良くわからない政策①大学ファンド
日本人には歴史的に社会制度やシステムを外観だけ真似して導入して大事故を起こす伝統があるのだが、大学ファンドは近年試みられたその一貫である。
大学ファンドは日本の大学の研究開発を支援する試みであり、ファンドの分配益を大学に充てることを目指していた。
問題はこの大学ファンドはハーバードやイェールのようなアメリカの名門大学の基金にインスパイアされたのだろうが、そのような大学は私立大学として運営されており、基金は主に卒業生や富裕層からの寄付金を運用してきた。つまり、それらの大学基金は国民や有権者に対して説明義務のない基金であり、それ故にしばしばリスクが高い投資にも手を出すことができた。また、アメリカの私立大学は歴史的に連邦政府への不信感があり、結果として自力での資産運用を迫られてきた歴史もある。
一方で、日本の大学ファンドが拠出する対象の大学のほとんどが国立大学で、国からの助成金や補助金によって運営資金を賄ってきた。だからこそ国立大学の基金は国債のようなリスクの低い証券への投資を優先してきたし、卒業生や富裕層に寄付を呼びかけることもあまり重視はされなかった歴史がある。なおこれは世界共通で見られる現象であり、日本特有というわけではない。もちろん近年では研究活動の資金を外部の企業や富裕層から調達する試みが世界的に見られるが、やはり資金調達のノウハウが私立大学と比べると乏しく、成功したケースは限られている。
結局のところ、日本で導入された大学ファンドは国立大学への助成金を削減する口実として導入された絵空事であるように思える。そのような資産運用や資金調達に消極的な国立大学の姿勢を否定することもできるが、それは非営利として運営される国立大学という建付けを考えれば仕方ない面もある。むしろ日本の場合、政府が不景気でも資金を提供するエンジェル投資家だったからこそ科学技術分野での成功を1980年代までに収めることができたのだと思う。その歴史的事実を無視して、ハーバードのような基金を設立すればハーバードのように世界レベルの大学が自然にできるというのはかなり馬鹿げているし、誤った分析とそれに基づく誤ったアプローチが成功するほど世の中は簡単ではないのだ。
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