さいごの風景【ショートストーリー】
お通夜は、おばあちゃんの家で行われた。
泣いたり笑ったり、大人たちは朝から忙しい。私はそっと、寝室へ逃げこんだ。
両親が出張のときは、いつもここでおばあちゃんと眠った。
壁に何枚もはられた、雑誌の切りぬき。そのほとんどが、海外の風景だ。
「遠くには行けないから、写真を見るだけでいいの」
これはベルリン、こっちは上海、これがカナダ…
日本を一度も出なかったおばあちゃんは、嬉しそうに写真を眺めていた。
「みえこ、どうした」
振り向くとお父さんがいた。
「この写真もらっていい?」
そう尋ねると、お父さんは初めて写真に気づいたみたいだ。
「みえこは、外国がすきか」
「わかんないけど、おばあちゃんが大切にしてたから」
お父さんは写真を眺め、肩を震わせ泣きはじめた。
写真は集まったみんなで、一枚ずつ持ち帰った。
私がもらったのは、白い砂浜と、エメラルド色の海の写真。
裏にはおばあちゃんの美しい字で、「ギリシャ」とだけ書かれていた。
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お読み頂き、ありがとうございました。
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