因果応報

理由はほぼ無かった。ただなんとなく旦那さんがお風呂に入っているうちにゴミを出しに行って、お風呂を出たら誰もいないドッキリをしようと思った。
浴室の音を聞いて出てきそうなタイミングの前にゴミをまとめて家を出た。
エレベーターを降りてゴミを捨てたが、もしかしてまだ出てきていないかもとふと思い、少しだけ散歩をして時間を稼いでから帰ることにした。
22時を過ぎた頃だったが、なんてことない家の周りの明るい道をくるりとするだけ。時間にしたら5分もかからない道のりだった。
ゴミ捨て場を出て歩き出すと、目の前からカップルが向かってくる。そこまで広い道ではないし、なんとなくその人たちとすれ違いたくない気持ちが湧いて反対側の歩道に移ろうとしたとき、車道に奇妙なものがあった。直感だった。見てはいけない。それが何か探ってはいけない、考えてはいけない。そう思った。
しかし視界にそれを入れてしまった、考えてしまったのだからもしかしたら憑いてきてしまわないかという不安から、心の中で必死に成仏してほしい安らかにと何度も何度も願った。
子供の頃に見たテレビでそうしなければ憑いてきてしまうと見たからだ。子供の頃の記憶なんてほとんど忘れてしまっているのに、そういうピンポイントなことは覚えているものだ。
これ以上は考えてはいけない。そう思い違う道を使って家に帰ることにした。夏に入ったといってもまだ夜は涼しくて、気持ちよく歩いていた。目につくものが夜の色に染まって昼とは違った世界のように感じられた。
夜の散歩も悪くないな。
さぁ、あと20秒ほど真っ直ぐ進めば家に着くというところで、向かいからTシャツにゆるいパンツと明らかに部屋着の男性が歩いてきた。夜道で少し警戒心は持っていたが、私の目の前の十字路で曲がっていったのですれ違うことはなかった。しかし曲がる直前にこちらをチラリと見たのが気になった。男性が曲がった十字路を過ぎてふと振り返ると、角から男性の服が見えた。なぜ。なぜまだそこにいる?おかしい。
このまま家に入ってはいけないと警鐘が鳴った。かといって不用意に近づくのも危険。反撃できるものも無いし、サンダルを履いていては全力で逃げられない。
本当の家の2件手前の家の前で立ち止まって、ポケットからスマホを出して操作する仕草をとった。実際はスマホなんて持ってなかったからフリしかできなかった。
そしてまたチラと同じ角を見ると男性の服が少しウロウロとしてから、奥に消えていったのを見てとても安堵した。本当になんだったんだ。ただわたしが警戒しすぎだったのかそれとも…

ほんの5分程度の散歩だったのに、ひどく疲れた。きっかけはちょっとした悪戯心でしかなかったのにこの仕打ち。
いや、これも因果応報なのかも。

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