奇跡①
長男が生まれた日、私は毎日毎日泣いていた。
嬉しくて泣いていたわけじゃなく、とても辛く悲しくて、どうしようもなく泣いていた。
なぜかというと、生まれてすぐに病気がわかったから。
「鎖肛」と言う聞き慣れない病名。
私の気持ちに配慮してか、個室に入院させてもらえたから、携帯でずっと病気のことを調べていた。
読んでいくうちに、同じ病名でも重いものと、軽いものがあることを知った。
息子のケースは、重いケースだった。
本当は個人病院で出産予定だったが、
「赤ちゃんに不整脈がみつかったので、大きい病院に転院できるようにします。」
と医師からお話があり、私は出産前に救急車に乗った。
人生で初めて。
私の体調がいたって普通で、陣痛もまだ来てないことを確認したからなのか、救急車の中は本当に寝て乗っていただけ。
病院について、
「赤ちゃんの様子を見ますね」
と検査され、やはり不整脈が見つかった。
医師からは、
「帝王切開にした方が安全だと思いますが、お腹に傷が残るかもしれないけどどうしますか?」
とお話があった。
一択しかない。
だから、
「切ってください。」
私はそう話した。今でも鮮明に覚えている。
私が痛い思いをするだけ、切って助かるならそれでいい。
その時はそんな気持ちだった。
すぐさま、手術室に運ばれて「緊急帝王切開」。
表現するならば、膨らんだお腹がゆらゆらしていて麻酔で痛みはないけれど、手術している感覚はあった。
陣痛の苦しみはわからないけど、いつ出産が始まるかわからないよりは良いかなぁと思っていたくらい。
「お母さん、これからお腹を少し押しますからね。もうすぐ生まれますよ。」
と言われ本当にすぐに長男の誕生。
「オギャー、オギャー」
の表現が正しいのか、うまく伝えられないけど、しっかり泣いてくれたから自力で呼吸ができたんだなぁと安堵。
私の横に子どもを連れてきてくれて、
「やっと会えたなぁ」
と思ったが、急いで記念写真をパチリとしたら、瞬く間に息子は看護師さんに連れていかれて検査。
不整脈があって帝王切開をしているから当然だ。
私は不整脈をクリアするために、帝王切開したのだからと、あとは何にも考えていなかった。
検査結果が告げられたのはその後、すぐ。
「不整脈は大丈夫そうです。ただ、『鎖肛』がみつかったので、赤ちゃんだけ別の病院へ転院して早く手術をしないと危険です。」
頭は真っ白に。
えっ、不整脈だけじゃなかったの?
鎖肛って何?
手術って?
転院は赤ちゃんだけ?
私は動けないため、家族が皆で協力してくれた。
今、冷静になって思えば『奇跡』
その時は取り乱していたから無理だったが。
なぜ、『奇跡』かはまた、次のお話で…
赤ちゃんだけ、新生児用の救急車に乗せられて転院した。
息子は生まれてすぐに救急車に乗ることに。
新生児しか乗れない救急車に。
鎖肛と言う病気について少し説明すると、簡単な表現をするならば、肛門がない、もう少しわかりやすい表現をすると排便ができないということ。
だから、翌日に手術をしないと命の危険がある。
人口肛門を作らないといけないから。
あの小さい体に傷をつけることに。
私の帝王切開の傷なんてなんてことないけど、小さい体に傷をつけることは、命のためとはいえ心が痛んだ。
私は、手術後だから動けない。
親なのに、何にもできない辛さ。
生まれたのが16時頃だっから、夜は早くきた。
私が転院した病院は総合病院。
入院した病棟は産科と婦人科が一緒だった。
ただでさえ、状況がわからず涙しか溢れてこないのに、追い討ちをかけるかのように、病院の夜はバタバタ目まぐるしい。
鳴り響く救急車のサイレンが続く。
耳を塞いでも聞こえてくる。
本来なら、
「赤ちゃんが無事に生まれました。母子ともに健康です。」
と赤ちゃんと一緒の幸せな写真を友達に送ることを想定していた。
しかし、そんなことはできない。
気持ちが沈んでいるところに、救急車のサイレンだけではなく、入院中の家族が公衆電話から悲しい知らせをしている。
病棟が婦人科も一緒のため、私のような出産だけの患者だけではない。
「ねぇちゃんが、、、死んじゃって、、、」
すすりなきしながら電話している中年の男性の声。
静まり返った病棟に泣き声が響く。こだまする。
私は慌てて耳を押さえるが、聞こえてくるものは消せない。
布団に潜りたくても、術後の点滴などついていて無理だ。
病院が古くて、耳に焼き付くくらいにしっかり聞こえてしまうのだ。
忘れられない。
息子は明日手術なのに、見知らぬ人の命の終わりを聞きながら、どうしても自分の子どもの命と重ねてしまう。
あ〜助けて。
そう叫びたい気持ち。
サイレン鳴り止んで。
誰か助けて。
涙が溢れて溢れて、鼻水も溢れて溢れて。
人生でこんなに涙を流した日はない。
その日の夜はずっと泣いていた。
私の気持ちはどん底にいた。
今は、そんな気持ちを持ったことを子どもに申し訳なく思うけれど。
続きは、また。
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