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不動産購入に残価設定ローン!?

1.残価設定ローンとは

「残価設定ローン」と聞くと、皆さん自動車の購入を思いつくかと思います。

残価設定ローンとは、数年後(3~5年後)の自動車の査定額(残価)を差し引いた残りの部分を分割で返済して支払うローンで支払うものです。数年(3~5年)経過したのちに自動車を返却すれば、販売会社が買取保証額(残価)を支払い、ローン完済となります。そのまま乗り続けたい場合は、残価を一括で販売会社に支払ったり、新たにローンを組んだりすることで、自分の所有にすることもできるというものです。

通常の自動車ローンより、月々の返済額が少額で済みますので、自動車の購入が促進されますし、いつもなら敬遠しがちな高級車に乗ることができるなどメリットもある一方、数年後の自動車返却時に設定した残価額より自動車の価値が低下している場合(走行距離の規定オーバー、事故歴・修理歴、車内の汚れなど)は、精算金を請求されるなど当初想定していなかったデメリットを被るおそれもあります。


2.住宅ローンに残価設定ローンが登場!? 

この残価設定ローンを不動産購入にも導入しようという動きがあります。

不動産購入にも残価設定ローンが利用できるとなると、毎月の返済額が低く抑えられるため、自宅を所有しようと考える人が増えると予想されます。現在は、「北海道R住宅ストック流通推進プロジェクト」の一環として取扱があるのみですが、このプロジェクトは国土交通省の「平成28年度長期優良住宅化リフォーム推進事業(提案型)」に採択され、補助金の対象にもなっているなど注目されており、2021年度には民間の金融機関が参加するモデル事業がスタートすると言われています。

不動産購入に残価設定ローンが導入された場合、将来の買取保証額(残価)を高くする必要があるため、高い住宅性能を備え、さらにその性能を長期間維持できることが重要になります。

それゆえ、残価設定ローン対象の不動産は一定の性能基準をクリアするなど制限が課される可能性があり、必然的に住宅価格が上昇する可能性もあるなど、制度の利用が進むかはまだ未知のものといえます。


3.不動産購入における残価設定ローンに問題点はあるか!? 

そこで、今回は、もし不動産購入にあたり残価設定ローンが利用できるようになった場合に、何らかの問題点があるかどうかを検討してみたいと思います。

⑴ 不動産の所有者は誰になる?

まず、自動車購入にあたり残価設定ローンを利用する場合は、その自動車の所有権を信販会社などに留保する形をとることが多く、不動産の場合にこの点をどうするかという問題があります。不動産の場合に、金融機関等に所有権を留保しておくというのは不動産を所有したいという購入者の意思と合致せず、また固定資産税の納付義務が金融機関等に課されるため、現実的ではありません。そのため、不動産の所有者は購入者とし、金融機関等が抵当権などの担保権を設定することになると考えられます(つまり、通常のローンと同様です)。


⑵ ローン返済が滞った場合はどうなる?

仮に購入者がローンの返済ができなくなった場合にどうなるか考えてみます。通常、金融機関等は抵当権などの担保権を実行して、当該不動産を競売にかけて残ローン金額を回収します。不動産が残ローン金額よりも安くでしか売れない場合は、ローン全額を返済することができず、足りない分はなお返済義務が残ります。他方、残ローン金額よりも高く売れた場合は、ローン全額を返済したのち、余剰は所有者に交付されます。残価設定ローンの場合も、この点は変わりがないと思われます。


⑶ 下取時期がきたときの処理はどうなる?

ここでは、当初の売買契約で5000万円の住宅について、下取時期を15年後、その買取保証額を2500万円と決めた場合で考えてみます。

15年間で2500万円を返済した際に、購入者が取り得る選択肢としては、自動車の場合とパラレルに考えると、

①住宅を手放して残りの2500万円のローンをなしにする

②残りの2500万円を一括で支払って住宅を取得する

③残りの2500万円について新たに住宅ローンを組む

という方法が考えられます。

①については、新たに住むための住宅を購入もしくは賃借する必要が出てきます。

②については、一括で2500万円を支払える人は限られてくるでしょう。

③についてはあり得るところですが、結局再度ローンを組むことになり、通常のローンよりも支払利息の総額は増える可能性があります。

このように見てみると、自動車と違って住宅は頻繁に買換えるものではないので、残価設定ローンを利用するメリットが自動車の場合より小さい気はします。

また、①の場合、その住宅を誰が引き受けるのかも問題になります。自動車の場合は、ディーラーが下取りし、基本的に同一のディーラーで新車を買換えることが想定されていますが、住宅を売主が下取りしてくれるとは言い切れないでしょう。住宅を引き受けてくれる会社が決まらなければ、①の方法はそもそも選択できないことになりそうです。

このあたりは、下取りを専門に行う公的な法人などを国が整備することになるのでしょうか。。。不動産の残価設定ローンの場合の課題といえそうです。

また、土地と建物の両方について残価設定ローンが利用できるとした場合、建物については自動車と同様、年月の経過によりその価値は減少するのが一般的ですが、土地については価値が減少するとはいえず、場合によっては下取時期である15年後に価格が上昇していることもあり得ます。

そこで、仮に、住宅(土地建物)を5000万円、下取時期を15年後、買取保証額を2500万円とする内容で契約をしたところ、15年後に住宅の価値が3500万円と評価される場合について考えてみますと、

購入者としては上記の①~③のいずれかの方法を選ぶことになりますが、せっかく価値が上昇しているので③の方法を選択することが多くなるのではないかと予想されます。

逆に15年後に住宅の価値が1500万円に減少している場合は、①の方法を選択することが多くなると予想されます。

不動産の価値が減少してしまっている場合には、購入者にとってはメリットがあるといえる反面、下取りをする者にとっては大きなデメリットになるといえそうです。このあたりの調整をいかにするかも今後の課題になると思われます。

4.まとめ

このように、不動産購入に残価設定ローンを導入する場合、一番の問題は下取時期における処理方法になるかと思われます。この点をどのように手当てする立法となるのか今後の展開に注目していきたいと思います。

色々と独自に検討してみましたが、まだ正式に導入が決まった制度ではなく、検討が不十分な点も大いにあるかと思います。あくまで現時点での一考察くらいに思っていただければ有り難いです。

 


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