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【1000文字小説】メッセージの受け止め方

 父は、何も言わずに背中だけを見せていた。
 青いポロシャツを着て。

 で?
 何も言わなかったので、わかりません。
 明け方4時に、夢枕に立ってなんだっていうんでしょう。
 父、5年前に他界してるんですよ。

 父の父、つまり祖父が夢枕に立つのは分かりやすかった。
 8月のお盆にお墓参りに行かないと、わたしの夢枕に立つ。
 何を言うわけでもないけれど、昔の家そのままのところでこたつに入って、お茶を飲んでいる。いや、お茶じゃないな。日本酒だな、常温でコップ酒だな。そういう祖父だったから。
 お墓参りに行けないのは、体調とかスケジュールの問題で、決して忘れているわけではありませんよ。祖母もお墓に入っているしね。
 祖父が夢枕に立った翌日に、母に電話して、あの~おじいちゃんが夢枕に立ったのでお墓参りに行きたいんだけど、いつ行ける? と。母も父(当時はまだこの世の人でしたので)も夫も急いでスケジュール調整して、1日がかりででかける。
 お墓参りして、ご飯食べて日帰り温泉に行くのが楽しいのよね。

 なんていうか、そういう、明確なメッセージが、ない。
 父が夢枕に立つからって何なんだろう。
 お墓参りの時期じゃないし、そもそも8月か9月にはちゃんと行ってるし。
 夢の中で聞けたら、ちゃんと用件聞いておくんだった。
 言ってくれればいいのに。
 そっち側ではできないことが、こっち側ではできるかもしれないし。
 逆もあるのかな。こっち側ではできないことがそっち側ではできるから、って言ってくれてるのかな。

 明け方の夢って、正夢になるっていう夢占いもあるそうな。
 とはいえ、そっち側に行っちゃった父が生き返るわけでもないし。
 父がまたこっち来たら、楽しい反面面倒なこともある。はず。よくわかんないけどね。

 青いポロシャツ。
「青」っていう色が引っかかって、イメージを調べてみる。
 冷静・沈着・クール・落ち着き。
 わたしに「落ち着け」って背中で語ってくれたのかな。

 父が夢枕に立った前日、わたしはひどく怒っていた。
 しようもないことで、こっちが譲ればそれでいいことなんだけど、わたしには理不尽だと思って、怒っていた。
 そこを、まあいいじゃないか冷静になってたいしたことじゃないんだと思って、大人の対応をしようよ。冷静になって。

 そう言いたかったのかな。
 青いポロシャツを着た父の後ろ姿。

 次に夢枕に立つ時は、ちゃんと何か言ってください。


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中野谷つばめ
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