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屋台・移動式家具について

屋台も、設えの中では特別なものの一つと言える。窓辺における窓や建具も開閉という意味では可動式だが、屋台は、移動し、他の地で居場所を即座に構成することができる。
今まで設計してきた屋台や可動式の家具というのは、必ず依頼者がいた。そして量販店の安い家具でも良さそうだが、自分の活動やそれに伴う身体の振る舞いに最適化した装置はやはり作らなくてはならない。
いままで設計してきたのは屋台もあれば、モバイルファーニチャー、ベンチなど多岐にわたる。
屋台・移動式家具のポイントはいくつかあるが、一つ私が大事にしていることがある。
存在感を示すことそして同時に、存在を消すこと。
存在を消すというのは、活動よりも屋台が目立ってはいけないことや、撤収が容易であること。
ハキムベイという思想家のT.A.Z(一時的自律ゾーン)というテキストをヒントに色々と考えてみると、(ウェブで全文が公開されてる)存在を示すことよりも消すことが屋台のデザインにとって重要なのではないかと思うようになった。
いくつかケーススタディ的にこれまで手がけた屋台(移動式家具)について以下に簡単に書く、

ジュエリーブランドcobacoの屋台(ツバメアーキテクツ設計/2019)

建築や家具の寸法よりも遥かに繊細なものをあつかう屋台(展示台)であるために、脚を消そうとした。12ミリの脚と9ミリのブレース。脚のネジを切って脚と同じ太さのアジャスターを特注している。

7つのテーブル(ツバメアーキテクツ設計/2016/photo by Kenta Hasegawa)
SHIBAURA HOUSEの中に作った移動式家具。SHIBAURA HOUSEはまさに公園ような建築なのでどこでも食べたり集まったりするための組み合わせ自由な家具を考えた。キッチン部分はポンプやIHを仕込んだ移動式キッチンというお題にも答えている。

グランドレベルのマイパブリック屋台(ツバメアーキテクツ設計/2015/photo by Kenta Hasegawa)
おそらくこれがきっかけで屋台をたくさんつくるようになった。グランドレベルのお二人から「場を作りたい、しかしお店ではおそらくなく、しかも金銭のやりとりではなく特技を交換するような何か」というお題をいただき、マトリョーシカ型の屋台を考えた。三つのオブジェクトをひとまとまりにすれば車に乗るサイズとなり、展開すればある程度の広さの場を即座に構築できる。

容易に処分できないように(活動が長く実践してもらえるように、という意味)溶融亜鉛メッキを施したスチールのアングルで組んだ。重量はギターアンプくらい、ということで納得していただいた。

トーキョーベンチプロジェクト(グランドレベル企画、ツバメアーキテクツ設計、2019)
これは屋台ではなくベンチであるが、移動式家具を複数で用いることで都市的に展開するとどうなるかというトライアルである。
公開空地などに20台の普通ベンチと、1台の二倍ベンチ(すべての寸法を二倍にしている)を作った。イベントモード、日常モードなどフォーメーションを変えて現れる。

屋台や移動式家具の可能性は、都市の空き地や公開空地、家や見せの前、土間空間などにスルスルと入り込んで、その場所に特徴的な活動を立ち上げるということだ。
そして建築ではないのである程度自由に考えて良い設えではあるものの、公開空地や公共的な場所での利用に関しては社会はなかなか寛容ではない。(何か問題があったらどうするんだ、といったリスクが気にされる)
最後のトーキョーベンチプロジェクトも初めは、アートプロジェクトとして公開空地にて1ヶ月実施し移動した。ただの単なるベンチなので出来上がったあとは即座にその場に馴染み、撤収後もアーツ千代田3331に引き取られエントランスに鎮座している。
「存在感を示すこと。そして同時に、存在を消すこと」という視座は、設計だけでなく運用においても達成できると、いろいろな枠組みを駆使して屋台を出現させたり消失させたりすることで、都市に復権できるだろう。

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