると、自分はひとつのことに集中すると、それ以外が見えなくなる傾向が強かったせいだと思う。
 
 先日久しぶりに休暇を取り、夫婦で温泉旅行に行ってきたが、帰りの電車の中に着替えと洗面用具などが入ったリュックサックを忘れてきた。途中で気づいてすぐ駅に戻り窓口でその旨を申し出たが、最近はそういう人が多いのか駅で対面の対応はしてもらえず、連絡先の書いてある紙を渡され、電話またはインターネットで忘れ物の問合せをすることになった。
 
 そこで連絡先に電話を掛けたが、メニューから番号を選ぶ方式になっており、忘れ物の場合にはオペレーターにつなぐ番号を選ぶのだが、これがまた延々と待たされた挙句、ただ今込み合っているので後でかけ直せと言われ、「プーッ、プーッ…」と音声が切り替わって電話が切れてしまった。
 
 忘れ物をしたのはこちらなので、こんなことでくじけてはならぬと気を取り直し、2度3度と電話をかけなおす。
 
 30分くらい待たされてようやくオペレーターと電話がつながり、忘れ物の内容や路線、乗車時刻などを聴かれて答えた。その時点でオペレーターはその電車が停車する駅からの情報を調べてくれたが、結局忘れ物は行方不明だった。その電車はまだ終着駅に着いていないので、着く頃に再度電話をするように言われた。
 
 しょうがないので、その時刻にまた30分以上電話を握りしめてオペレーターに連絡を入れたところ、やはりない。
 
 その忘れ物問合せセンターは17:00までしかやっていないので、夕方に再度電話を入れたが、やはりなかった。
 
 せっかく、久しぶりに夫婦で温泉旅行を楽しんできたのに、最後にがっかりな出来事が起きてしまい、残念だった。
 
 最近私は年齢のせいか、集中力が衰えてきたような気がする。これは若い頃ひとつの物事に集中しすぎてほかを忘れてしまうという症状とは異なるような気がする。
 
 今回も電車に乗るときリュックを背負っていたのだが、余計な親切心を起こし妻の手提げ鞄を持ってあげた(慣れないことはするものではない)。そのまま電車に乗り、普段ならばリュックを膝に置くところを手提げ鞄があるために網棚においてしまった。そして降りる時に手提げ鞄だけを持って降りてしまった(らしい)。
 
 不幸中の幸いなのだが、普段はそのリュックの中に仕事関係の書類やパソコンなどを入れているところ、今回は100%プライベートの旅行だったので、仕事関係のものは入っていなかった。
 
 しかし、リュックの着替えの中には先日デパートで購入したばかりのけっこう高いシャツが入っていたし、洗面用具の中には髭剃り、医者の薬なども入っていた。
 
 これらの被害もさることながら、自分の中では「ひょっとしたら、これって認知症?」と心配になっている。
 
 そういえば、先月出張に出かける時に家の鍵を忘れたし、その前は新幹線の中に通勤定期を忘れた(これは見つかったので終着駅まで取りに行ってきた)。とにかく忘れ物をする頻度が最近増えてきた。
 
 しかし、がんの場合もそうかもしれないが、認知症にしても、検査に行って「はい、あなたは認知症です」と言われてしまったら、どう対応してよいかわからない。「物忘れ外来」という所もあるそうだが、とても怖くて行けない。
 
 がんにしろ、認知症にしろ、自分はいつそうなっても不思議ではない年齢になっており、その覚悟はしておかなければならないと思うのだが…。
 
 妻には、あなたの忘れ癖は今に始まった話ではなく、若い頃からなので心配いらないわよ~と言われたが、唯一彼女のこの能天気さが救いだ。
 

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