【まちで仕事をつくる】vol.05 まちの居場所
郁文堂書店との出会いから6年後の秋、2022年10月20日、郁文堂書店のオーナー原田伸子さんが旅立たれました。いつかその日が来るとわかってはいたものの、どこかでいつまでも続いていく、と思い込んでいたのかもしれません。
何かつけて郁文堂書店を訪れては、今どこでどんな仕事に取り組んでいるのかを報告し、運営を手伝う学生の話や、最近の伸子さんの近況を聞かせてもらいました。お茶と漬物を用意して迎えてくださる伸子さんの笑顔が、いつもそこにありました。時には、町のイベントや出来事を知らせるメールをいただき、僕らの活動を応援してくれただけでなく、多くの方に話してくださったことも、今となっては懐かしい思い出です。
振り返れば、僕らを最初にまちに受け入れてくれたのも、山形の町についてさまざまなことを教えてくれたのも、紛れもなく伸子さんでした。その存在の大きさに改めて気づかされる今、郁文堂書店は僕にとってまちの居場所であり、心の拠り所でもあったのだと実感しています。
これからは、伸子さんの娘さん2人ができる範囲で郁文堂書店を続けていくと伺いました。形を変えながらも、この場が残り続けることには、大きな意味があると思います。それは、単なる空間の存続ではなく、長い歴史や人々の営みが言葉や記憶となって次の世代に引き継がれていくこと。その思いが、新たなインスピレーションを生み、未来へと繋がっていくのではないかと感じています。
七日町シネマ通りを訪れるたびに、ぼくはきっと伸子さんのことを思い出すでしょう。そのたびに、町と向き合い続ける勇気をもらい、静かに背中を押される気がしています。