
【まちで仕事をつくる】vol.11 つくることの祝祭性 - ながいアフタースクール
風景から素材をとりこむ
2020年、山形県長井市を拠点に新たに始まる探求型教室「ながいアフタースクール」。この社会実験としてスタートする新しい学びの場の空間設計を依頼されました。「ながいアフタースクール」は、従来の学校や学習塾とは異なり、子どもたちの自発的な学びや成長を促す場を目指しています。
依頼を受けた初期の打ち合わせで担当者からこんな言葉をいただきました。
「できればつくる過程も子どもたちと一緒にできるといいのですが、やっぱり空間づくりは難しいですよね?」「たしかに塗装などであればできるかもしれないですね」と返答したものの、どのように子どもたちを巻き込みながら空間をつくるか、考える必要がありました。
僕たちのプロジェクトは、必ずカメラを片手にフィールドワークから始まります。ファインダーを覗くことで、無意識に見逃してしまうようなまちの特徴を意識的に切り取ることができるからです。長井のまちを歩いていると、一つの共通点が見えてきました。それは、ほとんどの家に一本の柿の木が植わっていること。そこで、担当者に相談し、最も大きな柿の木のあるお宅から渋柿を分けていただきました。


その柿を集めて、子どもたちと一緒に「柿渋をつくるワークショップ」を行うことにしました。柿渋とは、平安時代から使われてきた天然の塗料で、防虫・防臭効果があります。単に空間を提供するだけでなく、子どもたちが自ら道具や材料をつくる経験をし、それを使って家具の塗装をする。そんなプロセスを計画しました。
ワークショップを通じて、子どもたちは自分たちでつくった塗料を家具に塗り、その成果を目にしました。親御さんからは「塗料って自分たちでつくれるんですね!」という驚きの声があがり、子どもたちは「自分たちでつくった」という達成感を持ち帰りました。


僕自身、幼稚園で食パンに食紅で絵を描き、バターを塗って食べた経験を今でも覚えています。このプロジェクトが、参加した子どもたちにとってそんな記憶のひとつになってくれたら、と願っています。
環境や学びの中でどんな興味を持ち、それがその後の人生にどんな影響を与えるのか。それは、僕自身の経験からも強く感じていることです。そして、「ながいアフタースクール」での時間が、彼らにとって小さな「探求」の種になればと思っています。

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