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【まちで仕事をつくる】vol.10 つくることの祝祭性 - 山形ヤタイワークショップ

僕らは、ワークショップの開催を前提にプロジェクトを依頼されることがあります。その多くは、コミュニティ形成を目的としたものです。たとえば、シャッター商店街化した通りや、そもそも祭りの定着していないニュータウンでの取り組みなど、さまざまな状況に対応するプロジェクトが進められています。設計プロジェクトでも、必要に応じてワークショップを行うことがあります。
そんな経験を重ねる中で「つくることには祝祭性があるのではないか」という仮説が頭に浮びました。地域の祭りや学校の文化祭を思い浮かべてみると、必ずものづくりを進める準備のプロセスがあります。そしてその中でたくさんのドラマが生まれます。実際に僕らが取り組んできたシネマ通りマルシェを通じて知り合い、結婚に至った後輩もいました。そんなエピソードを目の当たりにするたびに、つくることの中にある力を実感します。
最近では「場づくり」や「プレイスメイキング」といった言葉を耳にする機会も増えましたが、多くの場合、それは空間やハードの整備が中心に語られることが多い感じがします。しかし、「つくるという祭り事」を行うプロセスそのものに、新たな可能性が秘められているのではないでしょうか。それは単なる建築や空間設計では解決できない、もっと根源的な「まちづくり」の力になるのではないか予感しています。

山形ヤタイの東京進出

シャッター商店街で商売の可能性を提示することから始まった「山形ヤタイ」。それは商店街全体へと広がり、さらにレンタル事業へと発展していきました。そんな中、馬場先生から「南池袋公園周辺の新しい日常の風景をつくるnestという会社を立ち上げたのだけど、そこで山形ヤタイをワークショップ形式でつくることはできないだろうか」というお話をいただきました。この依頼は、僕たちにとって活動を広げる大きなチャンスに思えました。
「山形ヤタイ」は、汎用性の高い設計が特徴です。このプロジェクトは、その強みを活かして新しい場所で展開をする絶好のチャンスでした。僕たちはすぐに作り方のレシピや説明書をまとめ、材料の数量計算用エクセルも用意しました。

山形ヤタイ概要書
山形ヤタイ組み立て方

とはいえ、南池袋公園でのプロジェクトはこれまで経験した中でも最大級。ヤタイ30台を2日間で作り上げるという、とてもハードな計画だったのです。かつて、レンタル事業用のヤタイを4人で20台、2日間で作った経験はありましたが今回はワークショップ形式。参加者のスキルレベルがさまざまであることを考えると、不安が募りました。
それでも何かが不安でその正体すらつかめない状態に陥りました。「わからないことが何なのか、わからない」という感覚。慎重に準備を進めましたが、時には見落としもあるものです。結論として、どんな状況であれ、そのときのベストを尽くして挑むしかないという答えにたどり着きました。準備を整え、東京・池袋へと向かいました。

山形ヤタイワークショップin南池袋公園

初めて訪れた南池袋公園。広がる芝生の広場、その周囲にはベンチや段差に腰掛ける人々。芝生の上ではピクニックやヨガを楽しむ人たちがリラックスし、敷地内のカフェでゆったりと過ごす姿が目に映ります。卓球台で遊ぶ子どもたち、そしてそれを見守る親たち。まるで街のリビングルームのように、それぞれが思い思いに過ごす公園の風景に、心から感動しました。
そんな心地よい空間の中で、「山形ヤタイワークショップ」がいよいよスタート。開催日は7月1日と2日。蒸し暑さが続く中での作業となりました。参加者は15名。5人ずつの3チームに分かれ、それぞれのペースで作業を進めます。

山形ヤタイワークショップの様子

図面を見ながら指示を出す人、鉛筆で墨出しをする人、工具を手に穴あけやビス打ちをする人。自然と役割を見つけ、コミュニケーションを取りながら一体となっていく様子が印象的でした。特に、穴あけやビス打ちといった作業は、工具を扱う経験が少ない参加者にとって新鮮な体験だったようです。繰り返すうちにスキルが上達していく手応えを感じ、自信を深めていく姿が見られました。
さらに、このワークショップを公園の一角で行ったことで、通りすがりの人たちが興味を示してくれました。「何をしているんですか?」と声をかけてくださる方々には、ヤタイの用途やワークショップの意図を説明。その中には「こういうのに参加してみたい」「完成したら見に行きます」と言葉を残してくださる方もいました。オープンな公園という環境だからこそ、活動が自然と広がり、新しい繋がりが生まれる可能性を感じました。

nest marcheバナー

しばらく経ってから南池袋公園で撮影された山形ヤタイの写真を受け取りました。それは隈研吾さん設計の巨大な豊島区役所を背に、小さなヤタイが並ぶ風景でした。その写真を見てふとおもったのです。
これまで誰にも作れないものを生み出すことがデザイナーや建築家の職能だと考えていました。しかし、もしかすると誰でも作れるものを考えることも、これからの建築には必要なのかもしれない。小さくとも、それらが集まり、繋がることで新たな価値が生まれる可能性がある。そんな思いが湧き上がりました。
その後「山形ヤタイ」は全国へ広がり、2023年までに14自治体でワークショップが開催されるプロジェクトへと成長していきました。

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追沼翼 | Tsubasa Oinuma
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