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【まちで仕事をつくる】vol.09 シネマ通りマルシェ・道路活用でみえた新たな可能性

シネマ通りマルシェのはじまり

山形ヤタイを使った「トライアル軒下ヤタイ」は、空き物件オーナーに対して十分なメリットを提示できず、BOTA coffeeの軒下活用を超える展開には至りませんでした。それでも、僕らは手応えを感じていました。
「もし通り全体の風景を変えることができれば、シネマ通りのイメージを刷新できるのではないか。」その思いを胸に、レンタル事業で製作した20台ものヤタイを活用する新たな挑戦を始めました。様々な助言を受け、BOTA coffeeとOF THE BOXで「シネマ通りマルシェ実行委員会」を立ち上げました。こうして「シネマ通りマルシェ」の企画が走り出したのです。

はじめての道路占有許可

「道路はどうやって使用することができるのだろう?」
いままで漠然と、公共空間は使えないものだと認識していました。しかし、全国で行われている取り組みを知っていくうちに「どうやら使えるらしい」ということがわかりはじめました。
道路を使用するためには、警察署への道路使用許可申請と、道路管理者である役所への道路使用届出が必要でした。しかし、山形市ではこれまでに民間による同様の事例がなく、具体的な手順やフォーマットも整備されていない状況でした。そこで僕らは山形市の職員さんの協力受けながら、申請方法や書類のフォーマットを一つずつ整理していきました。
初めての申請は手探りの連続でしたが、手続きを進める中で「前例がない」ということがあらゆる取り組みの壁になること知りました。ひとつでも多く実践を積み重ね、申請手順や書類フォーマットを共有し、行政・民間事業者間でノウハウを蓄積していくことが、持続可能な公共空間活用のために欠かせないと強く思いました。

シネマ通りマルシェスキーム

シネマ通りマルシェキャスト

「シネマ通りマルシェ」を開催するにあたり、運営スタッフが必要でした。「僕らのまちへの思いに共感する必ず学生がいるはずだ」と信じて、東北芸術工科大学の他学科、さらには山形大学にも飛び込み、声をかけました。
その結果、集まったのは総勢30名以上の学生たち。僕らは全国の先人たちの取り組みに倣い、彼らをボランティアではなく「キャスト」と呼び、ともに場を作る一員として活動しました。キャストたちは、ヤタイの組み立てから歩行者の誘導まで、まちづくりの現場で多岐にわたる役割を担ってくれました。
それまで東北芸術工科大学と山形大学の学生たちの間には、ほとんど交流がありませんでした。しかし、異なる学びや視点を持つ彼らが一緒に作業をする中で、新しいつながりや発見が生まれました。この交流は、ただ「マルシェを成功させる」という枠を超え、とても良いものだったと感じています。

常に追沼、芳賀、堀内の3人でプロジェクトを進めてきたけれども、多くの人と関わり進んでいくプロジェクトの勢いにこれまでにない感覚を覚えました。その時ふと、どこかで見聞きした言葉が頭をよぎりました。

「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け。」
この時、この言葉の意味がやけにしっくりと心に落ちたのです。

通り全体で見せる商売の可能性

2017年から2019年まで「シネマ通りマルシェ」は、山形市のシネマ通りで開催されました。毎回20~30店舗が出店し、来場者数は多い時で約2,000人に達しました。僕らの取り組みは、あくまで小さな一助ではありますが、このマルシェを通じて、通り全体で商売の可能性を少しでも感じてもらえたのではないかと思っています。
このマルシェに合わせて行われていた「空き物件ツアー」は、山形リノベーションまちづくり協議会との開催でした。ツアーでは、シネマ通り周辺の空き物件を10~20名のグループで内見し、物件の持つポテンシャルを直接体感してもらうものです。このツアーをきっかけに、新たな洋菓子店が開業しました。
こうした変化を見るたびに、僕らの取り組みがほんの少しでも通りの賑わい作りに貢献できたのかもしれない。そう思えました。そして同時に、「まちの風景はそこに住む人々の暮らしの現れ」なのだと実感するようになりました。

自分が役に立っていると感じることを「自己効力感」というそうです。ぼくらは、まちに触り、多くの人々に受け入れてもらえたことで、この自己効力感がどんどん高まりました。そして、まちづくりにおける自分たちの可能性を実感し、積極的に町に関わりたいという意志が強くなったのです。
こうした経験を重ねる中で、もっとまちについて深く考えたい、学びを深めたい、という思いが芽生えました。そして、大学院への進学を決意したのも、ちょうどこの頃でした。


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追沼翼 | Tsubasa Oinuma
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