【まちで仕事をつくる】vol.02 郁文堂書店と山形ビエンナーレ2016
郁文堂書店の再生をどう進めるべきか、僕らは模索していました。そんな中、「山形ビエンナーレ」の会場候補として郁文堂が挙がっていると聞き、これは絶好の機会だと感じました。企画書を持参し、プログラムディレクターのナカムラクニオさんを訪ねると、僕らの突然の提案にもかかわらず、「素晴らしい!やろう!」と二つ返事で引き受けてくれました。ここから、ビエンナーレ最終日に向けて本格的な片付けの日々が始まりました。
片付けの作業は、単なる清掃以上に特別な意味を持っていました。店内には、長い年月が刻まれた本や思い出の品々が山積みになっており、それらの取捨選択には、伸子さん自身のたくさんの思いが詰まっているように感じました。一見、不要に思えるものでも、それがどんな記憶を宿しているのか、僕らにはわかりません。
「これ、どうしますか?」
「それは…いたますぃ(もったいない)ねぇ…」
そんな会話を繰り返しながら、一つひとつ確認し、慎重に進めていきました。このプロセスは単に物を整理するだけでなく、伸子さんの潜在的な思いや、この場所に込められた記憶を掘り起こす大切な作業でもあったのです。その過程で、ときどきお茶を飲みながら談笑するひとときが、自然と郁文堂サロンのような空気を作り出していました。
再び開かれる郁文堂書店
ようやく床が見えるくらいにまで片付いた頃、ビエンナーレ最終日を迎えました。移動書店「7次元」とのコラボレーションで、十数年ぶりに郁文堂書店がオープンする日です。SNSでの告知の成果もあり、100名以上の来場者が訪れ、店内は活気に溢れました。その光景に、「この場所には人を引きつける力がある」と確信しました。
イベントの終わり、伸子さんは静かにこう言いました。
「協力してもらえるなら、また開けようかね。店仕舞いを考えていたけれど、みんなに喜んでもらえて嬉しかったの。」
その言葉を聞いたとき、僕らは心から嬉しく思いました。毎日通い詰めたことで生まれた信頼関係が、この言葉を引き出したのだと感じました。そして、その後「郁文堂書店再生プロジェクト」は、町のニュースとして広まり、新たなステップへと進んでいくことになりました。